俺がゴブリン討伐クエを選んだ理由はいくつかある。
第一に、依頼元の村が貧しいためだろう。とても報酬が安い。
第二に、ゴブリンは人間の小児ぐらいの強さしかない弱い魔物だ。
だが、群れになると厄介だ。舐めたら新人冒険者など簡単に死ぬ。
数はそれだけで脅威となる。
実際、ゴブリン討伐で命を落とす新人は珍しくはない。
第三に、そしてこれが一番重要なのだが、村への被害は無視できない。
ゴブリンは家畜を盗み、畑を荒らす。そして最後には人までさらうようになる。
農村にとっては大きな脅威だ。
そこまで考えて、特に厄介そうなゴブリン退治クエを受注することを決める。
俺が受付で引き受ける旨を伝えると、受付嬢が心配そうに言う。
「ソロですか?」
「はい。その予定です」
「新人さんがソロでゴブリン退治というのは危険ですよ?」
「それは知っていますが、大丈夫です」
「ゴブリンを舐めて死ぬ新人さんは少なくないんです」
引き留められた。
俺の真のランクはSだ。魔法を使わなくてもゴブリン程度には充分勝てる。
だが、表向きは新人の戦士ソロによるゴブリン退治だ。
自殺行為に見えるのだろう。
受付嬢が引き留めるのは純粋なる良心からだろう。
リスクをきちんと説明できる受付は貴重である。ゴランの指導の成果だろうか。
受付嬢と話し合っていると、後ろから声をかけられた。
「俺たちと一緒に行くかい?」
「君たちは?」
「俺たちもFランク冒険者なんだ。魔法使いと弓スカウト。前衛が足りてないんだよ」
「あなたは戦士なのでしょう? 一緒に行きましょう」
声をかけてきたのは若い男の冒険者二人組だ。
それを聞いていた受付嬢も、
「それがいいですよ! 絶対それがいいです!」
強く勧めてくる。
ソロでなければ生還率は跳ね上がるのだ。
本当はソロがよかった。だが、受付嬢を説得する自信がない。
それにFランク冒険者ということは、彼らも新人だ。
新人育成も先達の役目。断るべきではないだろう。
「じゃあ、一緒に行こうか。よろしく頼む」
「俺はアリオ。ファイアーボールが使える」
「俺はジョッシュです。弓なら任せてください」
「俺はロックだ。剣を使う」
実際に剣を使うので嘘ではない。
俺の冒険者カードも、第二職業の方の戦士だけ表示されるようになっている。
アリオとジョッシュの二人と一緒に王都を出た。
門のところで衛兵にお礼を言う。
衛兵たちは半裸の俺に服をくれた。
「この前はありがとうございました」
「いやいや。かまわんさ。それより知り合いには会えたようだな」
俺の服装を見て、衛兵たちは笑顔になった。
「はい。おかげさまで」
「冒険に出かけるのか?」
「はい、ゴブリン退治です」
「そうか、気をつけろよ」
再度お礼を言ってから、門を出た。
そしてゴブリン被害の出た村へと向かう。
道中、俺は二人に尋ねた。
「二人とも随分と若いんだな」
「そうか? 俺たちは、もう18だぞ。ロックもそう変わらないだろ?」
「いや……」
そんなわけはない。
30歳で次元の狭間に行った。それから10年戦った。
だから40歳ということになる。
だが、正直に言うと40歳のFランク冒険者ということになって怪しまれる。
「いや、アリオたちよりも、もう少し……いや、だいぶ上だ」
「そうか。若く見えるんだな」
「はい、若く見えます」
アリオたちはお世辞がうまいらしい。
いや、ゴランたちが俺が若返ったと言っていた。
ドレインタッチの効果だろうか。
やはり、ドレインタッチ美容法で金儲けできるかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていく。
アリオたちとの会話の中で、出身地の話になった。
アリオとジョッシュは田舎から出て来たばかりなのだという。
田舎では魔獣退治やゴブリン退治などをしていたらしい。
「ゴブリン退治は得意なんだ。だからロックも大船に乗ったつもりでいいぞ」
「それは頼もしい」
「ゴブリン退治は面倒だが、農村にとっては脅威だからな」
「ロックさんも農村が心配で、ひきうけたのでしょう?」
「まあ、そうだ」
俺がそう答えると、アリオたちは笑顔になる。
「そうだと思ったんだ。ゴブリン退治なんて新人でもやりたがらないからな」
農村を心配している者同士ということで、意気投合することができた。
アリオは明るいお調子者。ジョッシュは真面目で無口な青年の様だ。
1日以上歩いて依頼元の村につく。到着時刻はちょうど昼頃。
途中の野宿も久しぶりで楽しいぐらいだった。
村人から被害の状態や、ゴブリンがやってくる方向などを聞く。
「牛が盗まれまして……」
「大体、西の方の柵が壊されていることが多いです」
「先日は、羊を……」
かなり被害が大きいようだ。だからこそ、冒険者ギルドに依頼を出したのだろう。
「となると、巣穴は向こうの方だな」
「ああ」
「規模的にはゴブリン十匹ってところですね」
「そうだな」
アリオとジョッシュの判断はそう間違ってないと思う。
だから何も言わない。
だが、少しゴブリンの規模を読み間違っている気もする。
牛や羊を頻繁に盗むような群れはかなり大きいはずだ。
十匹どころではないと考えるのが自然だ。
それでも俺がいれば危険はない。アリオたちは危なくなれば助けてやればいいだろう。
俺たち三人パーティーは、ゴブリンの巣穴があるらしい方向へと歩いて行った。