ミルカはかけらを上からじっと見る。
それから臭いにも構わず、顔を近づけたり、遠ざけたりし始めた。
その表情は真剣そのものだ。
「ミルカ、どうした?」
「これとこれだろ? そしてこれとこれがくっついて、これとこれだから、これとこれで……」
ミルカはあっという間にかけらを組み立てていった。
いくつか、足りないかけらがあるようだ。多少かけている。
だが、八割がた復元できたと言っていいだろう。
「……すごい」
「ミルカやるわね!」
「ここここ」
ルッチラとセルリスが感心している。
ゲルベルガも少し離れたところで、鳴いていた。きっとほめているのだろう。
「へへ。大したことじゃないさ!」
「いや、本当に凄いぞ。ミルカにこんな特技があったとはな」
「照れるぜ」
ミルカはすごく照れている。顔を真っ赤にしていた。
ひとしきり、ミルカを称賛した後、組み立てられたものの検証に入る。
組み立て終わった物体は、成人男性の手のひら大だ。
「なにかしら。これ。おぞましい形ね。呪いのアイテムかしら」
「呪いの力は感じないな」
「そうなのね」
ヴァンパイアロードのメダルに素材が似ているのでそれを最初に警戒した。
だが、どうやら呪いが溜まっているというわけではなさそうだ。
その点はひとまず安心である。
「うーん。タコかしら。でも違うわよね」
「うーん。セルリスさんはこれを足だと考えているんですね? それならタコっぽくはありますけど……」
「これが足なら、こっちが上半身なのかい? おれには、さっぱりわからないぜ」
セルリス、ルッチラ、そして組み立てたミルカにもわからないようだ。
セルリスがタコかもと判断したのは、タコ足のようなものがあるからだ。
だが、タコ足のようなものは八本以上ある。
「うーむ。足の数でもかぞえてみようか」
「十七本だぞ」
俺が数え始めようとすると、ミルカが教えてくれた。
実際に数えてみると、本当に十七本あった。
「ミルカ、すごいな。ぱっと見でわかるのか?」
「百超えたらしんどいけどな! 野菜販売店とかで小分けにする仕事とか昔やってたんだぞ」
「ミルカ、すごいわ! 天才ね」
「照れるぜ」
ミルカには意外な才能があったようだ。頭がものすごくいいのかもしれない。
照れ隠しするように、ミルカは言う。
「で、でも、上半身はこれなんだい? 人間でもなさそうだし。こういう生き物っているのかな?」
上半身は比較的人型に近い。ただし、腕が合計七本ある。
その上、コウモリの羽っぽいものまである。
「しかも、これ頭部がないわよね」
「うん。砕けた形跡はあるから、何かがついていたんだとは思うんだ」
セルリスとミルカは真剣な表情で話し合っていた。
ルッチラが言う。
「ロックさんでも、こういう魔物知らないですか?」
「俺も見たことないな」
「ロックさんでも知らないとなると、こういう魔物は存在しないのかもですね」
「うーん、どうだろうか」
そのときセルリスが言う。
「金属なのに砕けるって珍しいわね」
「まあ、曲がる金属の方が多いよな」
もろくて硬い金属なのだろう。
「とりあえず、臭いから洗うかい?」
「そうだな」
「じゃあ、おれが洗ってくるぜ」
「いや、ミルカは机を綺麗にしておいてくれ」
「了解だ!」
仕方がないとはいえ、机に汚いものを乗せてしまった。
きれいにしないと気持ちが悪い。
俺は台所に変な像を持っていく。
そして、ごしごしとあらった。血とかそういうのをとっていく。
しばらく洗って、臭いがとれた。
それでも、汚い気がするので、木箱に入れる。
これで、机などに直接触れさせなくても済む。
「机綺麗にしたぞー」
「ミルカありがとう」
そして、ミルカは手を洗う。
「手が臭くなったからな!」
「手洗いは大切だな」
俺とミルカが手を洗っていると、ガルヴが見てくる。
「どうだ、ガルヴ?」
「……がう」
まだ臭いようだ。さらに念入りに洗った。
「ガルヴ、どうかな?」
「がうっ!」
ガルヴから臭くないというお墨付きをもらって、手洗いを終える。
像の臭いもガルヴに嗅いでもらった。
どうやら、臭いは落ちたようだ。
臭いの落ちた謎の像を木箱に入れたまま、居間へと運ぶ。
今ではルッチラとセルリス、ゲルベルガが待っていた。
ゲルベルガはセルリスのひざの上に座っていた。
「ゲルベルガさまは可愛いわねー」
「ここぅ」
セルリスがゲルベルガを優しく撫でている。
ゲルベルガはとても満足そうに眼を閉じて、小さな声で鳴いていた。
ルッチラも満足そうにうなずいていた。
「ゲルベルガさまは、威厳にあふれているだけでなく、可愛いのですよ」
「ゲルベルガさまは、可愛いよな!」
ミルカも撫でる。
一方、俺は机の上に謎の像を入れた木箱を置いた。
それを見た、ルッチラが言う。
「宮廷錬金術士の方々に鑑定をお願いするしかないでしょうか」
「うーむ。だが、こんな怪しい物体を王宮にもっていくのもな」
「確かにそうね……」
セルリスが真剣な表情でうなずいた。
レッサーヴァンパイアを王宮に侵入させた、召喚魔法陣と同種のものである可能性もある。
また、神の加護を緩和するアイテムである可能性も捨てきれない。
王宮にもっていくには、危険すぎる。
そんなことを俺が考えていると、玄関の方からシアの声が聞こえた。