目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

113 遺跡荒らしのゴブリン

 少し飛んで、ケーテが言う。


「もう見えたのだぞ」

「飛ぶと速いな」

「当たり前である!」


 飛びはじめてから、ほとんど一瞬でついた。

 歩きで王都から向かえば、一時間ぐらいかかるだろう。

 さすがにドラゴンは速い。


 ケーテはふわりと地面に降りる。

 俺たちもケーテの背から地面へと降りた。


「あっちであるぞ」

「どれどれ?」


 ケーテは俺の後ろに立って、俺の顔に自分の顔を並べる。

 顔を並べると言っても、ケーテの顔は俺の身長ぐらいある。

 俺の横の地面に顎をつけているといった感じだ。


 ケーテは俺と視線をそろえてくれているのだろう。


「ロック、みえるか? あそこに洞窟っぽいのがあるであろう?」

「うむ。見えるぞ。あれがゴブリンに占拠された遺跡ってやつか?」

「そうなのである。なんと、ふてぶてしいゴブリンであろうか!」


 ケーテは鼻息が荒い。

 ケーテの顔は、俺の顔のすぐ近くなので風音がすごい。


 遺跡の入り口を観察すると、確かにゴブリンが二匹見えた。


「確かに、ゴブリンだな」

「であろう? 我もゴブリンだと思ったのだ。だが万一、人族だったら困るのである」


 ケーテは人族と、ゴブリンの見分け方に自信がないようだ。

 前回、俺たちのことをゴブリンと見間違えたくらいだ。


「それで、俺にも連絡してくれたのか?」

「そうなのである」


 ケーテはどや顔をしている。


「侵入者探知魔法に何者かが引っ掛かったので、見に来たのだ。そしたらゴブリンっぽいのがいたので焼き払おうと思ったのだが……」

「俺との約束を思い出してくれたと」

「まさに! まさにその通りであるぞ」

「約束を守ってくれてありがとう」

「ぎゃっぎゃっぎゃ! ケーテは義理堅いドラゴンなのである!」


 俺はニアとガルヴを呼び寄せる。

 ガルヴはだいぶ落ち着いたようだ。それでもまだプルプルしている。


「ガルヴ大丈夫か?」

「がう」


 どことなく声にも元気がない気がする。

 子供狼なので仕方がない。


「ニア。見えるか?」

「はい。見えます。二匹のゴブリンがいますね」


 ニアは落ち着いている。

 震えもしなければ、尻尾も股に挟んでいない。

 背中に乗ったことで慣れたのだろう。


 先程まで、巨大なケーテがそばに居るのに加えて、高所、高速という状況だった。

 それに比べれば、地面に足がつくこの状況は大したことがないともいえる。


「ニアは、あの遺跡に全部でゴブリンは何匹いると推測する?」

「そうですね……」


 ニアは真剣な表情で考え込む。

 俺はニアが答えを出すまでゆっくりと待った。

 その様子をケーテも面白そうに見守っている。


「遠すぎて、何とも言えないのですが……二匹は見張りに見えます」

「それで?」

「なので、見張りを置くということは、リーダーはホブゴブリンやゴブリンマジシャンの可能性もあるので……」

「ふむふむ」


 俺はニアの言葉に相槌をうって続きを促す。


「十匹、いや、二十匹ぐらいいるかもしれません」

「素晴らしい」

「あ、ありがとうございます」


 ニアは尻尾をゆっくりと振る。


「もちろん、群れ全体で五匹以下だったり、今見えている二匹がすべての可能性もある」

「はい」

「だが、それはただの希望的観測だ。ニアが考えたように、面倒な方向で考えるほうが冒険者としては正しい」


 俺は褒めてから、ニアの頭を優しく撫でた。

 ケーテは俺たちのやり取りを真面目な顔で見ていた。


「人族は色々考えるのだなぁ」

「人族は竜族に比べて弱いんだ。考えなければすぐ死んでしまう」

「ぎゃっぎゃっぎゃ! 我より強いロックがそれを言うのか」


 ケーテはご機嫌だ。俺の陰に隠れているガルヴと対照的だ。


「ゴブリンとわかったことだし、早速焼き払うのである」

「ちょっと待ってくれ」

「む? まだ何かあるのか?」

「中に人族がいる可能性もあるからな」

「ふむ? ゴブリンと手を組んだ人族ということであるか?」

「いや、ゴブリンに、捕まった人族ということだ」

「そういうのもあるのだな」


 ゴブリンは人を食べる。

 それゆえ、ゴブリンにさらわれた人族が生き残っている可能性は少ない。


「俺とニアとガルヴで遺跡を探索してくるから……」

「えっ?」


 ニアが驚いていた。


「む? 気が進まないなら、ケーテと外で待っていてもいいぞ?」

「いえ、驚いただけです。私も行かせていただきます」

「そうか」

「我も行きたいのだ」

「うーん。ケーテは大きいからな」

「竜族の遺跡だから遺跡も大きいのであるぞ?」

「それはそうだが……。ケーテは入り口の前で待機して、逃げて来たゴブリンを倒してほしいんだが」

「なるほど。それは大切な仕事であるな」


 ケーテは納得してくれたようだ。


「ガルヴはどうする? 外で待っていてもいいぞ」

「が、がう」


 ガルヴは小さく鳴くと、俺の手を両前足でひしっと挟む。

 ケーテと一緒にいるよりもゴブリン退治の方がいいのだろう。


「わかった。一緒に行こう」


 それから、俺はニアとガルヴと打ち合わせをする。

 遺跡に近づいたら会話は出来ない。だから事前に済ませるのだ。


 気づかれないように遺跡に近づき、ニアと俺で一匹ずつゴブリンを退治。

 その際、悲鳴を上げさせてはならない。

 それからは俺、ニア、ガルヴの順番で遺跡の中を進むことになった。


 今回はニアの隠密行動の訓練もかねている。

 一人前の冒険者になるには、たとえ戦士でも隠密行動は大切だ。

 ゴブリンごときに気取られるようでは話にならない。


 そういうことを説明してから、行動開始だ。

 静かに進み、充分に近づいてから、ニアは跳びかかる。ゴブリンの首を剣で突いた。

 そのころには俺の剣もゴブリンを絶命させている。


 俺はニアに向かって大きくうなずくと、遺跡の中へと足を踏み入れた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?