ここ数日、東雲たくまは狂ったように篠宮初音を探し回っていた。
彼女の情報がつかめないことで、一分一秒が彼を崩壊の淵へと追いやっていた。
彼は彼女の冷たさには耐えられたが、目の前から消えてしまうことには耐えられなかった。
たとえ天涯地角に逃げたとしても、必ず彼女を連れ戻すと心に誓っていた。
離婚後、篠宮初音は東雲たくまの偏執ぶりを目の当たりにしていたが、ここまで狂気じみるとは思っていなかった。
彼がいつか自分を監禁するのではないかとさえ疑うほどだった。
もはや逃げ場はない。
バッパックを新幹線の荷物棚に載せ、窓際の席に座ると、東雲たくまがすぐ横に座り、彼女の左手をぎゅっと掴んだ。
「東雲たくま、離して」篠宮初音は声を押し殺した。
東雲たくまは聞こえないふりをし、緩めるどころかさらに強く握りしめ、指を絡ませてきた。
篠宮初音は何度かもがいたが無駄だと悟り、諦めた。
新幹線の中で騒ぎ立てるつもりはなかったが、これ以上エスカレートすれば容赦しないつもりだった。
指を絡め合わせていても、篠宮初音の心は冷え切っており、少しの波紋も立たなかった。
目を閉じ、彼の存在を無視した。
まるで空気のように。
結婚後野三年間、一度も指を絡ませたことはなく、手をつなぐことさえ稀だった。
離婚した今になって、彼はそんなことをしていた。東雲たくまは満足感どころか、巨大な虚無感に襲われた。
彼女の愛など微塵も感じられず、これは単なる彼の一方的な強要でしかなかった。
彼はあまりにも多くのことを見逃してきた。
だが、これ以上過ちを重ねるつもりはない。
駅を出ると、篠宮初音は迷いなく東雲たくまの手を振り払った。
しかし彼はしつこい幽霊のように、彼女の後をぴたりとついてくる。
「初音、一緒に食事でもどう?」
「初音、映画でも観ないか?二人で観たことないんだ」
「初音、どっちも嫌?じゃあ買い物に行こう、好きなものを何でも買ってあげる」
東雲たくまは彼女の左側から前に出てきて、騒がしい声を立てる。
篠宮初音は我慢の限界だった。
タクシーを拾うと素早く乗り込み、彼を車外に閉め出し、運転手に急ぐよう促した。
東雲たくまは数十メートル追いかけたが、すぐに別のタクシーを止めた。
「前の車に追いつけ」と運転手に言った。
少し離れた場所で、白石香澄は人を待っていた。
東雲たくまの卑屈な姿と追跡していることを目の当たりにし、歯ぎしりするほど悔しかった。
あのたくまが自分を好きだった頃、ここまで卑屈になったことはない。
自分が勝ったはずなのに、なぜか負けたような気分になる。
いや、負けるはずがない!篠宮初音になど負けるわけがない!
白石家はすでに風前の灯で、東雲たくまの力も借りられない白石香澄は、新たな活路を見出さねばならなかった。
芸能界に入る決意をした。自分の容姿と才能なら、きっと成功できる。篠宮初音なんて大したことない!
......
「運転手さん、もっと早くできませんか?」
篠宮初音が催促した。
「お嬢さん、もう十分速いですよ。これ以上はスピード違反です。何かトラブルに巻き込まれてるんですか?警察に通報しましょうか?」
運転手は後ろから執拗に追ってくるタクシーをミラーで確認した。
「警察は呼ばなくていい、元夫です」篠宮初音は答えた。
「離婚したのにまだつきまとうなんて、最低な男だ!」と運転手はますます憤慨した。
篠宮初音は運転手の「最低な男」という言葉に思わず笑みが漏れた。
東雲たくまはまさに下劣で品のない男だった。
彼の執拗な追跡は、彼女にとっては単なる悔しさでしかない。
今の彼は彼女を愛しているかもしれないが、最も愛しているのは常に自分自身なのだ!
「お嬢さん、心配いりませんよ。すぐ振り切ってみせます!運転履経験0年のベテランですから!」運転手はハンドルを切り、車は左右に激しく動き、ついに後続のタクシーを振り切った。
運転手は勝利の歓声を上げた。
振り切られたタクシーの運転手は落胆していた。
28年の運転経験を持つベテランが追跡に失敗するとは!
まさに奇恥だった。
「申し訳ありません、見失いました。どちらへお連れしましょうか?料金はいただきません」
「止めろう」東雲たくまの顔は暗雲立ち込めるほど険しかった
車が路肩に止まると、東雲たくまは降りてその場を去った。
運転手は彼が置いていった札束を持って追いかけた。
「お客様!料金は要らないと言いました!これは侮辱です!」
「どけ!」と東雲たくまは冷ややかに言い放った。
「受け取りません!お金をお返しするまで!」運転手も負けず嫌いだった。
東雲たくまは当然受け取る気などなく、さらに財布から札束を取り出し、運転手の顔に叩きつけた。
「ついてくるな!」
運転手は呆然とした。
これはいったい?金持ちのバカ?毎日こんな客が来たら大儲けだ!
東雲たくまは篠宮初音が東雲家本邸か楓ヶ丘レジデンスのどちらかに行ったと確信していた。
これ以上追い詰めると逆効果だと悟り、追うのをやめた。
彼女がまだ自分の管理下にある限り、我慢できる。
篠宮初音は東雲家本邸には戻らず、楓ヶ丘レジデンスに向かった。
鍵を取り出してドアを開けようとした時、向かいのドアが開いた。
物音に振り返ると、九条天闊が車椅子を押して出てくるのが見えた。
彼女の目は輝き、顔には抑えきれない喜びが浮かんだ。
「九条先輩?いつ帰国されたんですか?足は......」
言葉が終わらないうちに、九条天闊は突然車椅子から立ち上がった!
「手術は成功しました。今はリハビリ中です。もうすぐ普通に歩けるようになると思います」
出国前、彼はいつか必ず彼女の前に立つと誓っていた。
今、その約束を果たしたのだ。
篠宮初音は明らかにその言葉を覚えていた。
天闊が実際に目の前に立っているのを見て、目頭が熱くなった。
心から彼の成功を喜んでいた。
九条天闊は立つことはできたが、長い時間立つのは無理だった。
もう足が震え始めていたが、それでも必死に堪えていた。
篠宮初音はそれに気づき、彼が倒れそうになった瞬間、迷わず駆け寄って支え、しっかりと彼を抱きしめた......