S.T.が東雲たくまだと確かめた翌日、篠宮初音はすぐに配信プラットフォームに連絡し、投げ銭した全額の返金を求めた。
当初、プラットフォームは利用規則違反を理由に拒否した。
未成年による不正利用だと証明されない限り返金できないというのだ。
篠宮は担当者と繰り返し交渉し、許可してくれないと配信停止と宣言した結果、ようやく渋々応じたのだった。
「二度と姿を見せないで。吐き気がする」
「あなたを愛したことを後悔してる…」
東雲たくまが目を見開いた。
瞳孔が縮み、絹のパジャマが鍛え上げられた上半身に冷たい汗で張りついている。
ベッドから起き上がり、顔を強くこする。
昨夜はうつろな状態で帰宅後、高熱を出した。
今は汗も熱も引いているが、悪夢の余韻がまだ体にまとわりついていた。
シャワーを浴びるため浴室へ向かう。
戻ってくると、ベッドサイドのスマートフォンのスクリーンが光っているのに気づいた。
ロックを解除し、お知らせを確認すると——昨夜篠宮初音のために投げ銭した数千万円分のギフトが全額返金されていると書かれており、彼はその場で凍りついた。
彼女は本気で、一切の縁を断とうとしているのだ。
一円たりとも関わりを持とうとしていない。
東雲は苦しそうに目を閉じ、拳を固く握りしめた。
激しい葛藤と後悔で全身が震え、硬直している。
一体、自分は何をしてしまったんだ!
白石香澄が東雲たくまからの電話を受けた時、まだまどろみの中にいた。
「はい、たくま。今起きるから、30分後には着くわ」
帰国後、東雲が初めて自ら会おうと言ってきた。
狂喜が彼女を包み込み、彼の声に込められた冷たさと怒りには全く気づかなかった。
白石は鏡の前へ駆け寄り、次々と服を当ててみたが、気に入るものがない。
白石家が経営危機に陥ってから、彼女の小遣いは大幅に削られ、長い間新しい服を買っていなかった。
心の中で誓う。
東雲たくまを手中に収め、東雲家の奥様になったら、ダイヤモンドに高級腕時計、超高級車を買い漁ってやる。
それらこそが、白石香澄という自分にふさわしいのだ。
これから訪れるぜいたくな暮らしを想像すると、ますますテンションが高まった。
最終的にチェックのスカートを選び、ピュアなキャラをキープ。
昨日、篠宮初音にコーヒーをかけられた時にできた赤みは、厚めのファンデーションで入念に隠した。
あの屈辱を思い出すと、彼女の美しい顔が一瞬で歪み、見た目のピュアさとまったく噛み合わなかった。
いつか必ず篠宮初音を踏みつけてやると心に誓うのだった。
東雲たくまをなかなか手懐けられないことで、家族からは冷やかされ、特に母親からは「役立たず」「男一人落とせない」「家の役に立たない」と罵られていた。
白石香澄は腹の虫が収まらなかった。
わざと母親の前に歩み寄り、髪をかき上げながら言った。
「お母さん、行ってくるわ。たくまが呼んでるの」
「たくま」という言葉を特に強く強調して。
白石の母親は跡取りである息子たちを偏愛し、娘には元々冷たかった。
白石家が繁栄していた頃はまだ良かったが、今は危機に瀕して、娘の全てが気に入らないらしい。
白石香澄は決意していた。
たとえ東雲たくまを手に入れても、すぐには白石家を救わせない——家族に土下座してもらい、頼み込ませてやるつもりだった。
母親はそれを聞くと、目を輝かせてソファから飛び起きた。
「香澄、本当なの?」
「お母さん、そんなことで嘘つきます?」
母親の顔がたちまちほころんだ。
「そうかそうか!やっぱりあの子は昔からお前のことが好きだったんだ。心変わるわけないよ!香澄、今度こそ確実に掴みなよ。気取ってる場合じゃないからな、わかったか?」
「わかってるわ。たくまが待ってるから、行くわね」
「そうだそうだ!」母親はこびるように彼女を玄関まで見送った。
東雲たくまが指定した場所は非常に辺鄙で、明らかに人目を避けたがっている。
店員に個室へ案内されると、東雲はもう待っていた。
彼女は向かい側に座り、バッグを置いた。
「たくま、どうしてこんな分かりにくい場所で?すごく探したんだから」
個室の薄暗い光の中で、彼女は東雲たくまの険しい表情と抑えきれない怒りに気づかなかった。
「お前、初音に会いに行ったのか?」冷たい声が響いた。
白石香澄の心臓が跳ね上がり、ようやく彼の様子がおかしいことに気づいた。
テーブルの下で手がももを強くつねり、平静を装うことにした。
「彼女、何か言ったの?」
「白石香澄、お前が彼女に何を言ったかと聞いているんだよ!」怒りに満ちたその声は鋭い刃のようで、白石香澄の心臓を直撃した。
彼女の顔が青ざめ、下唇を強く噛みしめて深い歯型がついた。
まさか篠宮初音が告げ口をするとは!なんて陰険な女だ!離婚もきっと何らかの欲擒故縦の手だったに違いない!東雲たくまが篠宮初音を意識し始めたのは離婚後だ。
これで彼女の推測は確信に変わった。
篠宮初音はなかなかのやり手だ。
今まで甘く見ていた!
白石は理性を取り戻し、素早く目に涙を浮かべて、猫をかぶった。
「たくま、私はただちょっと冗談しただけなのに…彼女は狂ったみたいに、熱いコーヒーを私の顔にかけたの!まだ痛いわ、私の顔を潰そうとしてるのよ!」
彼女はいつもの手を使った。
これまでなら、東雲たくまは迷うことなく彼女の側に立ち、篠宮初音を屈服させて謝らせた。
今回もきっとそうなるのだ。
顔を手で覆って泣き真似をしながら、口元には嘲笑を浮かべた。
「黙れ!」東雲たくまがテーブルを激しく叩いた!湯呑みが跳ね上がり、熱いお茶が飛び散る。
受け皿がカチャンと鋭い音を立てた。
白石香澄は凍りつき、青色が青ざめた。
「白石香澄!誰の許しがあって、篠宮初音に『たくまと一緒になった』とか『お腹に子供がいる』なんて言うんだ? え?」
彼女を永遠の憧れだと思っていた頃でさえ、正式に告白したことはなかった。
今、彼は完全に理解した。
白石香澄はとっくに彼の気持ちを知りながら、知らんぷりを決め込み、絶妙な距離感で彼を弄び続けていたのだ!
神聖な存在だと思っていた初恋が、ずっと自分を愚か者扱いしていたなんて!
まったくもって許しがたい!