七海財閥は東雲財閥という商業の巨艦の前では、ただの踏み潰される一方の蟻に過ぎない。
かつては東雲たくまという幼なじみの義理にすがり、東雲財閥の要らないポロジェクトを拾い、かろうじて維持してきた。
しかし今、七海涼介が東雲たくまの逆鱗に触れた結果、雷鳴のような制裁が下った。
東雲財閥は何の前触れもなく資本を引き上げ、長年続いていた取引を一方的にキャンセル。
新規に始めた重要なプロジェクトも次々と致命的な問題を露呈した。
資金繰りが一気に断裂し、銀行も逃げ出す中、七海財閥の倒産清算は目前に迫っていた。
七海涼介の父親は、出来の悪い息子が招いた大災厄を知り、全身を震わせながら怒り狂った。
家に駆け戻ると、父親は七海涼介の頬に力強いビンタを浴びせた。
生まれて初めて暴力を振るわれた七海涼介は、頬を押さえながら父を信じられない様子で見つめた。
「この不肖者め!」七海の父は烈火のごとく怒り、息子の鼻先を指さした。
「東雲の若様に何をした!お前のせいで会社が潰れるところだぞ!」
わずか一週間で七海財閥は瀕死の状態に追い込まれた。
「そんな…そんなはずがない!」七海涼介は目を見開いて否定した。
「早く言え!いったい何をした!」父の怒声が響く。
七海涼介は縮こまりながら、個室で口を滑らせた経緯を全て打ち明けた。
父の顔面は蒼白になり、執事に棒を持ってくるよう命じると、七海涼介の頭めがけて容赦なく叩きつけた。
七海涼介は悲鳴を上げて許しを乞い、母親が必死に息子をかばったため、父は荒い息を整えながら棒を地面にたたきつけた。
「行くぞ!今すぐ東雲の若様に土下座して詫びるんだ!若様が許してくれなければ、お前のような息子はもういなくてもいい!」
東雲家本邸
「バカ野郎!早く東雲の若様に謝罪しろ!」七海の父は入るなり厳しく叱責した。
七海涼介は不本意ながらも、東雲たくまの冷たい視線の前でひざまずいた。
「東雲の若様、私が口を滑らせたのが悪かったです。幼なじみの情けで…どうか今回だけはお許しください」震える声で懇願する。
七海の父もすぐに腰を折り、「若様、涼介は本当に反省しております。どうか寛大なお心で七海財閥を見逃してください」とへりくだった。
東雲たくまはソファに寛いで寄りかかり、ひざまずく七海涼介を俯瞰する。
幼なじみにはこれまで寛容だったが、彼らが好き勝手に振る舞い、篠宮初音に穢れた欲望を向けることなど許されない。
七海涼介の卑劣な言葉や初音への冒涜を思い出すと、東雲たくまの瞳には冷酷な光が渦巻いた。
七海財閥を許す? 絶対にあり得ない!
彼は七海財閥を潰すことで、篠宮初音が自分にとってどれほど重要な存在かを世に知らしめるつもりだった。
今後誰も彼女に不敬を働けば、七海財閥の末路を見るがいい――
東雲たくまは冷酷に手を振り、七海親子を邸宅から追い出すよう命じた。
門の外に放り出された二人は顔が真っ白になった。
七海財閥は完全に終わったのだ。
父は地に崩れ落ち、涙を流した。
七海涼介は呆然とした。
東雲たくまが少しは旧交を考慮に入れてくれると思っていたが、彼の決意は固かった。
「終わった…すべて終わった…お前のせいだ!この厄介者が!」
父は突然跳び上がり、七海涼介に騎乗して顔を左右から強打した。
七海涼介は目の前が真っ暗になり、耳鳴りがするほどの殴打を受ける。
このままでは命が危ない。
「父さん!待って!七海財閥…まだ助かる方法がある!私に考えがある!」
父は荒い息を吐きながら手を止めた。
「言え!どんな方法だ!?」
「篠宮初音に頼むんです!東雲の若様があの女のために俺たちを潰そうとしてるなら、彼女が若様に一言口添えすれば、きっと手を引いてくれます!私が彼女に頭を下げます!」
七海涼介は後悔の念に駆られながら叫んだ。東雲たくまがここまで篠宮初音を重視するなら、最初から口を滑らせるべきではなかった。
「よし!あの女に頼むんだ!もし助けてくれなければ…お前との親子関係はここまでだ!」
……
篠宮初音はいつものようにお粥を作り、トゥーランに乗って聖心医科大学付属病院へ向かった。
楓ヶ丘アパートを出てすぐ、突然人影が飛び出し、車の前に立ちはだかった!
初音は冷や汗をかきながら急ブレーキを踏み、車は相手の10センチ手前でかろうじて止まった。
男も恐怖のあまり地面に尻餅をついた。
初音がシートベルトを外して降りると、男は彼女を見るなり跪いて頭を地面に擦りつけた。
「篠宮さん!東雲の若様にどうか私のことを…七海財閥を見逃すようお願いしてください!」
「あなたは誰?何の話ですか?」と初音は眉をひそめて怪訝そうにした。
男が顔を上げると、そこには殴られた跡がくっきり残っていた。
「篠宮さん!私は七海涼介です!東雲の若様の前で篠宮様について失礼なことを言ったばかりに、若様が七海財閥を潰そうとしているんです!間違っていました!本当に反省しています!どうか若様にお言葉をかけていただけませんか!七海財閥に生きる道をください!」」
初音は七海涼介に対する印象が最悪だった。
会うたびに淫らな視線を向け、初音を不快にさせていた。
東雲たくまの友人たちが陰で自分を嘲笑っていることも承知していた。
全ては東雲たくまの默認と放任の結果だ。
しかし、今回ばかりは東雲たくまが自分のためにここまでするとは思わなかった。
とはいえ、彼女の心は冷めきっていた。
元凶は東雲たくま本人なのだから。
「申し訳ありませんが、私は東雲さんとはもう何の関係もありません。あなたの問題には関われません」
初音は冷淡に拒絶し、車に戻ろうとした。
その瞬間、七海涼介の目に悪意が走った!
彼は懐から閃く刃物を抜き、初音に向かって突き刺した。
「俺が生きられないなら、お前も一緒に死ね!」
初音は咄嗟に身をかわしたが、左腕に刃が深く切り込み、血が噴き出した。
激痛が走る中、七海涼介の第二撃を、彼女は素早く手首を掴んで刀を奪い取り、右足で胸板を強く蹴り飛ばした!
「ぐはっ!」七海涼介は吹き飛ばされ、数メートル先で地面に叩きつけられて失神した。
口から血を吐きながら、彼は動かなくなった。