目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

37 Fランク戦士対第六位階

 転移魔法陣に飛び込むと、方向感覚がぐにゃぐにゃする。

 それを抜けると、石でできた部屋に出た。


「何者!」


 声とともに、一体のヴァンパイアが飛びかかってくる。

 アークヴァンパイアだ。


 俺は素早く尋問でも絶大な効力を発揮した幻術を展開する。

 俺の声と外見をヴァンパイアロードだと認識させる。


 それから鋭い爪で襲いかかってきたアークヴァンパイアの手首を掴んだ。


「控えよ」

「こ、これは……第八位階さま」


 どうやら、俺とシアが倒したロードは第八位階というらしい。

 おそらく数字が若い方が偉いのだろう。

 ということは、ここにいる第六位階の方が偉いに違いない。


「獣人に討滅されたと……」

「我が、犬どもごときに討滅されただと? 不愉快なことを言うものだ。死にたいようだな」

「こ、これは申し訳ございません。平に平にご容赦を」

「まあ、よい」


 そう言って、俺はアークヴァンパイアの腕を放す。

 アークヴァンパイアは幻術だとかけらも疑っていない。


 もともと魔力の高いヴァンパイアは精神攻撃耐性が高い。

 幻術など食らったことがないのだろう。


 だが、結局は魔力の比べあい。

 幻術つかいが、ヴァンパイアよりも高い魔力を持っていれば、幻術は効く。


「なぜ、第八位階さまが転移魔法陣を?」

「ハイロードさまからの密命をうけて王宮に忍び込んだのだが、第六位階のレッサーどもに鉢合わせてな」

「そうでございましたか」

「ところで、第六位階はおるか?」

「はい」

「ハイロードさまからの言伝がある。案内せよ」

「はっ」


 アークヴァンパイアは何の疑いも持たずに部屋を出て廊下を進んでいく。

 かなり大きな建物のようだ。


 尋問したレッサーヴァンパイアは、王都近くの村に第六位階がいると言っていた。

 だが、この建物は村長クラスの家よりずっと広い。城塞クラスだ。

 あとで、この建物がどういうものか調べなければなるまい。


 廊下を歩いているさなか、数体のレッサーヴァンパイアとすれ違う。

 そのたびに幻術をかけていく。

 幻術は高等魔法だ。魔力消費はけして低くはない。

 だが、俺は気にしない。まだ、魔力には余裕があるのだ。


 アークヴァンパイアはどんどん進み、立派な扉の前で立ち止まる。


「第六位階さま。第八位階さまをお連れしました」


 アークヴァンパイアが扉を開く。ヴァンパイアロード特有の濃い魔力を感じた。

 その瞬間、俺は動く。


 魔神王の剣を抜き、アークヴァンパイアを縦に切り捨てる。


「えっ?」

 何が起こったのかわからない。

 そんな顔をしながら、アークヴァンパイアは切り口から灰になっていく。


 そのまま部屋に飛び込むと、三体のアークヴァンパイアがとびかかってきた。

 第六位階らしいヴァンパイアロードは部屋の奥だ。


「雑魚はどいてろ」

 一体目の首をはね、そのまま二体目の胴を横になぐ。

 そのときには三体目の爪が俺の眼前に迫っている。

 左手で三体目の手首を掴むと、顎を蹴り上げる。あごの骨を砕き、牙が飛んだ。


「ぐがっ」

 変な声を出しながら、後ろによろけた三体目を剣で切り裂く。

 まったく手加減はしていない。手こずっていたら第六位階に逃げられかねない。

 三体は順に灰になっていく。


 さすがは魔神王の剣。効果は絶大だ。


「貴様、何者だ!」

「お前に名乗る名前はねーよ」


 第六位階は無詠唱で魔法を発動してくる。

 魔法の矢だ。一気に数百本の矢を作り出し、同時に放ってくる。


 さすがはヴァンパイアロードである。

 その速さはどんな熟練の狩人の放つ強弓の矢より速い。

 その上、軌道は不規則で、全く読めない。


「しゃらくさい!」

 だから、俺はかわさない。魔神王の剣を一振り。

 自分に当たりそうな矢だけを叩き落とす。


「化け物が!」

「お前にだけは言われたくねーよ!」


 逃がすつもりはない。

 だが、万一逃げられた時のため、俺は魔法を使わないことに決めていた。

 俺が魔導士だとハイロードには知られないほうがいい。


 だから、俺は剣で切りかかった。第六位階も自らの剣で受ける。

 俺の渾身の一撃にもかかわらず、第六位階の剣は折れなかった。


「いい剣だな」


 俺は連続で切りかかる。休ませない。


「ッツゥ……」


 第六位階は顔を引きつらせ、懸命に防御している。

 魔神との長い戦いで、剣での戦いのコツもだいぶわかっている。

 ようは相手の意表を突けばよいのだ。


 相手の意図しない場所に、そして力を抜いた瞬間に打ち込めばよい。

 そして、相手の渾身の攻撃は、まともに受ける必要はない。流せばいいのだ。

 つまり魔法戦と基本は同じだ。


 第六位階の攻撃をそらしてから剣を薙ぐ。

 剣を防ごうと、第六位階が身構えた瞬間、足でその顔を蹴りぬいた。

 意表を突いた打撃は効果が高い。


 第六位階はよろける。その隙に剣をもつ右手を切り落とした。

 魔法の矢を再度放ってきた。だが先程より数が少ない。

 容易にかわして、左手も切り落とす。


 ヴァンパイア退治はここからが難しい。

 とどめを刺すのはたやすくとも、尋問するために拘束するのが難しいのだ。


 案の定、第六位階は体を小さなコウモリに変えて逃げようとする。

 そこを魔神王の剣で切り裂いた。


「ぐぅあああ」

 コウモリになりかけた部分が灰になっていく。

 一匹たりとも逃がすわけにはいかない。すべて切り落とす。


 そして第六位階は首以外が灰になった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?