快晴の両親は心の中でわかっていた。
鑑定結果が間違っているはずがない。
何より篠宮初音は若い頃のお母さんにそっくりなのだ。
間違いようがない。
しかし、23年間育ててきた娘が実子ではなく、本当の娘は23年間も外で生きてきたという事実は、あまりにも衝撃的だった。
「私の娘は……幸せにやってきたのかしら?」快晴の母の目は真っ赤に染まっていた。
実の娘が味わったかもしれない苦しみを思うと、胸が引き裂かれるようだった。
快晴はアシスタントを通じて初音の過去を調べていた。
初音が孤児院で育ち、東雲様の支援で大学まで進学したものの、東雲たくまと結婚してからは散々な目に遭っていたことを知った。
姑のいびり、使用人たちの蔑み、東雲たくまの友人たちの嘲笑。
全てはたくまの放任が原因だった。
さらに腹立たしいのは、初音が妊娠していると知りながら中絶を強要し、大出血で生死を彷徨わせ、以後妊娠できなくなったこと……
思い返すだけで、快晴は今も震えるほど怒りが込み上げてくる。
しかし、両親の前では怒りを抑え、穏やかに語った。
「今は大丈夫です。東雲たくまとは別れました。これからどんどん良くなります」と。
二人はようやく少し安堵の表情を見せた。
「今すぐ初音に真実を言うべきでしょうか?」快晴が尋ねた。
言うのは当然だが、急いではいけない。
まずはこの事実を受け止めるのにかなりの時間が必要だ。
さらに、赤ちゃんのすり替えの真相を調査しなければならない。
そして何より、桜への配慮。
23年間育て上げ、すでに実の子同然に愛してきた娘への影響を最小限に抑えたいと考えた。
時雨の母が考えを述べると、時雨快晴は頷いた。
「桜にはまだ話さないでください。適切な機会を待ちましょう」と。
「南城に行って初音に会いたい」時雨の母は切実に実の娘の顔を見たかった。
23年間母親としての役割を果たせなかった罪悪感が、心をえぐるように痛んだ。
「私も同行する」時雨の父も言った。
「父さん、母さん、落ち着いてください。急に会いに行ったら初音を驚かせてしまいます」時雨快晴は諭すように言った。
「私は数日後に南城でプロジェクトの仕事があります。手配が整ってからにしましょう」
「わかった。あなたに任せる」
******
松本玲子は篠宮初音のためにある恋愛バラエティ番組の出演権を獲得した。
最近大ヒット中の『ときめきサイン』だ。
この番組は既に4シーズン放送され、視聴率は常に高水準。
5シーズン目の出演権は激戦で、松本玲子の人脈がなければ手に入らなかった。
「初音、恋バラの出演決めたよ!」松本玲子は電話を切るなり、ソファに座り込んで報告した。
玲子は外でのクールなイメージとはうって変わり、くつろいだ様子だ。
テレビを見ていた初音は眉をひそめた。
「『ときめきサイン』は今すごく流行ってるの! 多くの芸能人が出演したがってるわ! 人気を集められるし、もしかしたら恋もできるかも。一石二鳥でしょ」
「恋愛はしたくありません」篠宮初音の眉間の皺は消えなかった。
「本当に恋しろって言ってないでしょ? 過去4シーズンで成立したカップル、本気だったの? 全部演技よ。遊びに行く感覚でいいの」松本玲子は断られるのを恐れ、「この枠、すごく苦労して取ったんだから、断らないでよね」と付け加えた。
「出演してもいいけど、マスクは必須です」
初音は玲子を困らせたくなかったので、頷いた。
「安心して、もう番組側と話をつけてあるわ!」松本玲子は笑った。
「むしろマスク姿の方がミステリアスで、視聴者の興味を引くっていい売りだってよ」
「それなら問題ありません」
しかし篠宮初音の心には懸念があった。
東雲たくまは「スイートハートさん」が初音だと知っている。
恋バラ番組に出演すると知ったら、また狂ったように騒ぎ出すのではないか?
彼はまるで時限爆弾のようで、トラブルメーカーだった。
たくまは確かに初音女の動向を注視していた。
デビューし、さらに恋バラ番組に出演すると知り、激怒した。
しかし、これまでの失敗から衝動を抑えた。
これ以上初音を遠ざけるわけにはいかない。
「『ときめきサイン』の制作陣に電話しろ」彼はアシスタントに命じた。「東雲グループがスポンサーになる。その代わりに俺が出演する」
アシスタントは呆然とした。
社長のこの行動力、さすがすぎる……!
同じように「さすが」な行動に出たのが、東雲明海と九条天闊だった。
二人も篠宮初音の恋バラ番組の出演を知り、初音が他人と「恋愛ごっこ」をするなど許せるわけがなかった。
阻止できないなら、参加するまでだ。
こうして、壮大な修羅場の幕が開けようとしていた……