「天闊、私と付き合ってください」
「天闊、私と付き合ってください」
「天闊、私と付き合ってください」
篠宮初音は何度も繰り返した。
澄んだ声から嗄れ声へと変わり、遅すぎた告白を互いの魂に刻み込むかのようだった。
この言葉を、九条天闊は長い長い間待ち続けていた。
実際に口にされた時、あまりの歓喜に現実感を失い、雲の上を歩いているような気分になった。
「初音......本気か?冗談だろう?」震える声を抑えることができず、胸の中の愛が溢れんばかりに膨らんだ。
「もしかして......」感謝や罪悪感からなのか?
という後半の問いかけは、まだ口にされていない。
突然、初音は天闊を冷たいオフィスの壁に押し付け、つま先立ちになり、断固たる覚悟のような切迫感で、慌ただしくキスをした!
これは初音にとって二度目の自発的なキスで、やはり少し不器用だったが、何かを証明するかのように真剣そのものだった。
九条天闊は一瞬呆然としただけで、すぐに主導権を取り戻した。
初音を抱き上げ、くるりと回して今度は自分が初音を壁に押し付け、さらに激しく、さらに深く、積もりに積もった愛と失ったものが戻ってきた喜びを込めてキスをした。
蜜のような甘い息が絡み合い、二人の体温がどんどん上昇していく。
オフィスデスクの内線電話がけたたましく鳴り響き、この恥ずかしくなるようなキスを中断させた。
篠宮初音はほとんど力が抜け、ぐったりと天闊の胸に寄りかかりながら、まだ天闊のシャツの襟をしっかり握っていた。
迷惑な呼び出し音が執拗に鳴り続く。
九条天闊は初音を腰抱きにして、広々とした椅子に座り、片手でまだ初音を抱きながら、もう片方の手で電話を受けた。
「九条社長、三ツ星の小田社長がお見えです。応接室でお待ちですが」
「今大事な用事がある。石井副社長に対応させて」
「かしこまりました」
秘書は素早く電話を切り、何かを察したように突然口を押さえて目を見開いた。
社長の今の声......なんか変だった!
慌てて首を振り、職場の心得を心の中で唱えた。
仕事に集中、余計なことは聞かないと。
九条天闊が電話に出ている短い間に、篠宮初音の気持ちは少し落ち着いていた。
交際を申し出たのは、一時の衝動ではない。
感謝もあったかもしれないし、罪悪感もあったかもしれない。
だが、それだけで自分を捧げるほど単純ではない。
初音は天闊が好きだった。
この好きが愛と同じかどうかはわからないが、一つだけ確信していた。
もしこの先の人生で誰かと共に歩むなら、その相手は九条天闊しかいない、と。
「本気よ、天闊と付き合いたい。天闊は......どう?」
初音は天闊の深い瞳を見つめながら、はっきりと言った。
「感謝したいからか?」という疑問は、九条天闊はもう口にしようとは思わなかった。
そうであろうとなかろうと、今はもう重要ではない。
大切なのは、彼の初音がついに心を開いてくれたことだ。
そして、交際の申し込みは、本来初音から先に言うべきことではなかった。
九条天闊は直接答えなかった。
そっと初音を放し、立ち上がると、初音の前で片膝をついた。
「初音、僕と......付き合ってくれますか?」まるでプロポーズのように慎ましく真剣に言った。
「うん!うん!うん!」
篠宮初音の目に瞬時に涙が溜まり、力強く頷いた。
この瞬間、小さなオフィスは神聖なる殿堂のようになり、彼らの遅いながら貴重な誓いを見守った。
九条天闊は立ち上がり、再び彼女を強く抱きしめた。
全身の力と全ての愛を込めて、自分の命に溶け込ませようとするかのように、「初音、ありがとう......本当にありがとう」と言った。
天闊の声は低くて、失ったものが戻ってきた喜びに満ちていた。
......
松本玲子は車の中でじれったく待っていた。
篠宮初音がなかなか降りてこないので、携帯を取り出して電話しようとした。
画面に触れた指が突然止まり、悔しそうに額を携帯で叩いた。
年のせいか、頭が鈍くなったわ!
久しぶりに想いが通じ合った二人が、今きっと互いに言いたいことがいっぱいに決まってる!
今電話したら、場の雰囲気をぶち壊しじゃない!
それに九条社長がいるんだから、自分が初音を送る必要なんてないわ!
恋人がちゃんと送ってくれるに決まってる!
松本玲子はふと切ない気持ちになった。
十数年も恋愛から遠ざかっていたせいで、反応が鈍くなっていた。
恋愛してみようか?
三井健治のガキのような笑顔を浮かべた若い顔が突然頭に浮かび、玲子は一瞬鳥肌が立った。
ダメダメ!
仮に付き合うとしても、あんな息子同然のガキとは絶対に無理!
九条財閥の社員たちは驚きの目で見つめた。
あの仕事鬼の社長が、午後5時にスーパー美女の手を繋いで、早退していくのを!
社長室の写真を見たことのある人はすぐに気づいた。
これはまさか社長のあの「初恋」の人?
噂では社長は大学時代から片想いしていたらしい。
これは......ついに実を結んだのか?!
篠宮初音と九条天闊は、すべての熱愛中のカップルのように、手をつないでスーパーに食材を買いに行き、一緒に九条天闊の高級マンションに戻った。
一緒に野菜を洗い、一緒に料理を作る様子は、付き合い始めたばかりのカップルというより、何年も連れ添った夫婦のようだった。
篠宮初音が魚を焼くのに集中していると、九条天闊は後ろから彼女の腰を抱き、あごを彼女の肩に乗せ、敏感な耳たぶに絶え間なくキスをする、甘えた大型犬のようだった。
「天闊、やめて......魚が焦げちゃう」
「初音......チュー......」
九条天闊は何かのスイッチが入ったように、午後ずっとキスをせがんでいて、いくらキスをしても満足しない様子だった。
篠宮初音の目には甘い笑みが浮かび、振り向くと彼の頬に「ちゅっ」と音を立ててキスをした。
「これで満足?」
九条天闊は反対の頬を指差した。
「こっちも」
恋は本当に人を子供にさせる。
篠宮初音は笑いながら言われた通り反対の頬にもキスをした。
「これでいい?」
「足りない......まだまだ足りない」天闊彼は呟きながら、彼女の顔を両手で包み、再び深くキスをした。
唇が絡み合う中、甘い香りが広がっていった。
これが本当の愛の味だった。
東雲たくまとの間で味わったことのないこの甘さを、九条天闊から満たされた。
初音はこの甘さに酔いしれ、二度と目覚めたくないと思った。
「じゅーっ」焦げ臭い匂いが広がった。
この甘いキスは、焦げた魚によって無情にも中断された。
篠宮初音は急いで火を止め、怒ったふりをして九条天闊をキッチンから追い出した。
「もう邪魔しないで!じゃないと今夜ご飯なしよ!」
ご飯なしは問題ないが、「妻」を怒らせるのは大問題だ。
「はい、初音ちゃん!絶対に邪魔しません!」
九条天闊はすぐに非常に大人しくなり、約束した。
「初音ちゃん」という呼び方に、篠宮初音の胸は微かに震えた。
彼女はかつて他人の妻だったが、あの男は決してこんな風に親しげに呼んでくれなかった。
今九条天闊の口から聞くその言葉は、深い愛と大切にする気持ちに満ちており、甘くて初音の心を柔らかくさせた。
これが愛し合うことと愛されないことの、最も本質的な違いなのだと思った。