その後、ミルカが作ってくれた夕ご飯を皆で食べた。
ミルカがニアに嬉しそうに語りかける。
「ニアちゃんもここに住むのかい?」
「えっと、とりあえずは新しい家を借りるまでです」
「それは残念だぞ! なあ、ロックさん」
「そうだな。住んでくれたら寂しくなくていいんだけどな」
「がうがぅ」
ガルヴもシアとニアには住んでほしそうだ。
そんなことを話していると、ゴランがやってきた。
「ロック、遊びに来たぞ!」
「おう、よく来たな」
「ゴランさん、ご飯食べるかい?」
「おお、いいのか? 頼む」
「任せておくれ」
ミルカが素早くゴランの分の料理を用意する。
セルリスがくすくすと笑う。
「やっぱり、パパは今日も来たわね」
「セルリスこそ、当たり前のように来ているじゃねーか」
「それもそうね!」
そして、親子は笑いあった。
食事を終えると、セルリスは言う。
「ミルカちゃん、ニアちゃん! それにシア。一緒にお風呂入りましょう」
「あ、はい。お風呂いただきます」
「お風呂いただくのです!」
シアとニアは尻尾をびゅんびゅんと振った。お風呂が好きなのだろう。
だが、ミルカはゆるゆると首を振る。
「折角のセルリスねーさんのお誘いだけど、おれは後片付けがあるんだ」
「そうなのね……」
「お風呂はあとでいただくさ」
「じゃあ、私も後片付けを手伝うわね」
「いや、セルリスねーさんはお客さんだからな!」
ミルカがセルリスに遠慮していた。
そんなミルカたちに向けて俺は言う。
「ミルカもセルリスも、お風呂に入ってきなさい」
「え、だけど……後片付けが」
「後片付けは俺がやっておく」
「だけど、俺の仕事だしな」
「気にするな。風呂に入ってこい」
ミルカたちをお風呂に送り込んだ後、俺は食器を洗う。
「がうがう」
「こっここ」
俺が食器を洗っている後ろでは、ガルヴとゲルベルガさまがうろうろしていた。
ゲルベルガさまはガルヴの背の上に乗っている。仲が良いようで素晴らしい。
そこにルッチラが食器を持ってきてくれる。
「これで全部ですよー」
「おお、ありがとう」
「運び終わったので、ぼくも洗いますね」
「おお、助かる」
ルッチラと二人で食器を洗った。
ゴランも手伝うといったが、お客さんなので断った。
「ルッチラって、お風呂嫌いなのか?」
「えっと、そんなことはないですけど」
「そうか」
ミルカがルッチラはお風呂が嫌いと言っていた。
ずっと入っていなかったらしい。
「ルッチラは、いつから風呂に入っていなかったんだ?」
「えっと……」
「魔族の村を出てから、風呂に入ったことはあったのか?」
「……川で水浴びはしました」
「……なるほど」
まるで冒険中の冒険者みたいな生活だ。
お風呂嫌いというのは本当らしい。
「ゲルベルガさまは、水浴び好きそうだけどな」
「砂浴びも好きですよ」
「ここ!」
ゲルベルガが元気に鳴いた。
「今度、綺麗な砂を手に入れて庭に砂場を作ろうか」
「コゥ!」
ゲルベルガさまは嬉しそうに鳴いた。
「ルッチラ、ゲルベルガさまとガルヴも、ミルカたちが風呂を出たら一緒に入るか」
「い、いえ! 今日、ぼくはお風呂にもう入ったので!」
「別に二回入ってもいいと思うぞ」
「いえ! 大丈夫です! 大丈夫なので!」
「そうか」
ルッチラはよほど風呂が苦手らしい。
一方、ガルヴは尻尾を振りまくっていた。ガルヴはお風呂に入りたいのだろう。
食器の後片付けを終えて、居間に向かった。
居間ではゴランが待っている。
「手伝わなくて、すまなかったな!」
「ゴランは客だからな。それよりしばらく、だれも相手できなくてすまなかったな」
「気にするな。好きに酒飲んでたからな」
「そうか」
俺はゴランの盃に酒を注ぐ。
「ゴラン。セルリスの教育ってどうやったんだ?」
「……やはり、まずかったか? 迷惑かなりかけているか?」
ゴランは、どういう教育しているんだという説教だと思ったのかもしれない。
「すまない。誤解させたな。まったくもってそうではないんだ」
「ふむ?」
「ミルカはものすごく頭がいいらしい。だが、教育を受けてないから活かしきれていないと思う」
「なるほど。家庭教師か」
「そういうことだ。俺の徒弟になったからには、きちんとした教育を受けさえないと俺の恥だからな」
「それもそうだな。セルリスは学者を数人呼んだな。行儀担当とか歴史文化担当とかな」
「ふむふむ。その人たち紹介してもらうことって出来るか?」
「高齢な先生方が多かったからな……。体を壊したり、亡くなった人もいるから、全員は難しいぞ」
「そうか。エリックにいい家庭教師がいないか聞いてみるか」
ひざにゲルベルガさまを抱えて、大人しく聞いていたルッチラが言う。
「家庭教師ですか。確かにミルカには必要かもですね」
「何を他人事のように。ルッチラも勉強するんだぞ」
「えっ?」
「ルッチラも、まだ若いのだから当然だ」
「ありがとうございます」
ルッチラに頭を下げられた。
教育には金がかかる。だから、感謝したのだろう。
ゴランが真面目な顔で言う。
「ニアちゃんも、徒弟にするもんだと思っていたが、しないのか?」
「俺としてはまったくもって構わないのだがな。本人のが希望するかどうかだろ」
「なるほどな」
ニアにとっても、徒弟になった方がいろいろと便利なのは確かだ。
王都での保証人を手に入れるようなものでもある。
だが、ニアには立派な保護者がいる。こちらから、なりませんかということでもない。
そんなことを、話し合っているうちに夜は更けていった。