首だけになった第六位階に魔神王の剣を向ける。
「さて……」
聞きたいことはたくさんある。
王宮に魅了したものを送り込んだ方法などは特に知りたい。
だが答えてもらえる気がしない。
幻術を使えば、姿は偽れる。だが、相手はヴァンパイアロードだ。
いくら俺の魔力でも完全にだますのは難しい。
「よくも王宮に手を出してくれたな」
「……反撃の早さから考えて襲撃は失敗したのだろうな」
「当たり前だ。レッサーごときに何を期待している」
「……残念だ」
そう言った第六位階は少しだけ微笑んだ。
一応聞いてみる。
「どうやって、手のものを送り込んだんだ?」
「ふっ。おぬしも答えが得られるとはおもっておるまい?」
そして第六位階の頭は灰になっていく。
自分に残ったわずかな魔力を使って自害したのだ。
尋問を恐れたのかもしれない。
第六位階はさわやかに言う。
「人間よ。壮健に、穏やかにすごすがよい」
「なに?」
「どうせ、すぐに我らが王に殺されるのだからな。短い人生せいぜい楽しめ」
第六位階は笑いながら、灰に変わる。あとにはメダルと魔石が残された。
メダルはとても禍々しい。かなり呪いが溜まっているようだ。
俺とシアが倒した第八位階と呼ばれたロードのメダルより禍々しい。
ゴブリンを配下にせざるを得なかった第八位階より、人の血を多く吸ったのだろう。
俺はメダルを魔神王の剣で切って割った。呪いを剣に吸わせて浄化するためだ。
魔石とメダルを回収して、部屋を出る。
第六位階の持っていた剣も持っていく。
軽いうえに、魔神王の剣と打ち合って折れなかったのだ。相当な業物だ。
俺はすれ違うヴァンパイアをすべて、魔神王の剣で切って捨てる。
一体も逃がすつもりはない。
気配を消し、幻術も発動し、敵だと認識させずに倒していった。
アークヴァンパイアを15体にレッサーヴァンパイアを40体狩った。
狩りつくした後、砦の外に出る。そこは作られたばかりの砦だった。
地図に載っていないはずだ。第六位階がごく最近に作り上げたのだろう。
近くには村があった。人間が一人もいない。代わりに数十の灰の山があった。
第六位階が死んだことで眷属が灰になったのだろう。
村の名前と位置を確認すると、俺はまた第六位階の拠点に戻る。
そして転移魔法陣を通って王宮に戻った。
ゴランとエリックとシアとセルリス、それにルッチラとゲルベルガが待機していた。
ゴランが駆けよってくる。
「ラック、どうだった?」
「向こう側の拠点にいたヴァンパイアどもは皆殺しにした」
そういって、机の上に50体分以上の魔石と割れたメダルを載せた。
「さすがはラックだな。仕事が早い」
「向こうにいたロードは第六位階と呼ばれる奴だったのだが、尋問は出来なかった」
「ロードともなれば、そりゃ口を割らせるのは難しいだろーな」
俺は王女が心配になった。
「エリック、王女たちは大丈夫か?」
「ああ、妻と娘にはヴァンパイア狩りの経験を持つ近衛をつけておる」
近衛、つまり近衛騎士は騎士の中でも精鋭だ。
ヴァンパイア狩りの経験があるのなら、申し分ない。
それから俺はエリックたちに向けて詳しめの報告をする。
特に、新たな砦と人のいない村の位置は重要だ。
「その砦と村にはすぐにギルドから冒険者を送っておこう」
「兵隊も送ったほうがよいな」
「頼む」
そこに侍従の一人が駆けてきて報告する。
王宮の中で急に灰になったものが出たらしい。その数5人。
気絶した者は30人でたとのことだ。
灰になったのは、第六位階の眷属、気絶した者は魅了されたものだろう。
「これは、王宮に相当数入り込まれていると考えたほうがいいな」
俺がそういうと、エリックとゴランもうなずく。
第六位階以外のロードも王宮に自分の手の者を送り込んでいると考えたほうがいい。
眷属は狼の獣人に頼めば見分けてくれるだろう。だが、王宮は広く人員は多い。
調べきるには何日かかるかわからない。
魅了されているものは、シアたち狼の獣人でも見分けがつかない。
熟練の魔導士が一人一人時間をかけて調べていくしかないのだ。
眷属を調べるよりも時間はかかるだろう。
俺はゲルベルガを見た。ルッチラに抱かれたまま不安そうにこちらを見ている。
「ゲルベルガさまは俺と行動したほうがいいかもしれないな」
「王宮が危険っていうのはわかるが、俺んちならまだ大丈夫だと思うぞ」
「いや、王宮と同じ手段を使われたら、ゴランの家も安心できない」
「それはそうかもしれねーが……」
「ゲルベルガさまと一緒に、俺がヴァンパイアハイロードを殺しにいく」
転移魔法陣を王宮内部に運びこまれるのが一番厄介だ。
ヴァンパイアに直接乗り込まれる。
魔導士以外には、魔法陣を見分けるのは難しい。
王宮には何千枚もの皿がある。そのすべてを魔導士がチェックするというのは不可能だ。
「ラックに任せた方が安全かもしれぬ。だがなゲルベルガさまは絶対に渡すわけにはいかん。だから俺も同行させてもらうとしよう」
「そうだな。俺もエリックに賛成だ。俺とエリックがラックに同行しよう。それが一番安全だ」
俺一人ならば、万が一がある。
だが、エリックたちとのパーティーならば安全度は上がる。ゲルベルガも守りやすい。
「そうだな。三人とシアでヴァンパイアハイロードを討伐しに行くか」
そういうことになった。