風呂から上がり、脱衣所から出るとルッチラがいた。
大きめのたらいを持っていた。
その後ろにはゲルベルガもいる。
「ルッチラもお風呂か?」
「いえ、ゲルベルガさまに水浴びしてもらおうと思って」
「ココゥ!」
「砂浴びは聞いたことあるが……水浴びもするのか?」
「こっ」
どうやらするようだ。
「見せてもらっていいか?」
「こぅ!」
「もちろんです」
ルッチラはお風呂場に行くと、たらいに水を入れた。
「ゲルベルガさま用意できましたよ」
「こ」
一声鳴いて、ゲルベルガはたらいに入る。
「水でいいのか?」
「むしろお湯じゃないほうがいいみたいです」
「ここ」
「そうなのか」
ニワトリの生態は複雑である。
ゲルベルガは、水に入ってバシャバシャし始めた。
砂浴びしている時の行動とそっくりだ。
ひとしきりバシャバシャした後、ルッチラが言う。
「石鹸で洗いますねー」
「ココ」
ルッチラはゲルベルガに石鹸をぬって洗っていく。
ゲルベルガも大人しく洗われていた。
水浴びはともかく、ニワトリは普通、石鹸で洗われるのを嫌がるものだ。
さすがは知能の高い神鶏である。
「ゲルベルガさまは綺麗好きなんだな」
「こっ!」
「そうなんですよー。ただのニワトリとは全く違いますからね。排泄もちゃんとトイレでしますし」
普通、ニワトリというか鳥にトイレをしつけるのはとても難しい。
鳥は空を飛ぶために、体重を軽くする必要がある。だから常に出すのが基本だからだ。
飛ばないニワトリも基本はそうだ。さすがは神鶏である。
「トイレの扉、ゲルベルガさまでも開けられるようにしたほうがいいな」
「ココッ!」
ゲルベルガは嬉しそうに鳴いた。
今のトイレでも、ガルヴは自分で開けれるがゲルベルガにはどうしても無理だ。
ゲルベルガの水浴びが終わると、ルッチラはタオルで優しく拭く。
ゲルベルガは常に気持ちよさそうにしていた。
その後、トイレの扉の下部に、ゲルベルガが入れそうな入り口を作る。
扉の一部を魔法で切り取って、ゲルベルガが通れる程度の穴を作る。
そうしておいて、両開きの蝶番をつけて板を戻し、ゲルベルガでも開けるような扉にするのだ。
「ゲルベルガさま、入れるか試してみて」
「こっこ」
ゲルベルガはトイレに自分で入った。
「ココゥ!」
そして出てくると、嬉しそうに鳴く。
バサバサと少し飛んで、俺の胸元に飛びこんでくる。
「どうした?」
「ここぅこう」
「ありがとうって言ってますよ」
ルッチラが笑顔で言った。
俺はゲルベルガを抱えて、撫でてやる。喜んでもらえてよかった。
そんなことをしていると、玄関の方から、セルリスの声が聞こえてきた。
「ただいまかえりましたー」
「あ、セルリスねーさんだ!」
ミルカが走っていった。
そして、すぐにセルリスと一緒に戻ってきた。
「セルリス。おかえり。どうだった?」
「私も、アリオさんたちもEランクへの昇格審査にかけてくれるって」
「おお、おめでとう」
「まだ、昇格審査を始めてくれただけで、昇格したわけではないわ」
そういいながらも、セルリスは照れていた。
「セルリスねーさん、すごいよ!」
「審査申請を受け付けてもらえるってだけで、ひとまずはおめでとうだぞ」
一定基準をクリアしないと、審査申請すら受け付けてもらえない。
アリオとジョッシュは、ゴブリンロードの群れと大量の魔鼠退治を評価されたのだろう。
セルリスはヴァンパイア退治と魔鼠退治だろうか。
王宮でのアークヴァンパイア退治も評価されたに違いない。
「アリオたちは?」
「疲れたから宿に帰るって言ってたわ。ロックさんによろしくって」
「そうか。過酷な魔鼠退治だったからな」
アリオもジョッシュも魔力の限界まで、矢が尽きかけるまで戦っていた。
疲れないわけがない。
セルリスが言う。
「ロックさん。どうだった?」
「どうだった、とは?」
「謎のかけらのことよ」
魔鼠が密集していた下水の中と、魔鼠の遺体から回収したかけらがあった。
魔鼠を燃やした後、調べてみようという話になっていた。
セルリスたちはギルドに、俺は風呂に入っていたので忘れていた。
「これから調べるところだ」
「なんのかけらなのかしら。気になるわ」
「なんだいなんだい? 面白そうなものなのかい?」
ミルカが目を輝かせている。
俺は居間へと移動する。
ルッチラ、セルリス、ミルカ、ゲルベルガとガルヴもついてきた。
俺が居間の机の上に、謎のかけらを広げると、皆が身を乗り出して見てくる。
俺は並べたかけらを観察する。どれも小さい。謎の金属製だ。
ヴァンパイアロードが体内に埋めていたメダルの素材に似ている。
「あらかじめ言っておくが、基本汚いからな? みだりに触るなよ」
下水の中から拾ったものと、魔鼠の体内にあったものだ。臭いし汚い。
「がぇ……」
せっかく忠告したのに、ガルヴは勢いよく臭いを嗅いだ。
そして、顔をそむけた。臭かったのだろう。懲りない奴である。
ガルヴは俺の方に来て鼻をお腹に押し付けてくる。
そんなガルヴをみて、ルッチラとミルカはうんうんと頷いた。
ゲルベルガは机の上には乗ったが、一定の距離をとっている。さすがは神鶏さまである。
気を取り直して、俺はかけらを観察する。
臭いので顔は近づけない。
「砕かれたって感じだよな。組み合わせてみるか」
「パズルみたいね」
セルリスが笑顔で言った。
俺は黙々と、組み合わせを試していく。
「意外と難しいな」
「ん? ロックさん。ちょっと待ってくれよ」
かけらを見つめていた、ミルカが言った。