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74 お風呂

 俺は屋敷の中にガルヴを避難させた。

 嗅覚が鋭いので、悪臭には弱いのかもしれない。


 その後、みんなで煙を見つめていると、ミルカが出てきた。

 ミルカとルッチラはずっと家の中でお掃除等をしていたようだ。


「くさっ! 臭いぞ!」

「下水で繁殖していた魔鼠の死骸を燃やしているんだ。少し我慢してくれ」

「そんなもんよく拾ってくるよな。びっくりだよ!」

「拾ったわけではないんだが……」


 趣味で拾ってきたと思われたのかもしれない。

 ミルカは冒険者のシステムを知らないので、仕方がない。


 燃えたのを見届けた後、アリオが言う。


「じゃあ、俺たちは魔鼠の魔石を冒険者ギルドに届けに行くぜ」

「セルリスさんとロックさんも一緒に来てください」

 魔石を届けた後、冒険者カードに討伐数を記録しなければならないのだ。

 討伐数を稼いでいけば、ランクも上がっていく。だから大切だ。


「セルリスは行ってきなさい」

「ロックさんは?」

「俺はいいや」


 正直、下手に討伐数を稼いで、ランクが上がると面倒だ。

 ランクが上がると、冒険者カードを魔道具にかけられる。

 そうすれば、隠ぺいしていることがすべてばれる。

 Sランク魔導士であることや、大公爵であることなどだ。


 俺が目指すべきは万年Fランク戦士だ。


「もったいないぞ?」

「そうですよ。ゴブリンロードの群れと大量の魔鼠ですし、Eランク昇格も夢じゃないかも」

 アリオとジョッシュが真剣な表情で言った。


 アリオたちの言う通り、昇格も可能な功績かも知れない。

 だからこそ、困るのだ。

 昇格しなければいいのだが、基準をクリアしているのに申請しないのはとても怪しい。

 目立つのは避けたい。


「あまり……目立ちたくないからな」

「「あっ」」


 アリオとジョッシュが何かを察した表情になる。

 アリオたちは俺のことを暗殺ギルドの元幹部だと誤解している。

 屋敷を見て、さすが凄腕の暗殺者は金があるのだなあと思っていた節もある。


 暗殺ギルドの元幹部だから、目立つと元居た組織に襲われると勘違いしたのだろう。

 もう、一緒に行こうとは言わない。


 本当に元いた組織に狙われている暗殺ギルドの元幹部なら、大きな家に住むはずがない。

 だが、アリオたちは暗殺ギルドも暗殺者の常識もよくわかっていないのだろう。

 普通の人はそういうものだ。仕方がない。


「じゃあ、俺たちだけで行ってくるな」

「そうですね。それがいいかもです」

「報酬金だけ四分割して持ってくるな」

「いや、それもいらないぞ」


 俺がそういうと、アリオとジョッシュは眉をひそめた。


「なぜだ?」

「カビーノ捕縛で助けてもらったしな」

「それはそれで、きちんと報酬貰ったはずだが……」


 俺はアリオたちに説明する。

 ギルドを通した依頼ではなかったこと。

 それゆえ、ランク昇格の功績に加算されない。


 その上、ギルドの取り分がないのだ。

 ギルドを通して依頼するより、依頼側の払う金額が安かった。

 それはフェアではない。大目に払って当然なのだ。


 そんなことを、真面目に語る。


「とはいえ、ロックの報酬を俺たちがもらうとなると……」

「借りを作ることになってしまいます」

「いや、これは俺がアリオとジョッシュに借りを返すのだ」


 しばらく、説得してやっと納得してもらった。

 アリオ、ジョッシュ、セルリスは魔石をもってギルドに向かって歩いて行った。


 俺は焼けた魔鼠の骨を地面に埋めることにした。


「おれも手伝うぞ!」

「ぼくも手伝いますね」

 ミルカと、屋敷から出てきたルッチラが穴掘りを手伝ってくれる。


「がうがう!」

 火が消えて戻ってきたガルヴも手伝ってくれる。

 一生懸命、前足で土を掘っていた。


「ココッ」

 ルッチラと一緒に庭に出てきたゲルベルガは。庭を散歩していた。


 埋め終わった後、ミルカが言う。


「やっぱり臭いな!」

「魔鼠を燃やすとどうしてもな」

「ちがーう! ロックさんが臭いんだぞ! どぶみたいな臭いがする」

「あっ」

 下水に入ったのだ。臭くなるのは当然だ。


「ロックさん、風呂には入らないのかい? おれは入った方がいいと思うぞ」

「そうだな。そうしようかな」

「おう! いつでも風呂に入れるように準備してあるんだ!」

「それは助かる。ありがとう。ミルカ」

「し、仕事だしな! 気にしないで欲しいんだぞ」


 ミルカは照れていた。


 俺はいったん自室に戻って、着替えをとる。

 そして風呂場に向かった。


「ががうーがうー」

 ガルヴが嬉しそうに尻尾を振ってついて来る。


「俺はガルヴもお風呂に入るべきだとは思うが……お風呂入ったことあるか?」

「がう?」


 ほとんどの猫は風呂が嫌いだ。だが、犬は個体による。

 それでも犬もお風呂嫌いな個体の方が多い気がする。


「一応、川で洗ったけど、お風呂でもういっかいきれいにしような」

「がう!」


 風呂場はかなり広かった。さすがは貴族の屋敷である。

 ミルカとセルリスが、しっかり掃除をしてくれたのだろう。

 とても綺麗だった。


「ガルヴ、洗ってやるからこっち来なさい」

「がう」

 石鹸をつけてわしわし洗った。


「下水は汚いからなー。しっかり洗わないとな」

「がふぅ」


 ガルヴは気持ちよさそうにしていた。

 お風呂は嫌いではないようだ。


 ガルヴを洗った後、俺も念入りに洗って、湯船に入った。


「風呂は気持ちいいな!」

「がう!」


 ガルヴもとても気持ちよさそうだった。

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