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第32話

篠宮初音は東雲たくまの変化を感じ取った。


この変化が良いものか悪いものか、彼女にはわからない。


ただ一つ確かなのは、それは自分とは無関係だということ。


どう応じればいいかわからず、彼女は黙り込んだ。


東雲たくまもそれ以上何も言わず、東雲明海を強引に連れて食べ物を買いに行った。


東雲明海と篠宮初音を二人きりにさせたくなかったからだ。


長い病院の廊下を、二人の背の高い人影が並んで歩いていく。


「明海、初音が俺を許そうが許すまいが、お前を受け入れることはない」東雲たくまはすでに、篠宮初音が東雲明海の告白を拒んだことを知っていた。


彼女が他の誰かを好きにならなければ、自分にはまだチャンスがある。


だがたとえ彼女が別人を愛したとしても、絶対に手放すつもりはないとも悟っていた。


彼は彼女を失った。


必ず取り戻さなければならない。


彼女は自分のものだ!


東雲明海は片手をポケットに突っ込み、口元と目元に嘲りを浮かべた。


「兄さん、それはお前が決めることじゃない。初音が最終的に僕を受け入れるかどうかはわからないが、お前が何をしようと、彼女が再びお前を受け入れることは絶対にないってことはよくわかってるよ!お前は、もう失格だ」


たくまは突然足を止め、拳を固く握りしめ、刃物のような眼差しで東雲明海に突き刺した。


東雲明海は少しも怯まずに向き合った。


「どうだ?ここで手を出すつもりか?本気で?」


東雲たくまはもちろんそんなことはしない。


ここは聖心医科大学付属病院で、おじいちゃんはまだ救命処置中だ。


怒りを抑え、東雲明海を押しのけ、売店へと大步で向かった。


たくまはパンと牛乳を買った。


全ては篠宮初音のために買ったのだ。


東雲明海もその後につき、同じものを買った。


薄暗い段階室で、たくまの母親は完璧なメイクと豪華な衣装に身を包み、篠宮初音を見下ろす視線には相変わらず高慢と軽蔑が満ちていた。


息子から篠宮初音を尊重するよう警告されていたが、彼女の骨の髄までこの孤児院出身の女を見下す気持ちは消えていなかった。


誕生祝いの宴で篠宮初音がたくまのプロポーズを公然と拒んだことは、たくまの母親にとって「身の程知らず」と映るだけだった。


「篠宮初音、あなたは一体どうするつもり?」たくまの母親は威張りくさった。


かつての篠宮初音は東雲たくまのためにあらゆる屈辱に耐えてきた。


今はもう、耐える必要などない。


「たくまが謝ってまでプロポーズしたのに、あなたは拒むなんて、つけあがりもいいところ!」


篠宮初音は彼女を見た。


その眼差しは、たくまの母親がこれまで見たことのない冷たい殺気に満ちていた。


わずか数ヶ月で、初音のかつての慎ましさや媚びは跡形もなく消え、氷のような冷たさだけが残り、たくまの母親の心臓をぎゅっと掴んだ。


「おばさん、もしこれだけの話なら、私たちに話す必要はありません」


「おばさん?今なんて呼んだの!?」東雲の母親は立ち去ろうとする篠宮初音の腕を掴んだ。


「私は東雲たくまと離婚しました。そう呼ぶべきではないですか?」


篠宮初音の声には焦燥感がにじみ、手術室の東雲宗一郎を気遣っていた。


振り払おうとしたその時、たくまの母親が手を振り上げ、彼女の頬を打とうとした!


篠宮初音はしっかりとその手首を掴んだ!


年長者という立場を慮らなければ、とっくに張り倒していただろう。


強く握りしめ、たくまの母親は痛みで冷や汗をかいた。


「篠宮初音!放しなさい!」


篠宮初音は手を緩めず、冷たく言い放った。


「あなたは年長者ですから、手は出しません。だがこれ以上道理をわきまえないなら、容赦しませんよ」


そう言ってぐいと押しやった!


たくまの母親はみっともなく床に転がった。


息子から受けた鬱憤と、今まさに見下していた者に教え込まれた屈辱で、彼女の我慢は限界に達した。


「篠宮初音!あなたなんかにたくまを操る権利なんてない!私がいる限り、東雲家の門を再びくぐらせるものか!」


「バン!」と階段室のドアが勢いよく開かれた。


東雲たくまが怒りに染まった顔で駆け込んできた!


たくまの母親は救世主を見たように、すぐさま立ち上がり彼の腕をつかんだ。


「たくま!この女が私を殴ったのよ!懲らしめてちょうだい!」


篠宮初音は眉をひそめ、冷たい眼差しで東雲たくまの怒りを受ける準備をした。


過去、たくまの母親がどんなに理不尽に初音を責めようと、母親が一言命じれば、東雲たくまは初音を罰した。


別邸に閉じ込め、食事を与えず……最もひどい時は三日三晩監禁されたこともあった。


それを思い出し、初音の体は本能的に微かに震えた。


たくまの母親はその震えを見て、口元に勝ち誇った笑みを浮かべた。


しかし次の瞬間、東雲たくまは母親の手を激しく振り払い、「ドスン」と音を立て、篠宮初音の前に跪いた!


「初音!これまでのすべて、母の行為を俺から謝罪する!そして俺自身がお前に与えた全ての傷も、改めて詫びる!許してくれ!」


この光景は、たくまの母親にとって顔面を強打されるよりも屈辱的な一撃だった。


「頭がおかしくなったの!?立て!こんな女に跪くなんて!」


東雲たくまは母親を無視し、必死に篠宮初音を見つめた。


篠宮初音の心には一片の快哉もなく、ただ徹底的な無関心だけがあった。


「とっくにどうでもいいことです。だから許すも許さないもありません」


彼女の声は平静そのものだった。


「どうか慈悲を垂れて、これ以上私の人生を乱さないでください」


そう言い残すと、彼女はためらうことなく背を向けて去った。


東雲たくまは床に崩れ落ち、痛みも感じないかのように、冷たい床へ拳を叩きつけた。

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