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100 ニアとシアとセルリスと部屋

 弟子入りが認められたニアは目を輝かせている。

 これからの冒険者生活にわくわくしているのかもしれない。

 そんなニアに、俺は先輩としてアドバイスすることにした。


「ニア、冒険者稼業は危険だぞ」

「肝に銘じます!」


 そう元気にこたえるニアは、きっと何もわかってはいない。

 だが、実際に危険に直面するまで、わかるはずがないのだ。

 俺もそうだったし、きっとシアもそうだっただろう。

 いくらアドバイスしたところで、大した意味はないのかもしれない。

 それでも、俺は言わずにはいられなかった。


「なによりも命が大切だ。いざとなれば逃げるのが大切だぞ」

「はい!」

「シアの言うことをよく聞かないとだめだぞ」

「はい!」


 不安だ。まだ八歳。幼すぎる。

 狼の獣人族の風習なのだろうが、怖いと思う。


「シアも八歳で冒険者になったのか?」

「そうであります」

「ずっと親父さんとペアでやっていたのか?」

「ペアもやりましたが、パーティー組むことが多かったと思うでありますよ」

「……なるほどなー」


 シアはセルリスに向かって頭を下げる。


「ど、どうしたの、シア」

「妹の面倒を見ないと行けなくなったでありますよ。セルリスとこれまでのように一緒に冒険できないであります」


 シアとセルリスは互いに呼び捨てで呼び合う間柄になったようだ。

 そして、やはり一緒に冒険していたようだ。


 シアとセルリスでは、冒険者としての経験は大きな差がある。

 だが、戦士としての力量ならば、ほぼ互角だ。ちょうどいいコンビといえるだろう。


 セルリスはシアの言葉を聞いて、表情を曇らせる。


「私が足手まといってこと?」

「違うであります」

「ニアちゃんの面倒を見るから、私の面倒まで見切れないってことかしら……」

「そうじゃないであります。ニアを連れて行くとなると、魔鼠退治とか小さなゴブリンの群れの退治とかが主になるでありますよ……」

「それがどうかしたのかしら」

「セルリスは、どんどん冒険者ランクを上げないとダメであります。私たち姉妹に付き合わせるわけにはいかないでありますよ」


 セルリスは真剣な顔でシアを見つめる。


「私が足手まといならはっきり言ってちょうだい」

「それは絶対ないであります」

「絶対なの?」

「絶対であります」


 それを聞いて、セルリスは笑顔になった。


「なら、構わないわ。三人で冒険しましょう? シアも最初のころパーティーでクエストこなしたってさっき言ってたわよね?」

「そうでありますが……。魔鼠とかになるでありますよ?」

「構わないわ」

「折角、ここ十年の最速記録でEランクに上がれそうなのに……」

「シア。私を見くびらないで欲しいわ。そんな記録に興味はないの」

「でも……」

「私は強くなりたいのよ」


 そして、セルリスは俺を見た。


「ロックさんなんて、Fランクなのに、最強だわ」

「まあ、ロックさんは……特別というか……ランク詐欺というか……でありますから」


 本当はSランクなので、まさしく詐欺である。


「とにかく、迷惑でなければ私も一緒に冒険させてほしいわ」

「……セルリスと一緒に冒険できるなら、本当はすごくありがたいであります」

「セルリスさん。ありがとうございます」


 シアとニアは頭を下げた。


「俺にできることがあれば、いつでも言ってくれ。魔鼠退治でもゴブリン退治でも付き合うぞ」

「そんな、ロックさんにそんな些事に付き合わせるわけにはいかないであります」

「ほかに受けている仕事がなければ、まったく構わないぞ。遠慮するな」

「……ありがとうございます。もしかしたら声をかけさせてもらうかもしれないでありますよ」


 それから、シアはニアに言う。


「ニア。荷物はそれで全部でありますか」

「はい。姉上」

「宿屋に行くでありますよ。急がないと一杯になってしまうでありますからな」

「はい、急ぎます!」


 そんなシアたちを俺は止める。


「まあまて。ミルカがもうご飯を用意しているころだぞ。食べていくといい」

「ですが……」

「宿屋など借りなくても、うちに泊まっていけばいいぞ。部屋は余っているからな」

「ですが、いつまでもお世話になるわけにはいかないでありますし。早めに部屋を借りるつもりであります」


 これまで、シアは基本宿屋で寝泊まりしていたらしい。

 ニアも来たということで、部屋を借りようと考えたのだろう。


「気にしなくていいぞ。二人とも自分の家だと思って過ごしてくれ」

「ですが……」

「もし何なら、うちに来る? うちも部屋の余裕はあるわよ?」

「それも悪いでありますよ」


 シアの気持ちもわからなくもない。

 俺もゴランの家の居候を、なるべく早く切り上げようと思ったものだ。


「部屋を見つけるまでの間だけでも、泊っていってほしい」

「がうがう!」

「ほら、ガルヴもそうして欲しいみたいだからな」


 ガルヴはシアとニアの周りをぐるぐる回っている。


「ありがとうございます。お言葉に甘えて、お世話になるでありますよ」

「ロックさん! お世話になります!」

「おう、いつまでも居ていいぞ。ゲルベルガさまの警護とか、そのうち引っ越してくるフィリーの警護を考えると、シアがいてくれると心強いからな」

「そういって頂けると……。ありがたいであります」


 シアの尻尾がゆっくりと揺れた。

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