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75 神鶏の水浴び

 風呂から上がり、脱衣所から出るとルッチラがいた。

 大きめのたらいを持っていた。

 その後ろにはゲルベルガもいる。


「ルッチラもお風呂か?」

「いえ、ゲルベルガさまに水浴びしてもらおうと思って」

「ココゥ!」

「砂浴びは聞いたことあるが……水浴びもするのか?」

「こっ」

 どうやらするようだ。


「見せてもらっていいか?」

「こぅ!」

「もちろんです」


 ルッチラはお風呂場に行くと、たらいに水を入れた。


「ゲルベルガさま用意できましたよ」

「こ」

 一声鳴いて、ゲルベルガはたらいに入る。


「水でいいのか?」

「むしろお湯じゃないほうがいいみたいです」

「ここ」

「そうなのか」


 ニワトリの生態は複雑である。

 ゲルベルガは、水に入ってバシャバシャし始めた。

 砂浴びしている時の行動とそっくりだ。

 ひとしきりバシャバシャした後、ルッチラが言う。


「石鹸で洗いますねー」

「ココ」


 ルッチラはゲルベルガに石鹸をぬって洗っていく。

 ゲルベルガも大人しく洗われていた。

 水浴びはともかく、ニワトリは普通、石鹸で洗われるのを嫌がるものだ。

 さすがは知能の高い神鶏である。


「ゲルベルガさまは綺麗好きなんだな」

「こっ!」

「そうなんですよー。ただのニワトリとは全く違いますからね。排泄もちゃんとトイレでしますし」


 普通、ニワトリというか鳥にトイレをしつけるのはとても難しい。

 鳥は空を飛ぶために、体重を軽くする必要がある。だから常に出すのが基本だからだ。

 飛ばないニワトリも基本はそうだ。さすがは神鶏である。


「トイレの扉、ゲルベルガさまでも開けられるようにしたほうがいいな」

「ココッ!」


 ゲルベルガは嬉しそうに鳴いた。

 今のトイレでも、ガルヴは自分で開けれるがゲルベルガにはどうしても無理だ。


 ゲルベルガの水浴びが終わると、ルッチラはタオルで優しく拭く。

 ゲルベルガは常に気持ちよさそうにしていた。


 その後、トイレの扉の下部に、ゲルベルガが入れそうな入り口を作る。

 扉の一部を魔法で切り取って、ゲルベルガが通れる程度の穴を作る。

 そうしておいて、両開きの蝶番をつけて板を戻し、ゲルベルガでも開けるような扉にするのだ。


「ゲルベルガさま、入れるか試してみて」

「こっこ」

 ゲルベルガはトイレに自分で入った。


「ココゥ!」

 そして出てくると、嬉しそうに鳴く。

 バサバサと少し飛んで、俺の胸元に飛びこんでくる。


「どうした?」

「ここぅこう」

「ありがとうって言ってますよ」


 ルッチラが笑顔で言った。

 俺はゲルベルガを抱えて、撫でてやる。喜んでもらえてよかった。


 そんなことをしていると、玄関の方から、セルリスの声が聞こえてきた。


「ただいまかえりましたー」

「あ、セルリスねーさんだ!」


 ミルカが走っていった。

 そして、すぐにセルリスと一緒に戻ってきた。


「セルリス。おかえり。どうだった?」

「私も、アリオさんたちもEランクへの昇格審査にかけてくれるって」

「おお、おめでとう」

「まだ、昇格審査を始めてくれただけで、昇格したわけではないわ」

 そういいながらも、セルリスは照れていた。


「セルリスねーさん、すごいよ!」

「審査申請を受け付けてもらえるってだけで、ひとまずはおめでとうだぞ」


 一定基準をクリアしないと、審査申請すら受け付けてもらえない。

 アリオとジョッシュは、ゴブリンロードの群れと大量の魔鼠退治を評価されたのだろう。

 セルリスはヴァンパイア退治と魔鼠退治だろうか。

 王宮でのアークヴァンパイア退治も評価されたに違いない。


「アリオたちは?」

「疲れたから宿に帰るって言ってたわ。ロックさんによろしくって」

「そうか。過酷な魔鼠退治だったからな」


 アリオもジョッシュも魔力の限界まで、矢が尽きかけるまで戦っていた。

 疲れないわけがない。


 セルリスが言う。


「ロックさん。どうだった?」

「どうだった、とは?」

「謎のかけらのことよ」


 魔鼠が密集していた下水の中と、魔鼠の遺体から回収したかけらがあった。

 魔鼠を燃やした後、調べてみようという話になっていた。

 セルリスたちはギルドに、俺は風呂に入っていたので忘れていた。


「これから調べるところだ」

「なんのかけらなのかしら。気になるわ」

「なんだいなんだい? 面白そうなものなのかい?」


 ミルカが目を輝かせている。


 俺は居間へと移動する。

 ルッチラ、セルリス、ミルカ、ゲルベルガとガルヴもついてきた。


 俺が居間の机の上に、謎のかけらを広げると、皆が身を乗り出して見てくる。

 俺は並べたかけらを観察する。どれも小さい。謎の金属製だ。

 ヴァンパイアロードが体内に埋めていたメダルの素材に似ている。


「あらかじめ言っておくが、基本汚いからな? みだりに触るなよ」

 下水の中から拾ったものと、魔鼠の体内にあったものだ。臭いし汚い。


「がぇ……」


 せっかく忠告したのに、ガルヴは勢いよく臭いを嗅いだ。

 そして、顔をそむけた。臭かったのだろう。懲りない奴である。

 ガルヴは俺の方に来て鼻をお腹に押し付けてくる。


 そんなガルヴをみて、ルッチラとミルカはうんうんと頷いた。

 ゲルベルガは机の上には乗ったが、一定の距離をとっている。さすがは神鶏さまである。


 気を取り直して、俺はかけらを観察する。

 臭いので顔は近づけない。


「砕かれたって感じだよな。組み合わせてみるか」

「パズルみたいね」


 セルリスが笑顔で言った。

 俺は黙々と、組み合わせを試していく。


「意外と難しいな」

「ん? ロックさん。ちょっと待ってくれよ」


 かけらを見つめていた、ミルカが言った。

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