シアたちは風呂を出た後、眠るために部屋に戻った。
その後、ルッチラとゲルベルガさまも部屋に戻る。
それから、俺はゴランに尋ねた。
「なにかヴァンパイア関連の調査に進捗はあったか?」
「いや、特にこれといって……」
「そうか。そんなに早くわかるわけもないか」
本格的な調査の開始は今日からだ。
一日程度で何かがわかるのなら苦労はない。
「昏き者どもの神の頭部があった場所の調査に向かったAランクパーティーはどうなった?」
「ちょくちょく戻ってきて報告はしてくれているが……特にめぼしい情報はないな」
「そうか」
俺が一応調べた後だ。さらに何か見つけるのは大変かもしれない。
それから俺はガルヴと一緒に風呂に入って寝た。
ガルヴは風呂好きの狼らしい。とても良いことだと思う。
◇◇◇
次の日の朝。俺が起きると、ゴラン、セルリス、シア、ニアは既にいなかった。
それぞれ仕事があるのだろう。
ルッチラは魔導書を読んで勉強していた。
魔導士の成長には座学も大切なのだ。
「ミルカ、今日も外に出てくる」
「昼ごはんはどうするんだい?」
「外で食べてくるかな。夜ご飯までには帰る予定だ」
「了解だぞ」
俺はガルヴと一緒に冒険者ギルドに向かうことにした。
ガルヴは尻尾を振りながらついてくる。
「ガルヴは最近走ってないだろ」
「がう?」
「今日はなるべく王都の外の依頼を探す予定だ」
「がう!」
ガルヴは子供だが、大きな狼なので、必要運動量も多いはずだ。
王都の外で思いっきり走らせてやりたい。
「だが、走るとしても、ばてない程度にしておくんだぞ」
「がう!」
ガルヴは嬉しそうに尻尾を振った。
俺たちは冒険者ギルドに入って、依頼票を眺める。
「お、ゴブリン退治があるな。それも近場だ」
「がぅ?」
ガルヴは真面目な顔でお座りしていた。
「ゴブリン討伐任務は地味だが、放っておくと大きな被害につながるからな」
それに近場というのもいい。夕食までに帰れるだろう。
俺は依頼票をとって、受諾の手続きをするため受付に向かう。
「あ、ロックさん」
そのとき、ちょうど建物の奥からシア、ニア、セルリスが出てきた。
「ニアの冒険者登録か?」
「そうであります」
十五歳以上なら本人の申請だけで登録できるが、八歳だとそうはいかない。
当然、保護者の許可が必要だ。だから手続きが多少煩雑になる。
冒険者登録を済ませたばかりのニアは、少し緊張気味の表情だ。
セルリスはニアの頭を優しく撫でている。
シアは俺が手に持っている依頼票に目を向けた。
「ロックさんは、何の依頼を受けるでありますか?」
「ゴブリン退治だぞ。シアたちも一緒にどうだ?」
一人で受注しようとすると、受付がうるさいのだ。
俺はFランク戦士なので仕方がない。
「え、いいでありますか?」
「もちろんだ」
「お願いするであります!」
「ロックさんありがとう」
「よろしくお願いします!」
シア、セルリス、ニアに頭を下げられた。
「こちらこそよろしくだ」
「がう」
四人パーティーということになったので、すんなりと受諾できた。
四人と一頭で、王都を出て、ゴブリンが出たという場所へと向かって歩く。
街道近くを通っていた商人が、ゴブリンに襲われたのだという。
無事逃げることのできた商人が冒険者ギルドに報告して依頼が出されたのだ。
街道近くのゴブリン退治は、行政が責任をもって依頼を出すことになっている。
それゆえ、報酬はあまり高額ではない。
「ガウガァウ!」
王都の外に出られて嬉しいのか、ガルヴが駆けまわっている。
「ガルヴ、あまりはしゃぐとばてるぞ」
「ガウガウッ」
ゴブリン出没場所は遠くはない。昼前には到着できるだろう。
それでも、はしゃぎすぎると、ばててしまう。
はしゃぎまくっているガルヴと対照的に、ニアは緊張していた。
無意識なのか、剣の柄に手が触れていた。
「ニアはどのくらい戦闘訓練を積んだんだ?」
「はい。毎日半日ぐらい素振りや試合形式の稽古をしてきました」
「何歳から?」
「物心がついたころからなので……」
シアが笑顔で言う。
「我が一族では三歳からはじめるでありますよー」
「三歳からか。ニアは八歳だから、もう五年も訓練を積んでいるんだな」
「そうなります」
「まあ、油断したらだめだが、それほど気負わなくてもいいぞ」
「はい、頑張ります!」
充分気負いすぎている気がする。だが、はじめての冒険ならば仕方がない。
歩いている途中、シアはときどき足を止める。
そして、地図を取り出して、ニアに現在位置を確認させたりしていた。
本当に初歩の初歩から教えるようだ。そのぐらいでちょうどいい。
「ニア。いまの場所は地図のどこでありますか?」
「ここです」
「どうしてそう思ったであります?」
妹が何ができて何ができないのか、正確に把握しようとしているようだ。
シアは、いい先生だと思う。
ゴブリン出没地点に近づくと、シアの教えにスカウト要素が加わる。
ゴブリンの足跡から、数の確認や種類などを予測させるのだ。
セルリスもニアの後ろで真面目な顔で聞いていた。
そのさらに後ろでは、ガルヴが舌を出して肩で息をしていた。
「はふはうはふ」
「ガルヴ、ばててないか?」
「がう」
「ガルヴ、水を飲みなさい」
魔法の鞄に入れておいた水を器に入れてガルヴの前に置く。
大喜びで水を飲むガルヴのその背を俺は撫でる。
「ガルヴ。冒険の時は何が起こるかわからないからな。理由もないのに、走りまくったらだめだぞ」
「がう」
ガルヴは運動不足だったのかもしれない。
今度からは、散歩をしっかりさせてやらなければなるまい。