九条天闊が車椅子に座っている時は目立たなかったが、直立すると身長が高く、190cmもある。
そんな大柄な体格では、たとえ痩せていても体重は軽くない。
彼が篠宮初音に寄りかかると、彼女はすぐに支えきれなくなった。
数秒後、篠宮初音は後ろに倒れた。
倒れる瞬間、九条天闊は本能的に手を伸ばし、彼女の後頭部を守った。
二人は一緒に地面に転がり、九条天闊の体が彼女の上に覆い被さり、彼の唇は寸分違わず、彼女の柔らかい唇に触れた……
時間が止まったかのようだった。
二人の頭は真っ白になった。
どれくらい経っただろうか、篠宮初音が先に我に返り、慌てて顔を背けた。
彼の唇は、彼女の少し熱くなった耳たぶをかすめた。
九条天闊も我に返り、横になりながら彼女の隣に寝転がり、頬を赤らめて言った。
「す…すまない、わ…わざとじゃないんだ」
「ええ、偶然だって分かってます。気にしてませんから、九条先輩も気にしないでください」
篠宮初音の声は冷静だった。
九条天闊の胸に失望が湧き上がった。
「ああ」
篠宮初音は立ち上がり、すでに起き上がっていた九条天闊を車椅子に戻した。
「九条先輩、さっき転んでけがはないですか?病院に行きましょうか?」
九条天闊は初音の紅潮した唇を見つめ、その柔らかな感触を思い出し、息を詰まらせた。
彼女に自分の中に渦巻く感情を悟られないよう、天闊は目を伏せ、無意識に車椅子のアームレストを握りしめた。
「大丈夫だ。篠宮さんはけがしていないか?」
篠宮初音は彼の真っ赤になった顔を見て、さっきの出来事が彼をとても気まずくさせたことを理解した。
実際、彼女自身も同じだった。
「それでは九条先輩、私は先に部屋に入ります」
「ああ」
九条天闊は目を上げ、彼女が家に入るのを見届けてから、車椅子を回して自分の部屋に戻った。
ドアを閉めると、篠宮初音は長く深く息を吐いた。
彼女は無意識に人差し指でキスされた唇を撫で、まるでそこにまだ九条天闊の体温が残っているかのようだった。
キスって、こんな感じなんだ。
それは彼女のファーストキスだった。
東雲たくまと結婚して三年、最も親密な関係を持ったことがあっても、一度もキスをしたことはなかった。
彼女が望まなかったわけではない。
東雲たくまが拒んだのだ。
たくまは言った。
愛し合っている者同士だけがキスをするのだと。
そして、彼は初音を愛していない。
それは篠宮初音の初めてのキスだったが、同時に九条天闊の初めてのキスでもあった。
二十五年来、彼は誰ともそんなに親密になったことがなく、篠宮初音が初めてだった。
冷たい水流が九条天闊の体を洗い流し、体の中の炎を消し止めたが、心の底の渇望を鎮めることはできなかった。
どうしよう?彼女に近づきたい、もっと近づきたい。
彼女を抱きしめ、キスをし、さらには……心から体まで、完全に独占したい。
数日間誰も住んでいなかったため、部屋にはほこりが積もっていた。
篠宮初音は家中をきれいに掃除し、シャワーを浴びた後、ノートパソコンを開いて「スタイルミュージック」にアクセスした。
数日前、彼女が作った二曲『雨夜』と『晴天』をアップロードしたところ、反響はよく、ダウンロード数もかなり多かった。
多くの芸能会社から版権の購入や契約を希望するメッセージが届いたが、篠宮初音は版権を売ったり契約したりするつもりはなく、丁寧に断った。
北都市に行っていたため数日間ライブ配信をしていなかったが、今日配信を開始すると、配信ルームは瞬時に沸き立った。
【うぅスイートハートさんやっと帰ってきた!見捨てられたかと思った!】
【絶対に見捨てないでください!】
【こっそり聞きたいんだけど、スイートハートさんマスク外せますか?素顔見たい!】
【素顔見たい+1!】
【素顔見たい+10086!】
【マジか!『スイートハートガーディアン』も戻ってきたの見てないのか?!】
配信ルームのネットユーザーたちは、「スイートハートガーディアン」が戻ってきたことに気づき、その後「スイート大好き」と共にゴールドスターを狂ったように投げ始めた。
素顔を見せてほしいというコメントは、瞬く間にギフトのエフェクトに埋もれてしまった。
今日、大物のご機嫌は非常に良いようで、ゴールドスターが止まることがなかった。
ネットユーザーたちは「パパ!養ってください!」と叫んだ。
九条天闊の気分が悪いはずがない。
今日、彼は夢中になっていた人にキスをしたのだから、気分は爆発しそうだった!
一方、「スイート大好き」の東雲明海もゴールドスターを狂ったように投げており、まるで張り合っているようだった。
彼は以前、「スイートハートガーディアン」が誰なのかを調べられなかったが、その後重点的に調査し、ついに九条天闊だと特定した!
そして九条天闊は篠宮初音の向かいに住んでいた!
絶対に何か企んでいるに違いない!東雲明海は強い危機感を覚えた。
彼は篠宮初音が九条天闊に良い印象を持っており、二人の間には他人が入り込めない雰囲気があることを理解していた。
同じく危機感を覚えていたのは東雲たくまだった。
東雲明海だけでもう十分頭の痛いのに、今度は九条天闊まで現れた。
彼も再調査した後、「スイートハートガーディアン」が九条天闊であることを確認した。
「スイートハートガーディアン」と「スイート大好き」が狂ったようにギフトを投げているのを見ながら、自分はただじっと見ているしかできず、無力だった。
篠宮初音がライブ配信で稼いだお金のほとんどは、暁の光児童養護施設に寄付されていた。
ライブ配信の投げ銭プラットフォームは半分を取るため、彼女にとって「スイートハートガーディアン」と「スイート大好き」がこんなに狂ったように投げ銭するなら、直接孤児院に寄付した方がいいと思っていた。
配信終了後、初音は「スイート大好き」にDMを送り、投げ銭を控えるよう促した。
そして「スイートハートガーディアン」(九条天闊のアカウント)にも同じようにメッセージを送った。
これは九条天闊が「スイートハートガーディアン」として篠宮初音とつながって以来、初めて彼女からメッセージを受け取った瞬間だった。
スイートハートガーディアン:【了解。今日はただ、本当に嬉しかったから。】
ガラゴ:【何がそんなに嬉しかったの?】
メッセージを送った後、篠宮初音はすぐに後悔し、撤回しようとしたが、相手が「入力中...」と表示しているのを見た。
スイートハートガーディアン:【ずっとキスしたいと思っていた人に、今日キスできたから、とても嬉しい。】
篠宮初音の頭の中で轟音が鳴り響き、昼間の九条天闊との偶然のキスを思い出した。
一つの考えが閃いた。
もしかして「スイートハートガーディアン」は九条先輩なのか?
しかし、この考えはすぐに否定された。
ありえない!もし本当だとしたら……彼女はそれ以上考えられなかった。
もしもなんてない!もしもなんて絶対にない!
九条天闊はスマートフォンの画面をじっと見つめ、返事を待ったが、二度と何の返信もなかった。
彼はゆっくりと目を閉じ、指先で自分の唇をそっと撫で、熱くなるまで、夢中で狂ったように彼女の名前を呟いた。
「初音……初音……僕の初音……」