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第76話

松本玲子は18歳の時に、短い間だったが、付き合った彼氏がいた。


当時は風紀が厳しく、手を繋ぐことさえ数えるほどで、ましてやキスなどありえなかった。


それが今、明らかに年下の「ガキ」に人前で頬にキスされるとは!


玲子は100%確信していた。


この男が28歳なわけがない。


せいぜい21、22歳だ。


自分が年齢を偽れるなら、相手も当然同じだろう!


しゃぶしゃぶの店は人目が多く、松本玲子は声を押し殺して言った。


「ガキ、何をしているの!出て行け!」


三井健治は素直に「はい、ダーリン!」という呼び方を一瞬で「お姉さん」に変更した。


松本玲子のこめかみに青筋が浮かぶ。


「今すぐ!出て行け!」怒りを必死に抑えている。


篠宮初音は「ご武運を」という眼差しを送りつつ補足した。


「玲子姉、彼はeスポーツ選手の三井健治です。手加減してね」


「心配ない。試合にはまだ出られるから大丈夫だ」松本玲子は冷たく笑った。


三井健治は平然として、篠宮初音に「大丈夫」と目配せし、楽しそうに松本玲子について行った。


「ダーリン、どこへ連れて行くの?」三井健治は口先の勝負を続ける。


言葉が終わらないうちに、松本玲子が振り向きざま、健治の襟首をつかみ、隣の空き喫煙室に引きずり込んだ。


ドアを「バン!」と閉めると、壁に押し付けて壁ドンした!


「そういう呼び方やめろう!」松本玲子は一語一語噛みしめるように言い、眼光鋭く睨みつけた。


「はい、ダーリン」三井健治はニヤニヤしながら、隙を見て反対の頰にも素早くキスをした!


松本玲子は胸を波打たせながら怒りに震えた。


相手がeスポーツ選手であることを慮らなければ、本当に殴りたいところだった。


深く呼吸して言った。


「玲子姉か松本さんって呼びなさい!」


三井健治はここで大人しく「玲子姉」と呼んだ。


「玲子姉、本気です。僕と付き合ってくれませんか?」ふざけた表情を収め、意外にも真剣な眼差しを向けてきた。


松本玲子もこれまでに告白されたことはある。


立派な男性も多かったが、年下の「ガキ」にここまで大胆に告白されるのは初めてだ。


28歳と言っても、あの若々しい顔は誤魔化せない!


「正直に言うわ。私は38歳で、30歳じゃない。年が離れすぎて無理よ」松本玲子は年齢で諦めさせようとした。


三井健治は微動だにしない。


「玲子姉、じゃあ僕も白状します。実は35歳で、28歳じゃないんです。ただ3歳の差だけです!」まじめくさってでたらめを言う。


35歳?


35歳のeスポーツ選手なんかありえない?


嘘にも程がある!


「28歳でも35歳でも構わない。とにかく私を追いかけ回すのはやめなさい!でなければ容赦しないから!」松本玲子は拳を振りかざすふりをした。


三井健治は避けもせず、むしろ嬉しそうに笑った。


「玲子姉に殴られるなんて、む光栄です!」


松本玲子の拳は宙に浮いたまま、打つこともできず。


もういい!関わらなきゃいいんだ!


玲子はさっさと手を引くと、喫煙室のドアを開けて逃げるように出て行った。


しゃぶしゃぶ店に戻ると、無言で会計を済ませ、笑いをこらえる篠宮初音の手を引っ張って店を出た。


ショッピングモールを出るまで、篠宮初音はようやく笑い出した。


「玲子姉、あれって彼を懲らしめたつもりが、逆に……バカにされたたんじゃ?」


「もちろん私がとことんまでまでやり込めたわ!」松本玲子は強がったが、耳の根が少し赤くなっていた。


「どうしてそんなカギと友達になったの?」落ち着いてから松本玲子が聞いた。


「健治も恋バラ番組の男性ゲストですよ」


「まさか初音目当てじゃないわよね?」松本玲子は番組の男性ゲストと聞くと警戒する。


「いいえ、収録前は全然互のこと知りませんでした」


「じゃあ彼……本当は何歳なの?」聞いた後で不適切だと気づき、「まあ、ただの雑談だけど……」


「21歳」篠宮初音は即答した。


21歳?!


17も年下だ!息子にでもなりそうなガキに馬鹿にされたとは!


松本玲子の顔が真っ赤になった。


怒りか恥ずかしさか、あるいはその両方か。


「玲子姉、実際のところ……恋愛してみようとは思わない?三井さんは年は若いけど、素直なこだよ。気になるなら、年齢なんて問題じゃないわ」篠宮初音は探るように聞いた。


「私に求婚するエリート男はたくさんいるのに!17も年下で息子にでもなるようなガキと付き合うなんて、正気の沙汰じゃない!」松本玲子はきっぱり拒絶した。


「もういい、あのガキの話はこれで終わり!服を買うんでしょ?さあ、付き合うわ!」


ショッピングモール2階の反対側。


白石香澄はイライラしながら速足で歩き、後ろからは振り切れない男がついてくる。


渡辺健太だった。


「渡辺君もういいでしょ!好きじゃないって言ってるのに、しつこくしないでくれない?」白石香澄は嫌そうに言った。


渡辺健太は大学時代から白石香澄に憧れてきた。


香澄が海外に行った3年間も心変わりせず、彼女の帰国を知ると猛烈に求愛を始めた。


客観的に言えば、渡辺健太はハンサムで、当時は学内一のモテ男だった。


香澄に至極従順だったが、貧乏で香澄に嫌われていた。


貧乏男と付き合いたくない!


「香澄、あの時命がけで火の中に飛び込んで助けたのは僕だ!命の恩人には体で報いるべきで、僕と結婚するのが当然だ!」渡辺健太はそう言うと、突然袖をまくり、腕の大火傷の痕を見せた。


「全部あの時に残った痕だ!」


その歪な傷痕は衝撃的で、白石香澄はびっくりしたが、同時に記憶がよみがえった!


東雲たくまがかつて誓った言葉を思い出した。


たくまが命がけで火の中に入ったのは白石香澄を助けるためだ!


篠宮初音はただのついでだった!


もし篠宮初音にこの「真実」を知らせたら……さぞ面白いことになるだろう!


どうやってこの情報を流そうか考えていると、人混みの中に見覚えのある姿を発見した!


急いで追いかけようとしたが、渡辺健太に手首を掴まれた。


「香澄!今日はっきり返事をもらうまで、逃がさない!」


白石香澄は早く逃げたくて適当に「ここで待ってて!すぐ戻るから!」渡辺健太は半信半疑で手を離した。


白石香澄は人混みをかき分け、篠宮初音に追いつくと、わざとらしい憐れみと挑発を込めて言った。


「篠宮さん、知りたい?あの火事で、たくまが飛び込んだのは……本当は誰を助けるためだったか」と。

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