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05 冒険者ギルドに行こう

 新たな冒険者カードは、ロック名義である。

 職業は戦士だ。せっかく魔神王の剣があるし、これで戦士をすればいいだろう。


 カードを発行した後、ゴランが言う。


「このカードは情報隠匿魔法をかけて、ロックという名前だけを表示させているだけだからな」

「つまりどういうことだ?」


 ゴランは説明する。冒険者カードは偽造が不可能だ。

 だから、偽のカードなどは作れない。


「でも、ラックではなく、ロックって書いてあるぞ?」

「お前の本名は、ラック・ロック・フランゼンだからな」


 いつの間にミドルネームまでついていたらしい。


「普段はミドルネームだけを表示するようにしておいた。真の名前は隠匿魔法を解除すれば表示される」

「職業も?」

「第一職業は、大賢者にして、我々の救世主、偉大なる最高魔導士でランクS、第二職業が戦士でランクFな」


 普通は第一職業のランクがその冒険者のランクである。


「その大賢者にして、みたいなの何とかならんのか?」

「ならないぞ。ギルドが与えた二つ名だからな」


 嫌な二つ名である。いやがらせにしかなってない。

 俺が死んだと思って、ゴランたちが暴走してしまった結果だろう。


「偽装は不可能だからな。それで第二職業だけ表示されるようにしてある」


 偽造が不可能な冒険者カードを、ゴランが一生懸命考えて目立たなくしてくれた。

 それはとてもありがたい。


 冒険者カードには様々なデータが記入されている。

 両親がいれば、その名前と職業、階級。

 出身地、魔物討伐数、クエスト受注数と成功率、獲得した累計報酬金額。


 だが、通常それらは表示できないようになっている。

 他人に知られたくない情報の塊だからだ。


 それを見るためにはギルドの受付程度では無理だ。

 大きなギルドの特別な魔導器を通さないと表示されない。

 そして、それはランクの昇降格時、もしくは除名時ぐらいにしか使われない。


 ゴランはそのシステムを利用して、隠匿される範囲を広げてくれたのだ。

 これで偽造ではない正式なカードで、Fランクと表示されることになる。


「ゴラン、ありがとうな」

「気にするな。大したことじゃねーさ」

 ゴランは照れていた。


◇◇◇◇◇

 そのあと、ゴランの家に移動して、夜遅くまで飲んで騒いだ。

 未明になり、俺とゴランが酔いつぶれた後、エリックは帰っていった。

 国王という要職についているだけあって、明日も職務が待っているのだろう。


 俺はそのままゴランの家に泊めてもらうことにした。

 久しぶりのベッドは快適だった。


◇◇◇◇◇

「ロックさん! ロックさん!」


 どんどんと扉をたたく音で目を覚ました。

 とても心地よくて長い間眠った気がする。


 起きてすぐ空腹に気づく。


「ロックさん! ロックさん!」

「……ロック? ああそうか」


 ラックの名が、有名になりすぎたので、普段からロックを使うことにしたのだった。

 ゴランにも口留めしておいたので、家人にロックだと紹介しているはずである。 


 使用人は、しつこく扉をどんどん叩いていた。


「はい。どうしました?」


 扉を開けると、執事がいた。ゴランの執事だろう。

「よかった。生きておられましたか」

「そりゃ生きてますよ」

「一週間、部屋から出てこられないので心配しておりました」

「一週間?」


 驚く俺に執事は言う。


「はい、けして起こすなと我が主に言われたので見守っておりましたが……さすがに一週間も眠られると心配になるので……」

「そうでしたか……」


 それは確かに心配だ。俺がゴランでも心配する。

 本当に死んでいたら、一週間もあれば結構腐ってしまう。


 それにしても一週間も眠っていたとは。

 十年間戦い続けていたので、疲れ切っていたのかもしれない。


「ご迷惑をおかけしました」

「いえいえ、お気になさらず」

「ゴランはいますか?」

「はい。一緒に朝食を食べたいと」


 執事に案内してもらって食堂へと向かう。


「ラ……、ロックやっと起きたか!」

「おはよう。心配かけたな」

「いや、気にすんな。朝ごはん、食うだろう?」


 そこに用意されていたのは重湯だった。

 意図せず一週間断食してしまっていた。

 固形物は危険だと判断されたのだろう。


「いただきます」

「ロック、これから何かしたいこととかあるか?」

「特にないんだよな」

「そうか」


 だが、世の中がどう変わったのかは気になる。

 それを知るにはどうしたらいいだろうか。

 俺は少しだけ考えた。


「そうだな。久しぶりに一から冒険者でもしてみようかなと」

「退屈じゃねーか? もっと強敵と——」

「強敵となら十分戦った」

「それも、そうだったな」


 強敵とならば、10年間で嫌というほど戦った。

 それを知っているゴランは納得してくれたようだ。


 10年前、俺は冒険者だった。ずっと冒険者だったのだ。

 冒険をしながら、社会の変化を実感できたら一番だ。



 朝食後、ゴランにお礼を言ってから冒険者ギルドへと向かうことにした。

 門を出るとき、門番に頭を下げられる。


「ラ……いえ、ロックさん。この前は本当に申し訳ありませんでした」

「いえ、職務だったのでしょうし。気にしてませんよ」

「そういって頂けると助かります」


 門番はもう一度深々と礼をした。

 門番にはラックと名乗ってしまっていた。だが、ゴランが口留めしてくれたのだろう。

 俺のことをロックさんと呼んでくれている。ありがたい。


 門番と別れてから、俺は冒険者ギルドへと向かう。


 前回は、入るなりゴランに引っ張られて奥まで連れていかれてしまった。

 今回は、冒険者ギルドの一般フロアをじっくり見る。

 懐かしい。依頼が貼られている掲示板が特に懐かしい。


 10年前そうしていたように、上級クエから見て回る。

 平和になっている。ドラゴン討伐も、魔神討伐も出ていない。

 よいことだ。とても嬉しい。


 安心して、俺はFランクでも受注できる初級クエを見て回る。


「薬草集め……いいんだが、報酬が高いな……」


 俺はいわば偽装Fランク冒険者だ。

 安全な仕事は若者に回すべきだろう。報酬が高いのならなおさらだ。

 俺は面倒かつ、危険で、報酬の少ない仕事を選ぶべきだ。


「……これだな」


 吟味した結果、ゴブリン退治のクエを引き受けることにした。

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