邪神頭部が炭と化した後も、俺は油断しない。
仮にも邪神の頭部なのだ。炭からよみがえっても驚かない。
観察しながら考える。
「最後の魔法……。名前なににしようか……」
黒い光線なのだ。
いまいちな気がする。あとで考えることにしよう。
頭部をしばらく観察したが復活する様子はない。
「ひとまず安心だな……」
俺は炭になった頭部を調べる。
ヴァンパイアが炭になったときとあまり変わらないように思えた。
そして、俺は炭の中から小さな頭部の像を見つけた。
「これは、邪神像の無くなっていた頭部かもしれないな」
この頭部が、下水道から発見された邪神像のものならば、全身像がそろったことになる。
おそらく昏き者どもは、邪神の全身を召喚したかったのだろう。
だが、何らかの理由でかなわなかった。
呪いが足りなかったのか、生贄が足りなかったのか。材料が足りなかったのか。
もしかしたら、時間が足りなかったのかもしれない。
情報が足りなかったということもありうる。
「頭だけであの強さなら、全身が顕現していたら、俺も勝てたかわからないな……」
とても恐ろしいことである。
俺は灰と、頭部の像を魔法の鞄に放り込んだ。
「昏き神の加護のコアも持って帰った方がいいな」
昏き者どもに悪用されてはかなわない。確保して調べなければならないだろう。
そのころには、
ゴブリンどもは解凍されても息を吹き返すことはなかった。普通は凍った時点で命はない。
ヴァンパイアの大半も死んだままだ。解凍と同時に、そのまま灰へと変わっていく。
だが、邪神の部屋にいた一体のヴァンパイアは息を吹き返した。
余程生命力の高い、高位ヴァンパイアなのだろう。ハイロードかもしれない。
「……いったいなにが……」
きょろきょろする。そして邪神の頭部がないことに気づいて、唖然としている。
俺は幻術を使って、ここに来てから倒したヴァンパイアの一人に化けた。
「お目覚めになりましたか?」
「おお、第十位階か。どういう状況か?」
どうやら、俺の化けたのは第十位階というらしい。
つまり、ヴァンパイアロードだったのだろう。
第十位階に上から語り掛けるということはハイロードなのかもしれない。
通常の状態では、ハイロードに俺の幻術は通用しない。
おそらく、解凍したばかりで、脳みそが動いていないのだろう。
「いきなり周囲が凍り付き、一体何が起こったのか……」
俺はわからないふりをしておく。そうすることでボロが出にくくなるのだ。
「神は一体どうされたのだ? お姿が見えないようだが」
やはり頭部は、昏き者どもの神だったらしい。
それを確定できただけでもハイロードと会話した意義があったというものだ。
「消失なされました」
「消失? そんなわけはない。神は、完全体ではないのだ。動くことができるはずがない」
「完全体で無いとはいえ、神です。もしかしたら、氷から避難なされたのかもしれません」
「それはあり得ぬ。完全体でない以上、召喚魔法陣の上から一歩でも動いたら消滅してしまう」
「でしたら、神は一体どこに?」
「氷結で倒されてしまったのやも……」
ハイロードが顔をしかめた。
「まさか。我らですら耐えたのです。神が倒されるわけがないではありませんか」
「そうであるな……。む? 神から与えられた力が消えておる。そなたはどうだ?」
「……たしかに。消えている気がします」
適当に合わせておく。やはり邪神はヴァンパイアに力を与えることができるようだ。
「なんであれ、神が消失されたのなら、召喚しなおさなければなりませんね」
「そうだな。生贄をまた集めねばならぬ」
「我らが力を合わせれば、生贄ぐらい容易く集まるに違いありません」
「そうは言うが、やはり王都周辺を統括していたハイロードを殺されたのは痛いな。人間ごときに殺されおって」
「今度こそ、神の全身を召喚したいものです」
「ああ。ハイロードを殺されて焦ったのがまずかった。生贄の量が足りず、頭しか召喚できなかったのだからな」
ハイロードを殺したことはとても良かったようだ。
その時、後方から声がかけられる。
「ハイロードさま! 一体何が……」
まだ生き残りのヴァンパイアがいたらしい。
「第十八位階か。わからぬ。どういう状況だ?」
「ほぼ全滅です。私以外生き残っているものはおりません」
「なんということだ……。五人いたロードが、それも神に力を与えられた五人が、今や二人だけか」
そして、ハイロードは俺に向けて言う。
「第十位階。手を貸せ。まだ足が動かぬ」
その時、第十八位階がつぶやく。
「第十位階?」
第十八位階は解凍から立ち直った後、しばらく周囲を調べていたのだろう。
脳みそが動いているのだ。
それにハイロードより極限結氷の中心から遠かった。
だから、俺の幻術が効きが悪いのだろう。
「そろそろ限界か」
「第十位階?」
俺は手を伸ばす代わりに剣をふるう。ハイロードの首が飛んだ。
「なん……だと……」
唖然とするハイロードの首に剣をさらに突き刺した。
「貴様!」
第十八位階が襲い掛かってきた。
だが、今や邪神に与えられた力を失った、ただのロードだ。俺の敵ではない。
俺は右手で第十八位階の首をつかむ。
「吸収させてもらうぞ」
「な、なにを……」
俺は第十八位階にドレインタッチを発動する。ドレインタッチの発動自体久しぶりだ。
今回、邪神頭部との戦いで、片腕の筋肉の一部が炭となってしまった。
回復するには、ドレインタッチするのが早い。
ハイロードは強い。それゆえ、ドレインタッチの最中に暴れられる可能性もある。
だが、ヴァンパイアロードは適度に弱い。かつ魔力も生命力も大量だ。
ドレインタッチに最適な相手と言えるだろう。
見る見るうちに俺の腕が回復する。
それに伴い、第十八位階は、生命力と魔力を吸い取られしわしわになった。
「……あ……ぁ」
「ありがとう。助かった」
俺は第十八位階の首を剣でおとす。そして、頭部を貫きとどめを刺した。
「さて。後始末だな」
俺はヴァンパイアの灰から魔石を集める。ついでにメダルも集めた。
灰になっていないゴブリンの死骸を全て魔法の鞄に入れていった。