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118 ケーテとの相談

 愚者の石製造装置についてはあとで調べるしかないだろう。


「ケーテ。悪いがこの装置を貸してくれ。調べたい」

「むむ。遺跡はそのままの姿を保存したいのだが……」

「だが、これを置いておけば、ヴァンパイアが狙ってまた来るだろう。そしてそうなれば、荒らされることになる」

「むむう。仕方ないのである。大切に扱うのだぞ」

「わかっている」


 俺は装置を魔法の鞄に再びしまう。

 それを見て、むふーっとケーテは息を吐いた。


「まあ、文化財保護に理解のあるロックなら大丈夫であろう」

「ケーテ。他に同じような装置がある遺跡はあるか?」

「何もない遺跡の方が多いが、まれに装置のある遺跡はあるのだ」

「さっきの装置と同じものだったか?」

「……わからぬ」


 ケーテにはわからないようだ。

 見ただけでわかるようなものでもないのだろう。

 俺も見ただけでは、なにをするものかわからなかった。


「ケーテ。これからもゴブリン、いやヴァンパイアが遺跡荒らしに来る可能性が高い」

「……それは困るのである」

「隠蔽の魔法をかけて回るしかないか」

「あ、そうであった。我の魔法に不備がないか見てくれぬか?」

「それは構わないが」

「頼むのである」


 ケーテは遺跡に隠蔽の魔法をかけた。

 竜族の魔法体系なので、俺の魔法とは少し違う。

 それでも、かなりの力量だと見て分かった。


「ケーテ、やるじゃないか」

「ぎゃっぎゃっぎゃ! 本当であるか?」

「うむ。見事な隠蔽魔法だ。魔力探査をしても見つけることは容易ではないはずだ」

「本当か?」

「うむ。これならヴァンパイアでも容易には気付けまい」

「ぎゃっぎゃっ! そうかそうか」


 ケーテはご機嫌に笑う。


「……って、ではなぜ、この遺跡は侵入されてしまったのだ? この遺跡にかけてあった魔法は今かけたものと同じであるぞ?」

「それはだな。目で見たらばれるんだ」

「ふむ?」

「はるか上空から探査するドラゴン相手ならこれで充分だが、地上から探すものにとっては視覚情報が重要だ」


 上空からは遺跡の入り口は見えにくい。

 だから魔力探査にさえ感知され無ければ、問題がないのだろう。

 だが、地を這って暮らす人族やゴブリンにとっては、丸見えだ。


「そ、そうであったか……」


 ケーテはやはりドラゴンの常識で考える傾向がある。


「だから、この場合は……こうすれば……」


 俺は視覚を誤魔化す隠蔽魔法を付与した。


「なるほど、見事なのである!」

「やり方は理解できたか?」

「うむ。一度解除して、最初からやってみるのだ。ロック頼むのだ」

「わかった」


 俺は自分のかけた魔法と、ケーテのかけた魔法を同時に打ち消した。


「わ、我のかけた魔法は自分で解除するつもりだったのだが……」

「あ、それはすまない」

「い、いや、問題はないのだ。我の魔法が一瞬で解除されてショックだっただけなのだ」

「そうか」


 それは悪いことをしてしまった。


「では行くのだ」


 ケーテは、再び隠蔽の魔法を遺跡にかけた。

 今度は視覚的にも誤魔化せるようになっている。


「どうだ?」

「いい感じだ。ニア。どう思う?」

「はい、私では気付けないと思います」

「とのことだ。ケーテ。安心してくれ」

「それならよかったのだが……。この魔法も、ロックにかかれば、一瞬で解除されてしまうのだなぁ」

「ロックさんは特別ですから!」


 ニアがケーテに向かって言った。


「そうであるな。我に勝った人族だものな」

「ヴァンパイアにも圧勝でしたから」

「ふむふむ」


 俺はケーテに確認する。


「ケーテ。侵入者探知の魔法はまだ解除されてないのか?」

「うむ。ちゃんとかかっているままだぞ」

「それならいい」



「これから我は魔法をかけて回る予定である」

「そうか。それがいいな」

「また、何かあったらロックを呼ぶのである」

「それはありがたいのだが……ケーテ」

「む?」


 ケーテは首を傾げた。


「あの呼び出し方はやめてくれ」

「あの?」

「王都に向かって咆哮して、名前を呼ぶあれだ」

「え? 便利であろう? 一発でわかるのだし。実際すぐ来てくれたではないか」


 ケーテの認識はその程度だったのだ。また、同じことをされたら困る。


 俺は丁寧に説明することにした。

 竜の咆哮はそれだけで、王都の民を震撼たらしめるものである。

 竜が王都の近くで吠えれば、軍隊が動員される。

 冒険者ギルドからは緊急クエストがだされることになる。


「それは大変なことだな」


 他人事のようにケーテは言う。


「ケーテにとっては、軍隊ぐらい怖くないんだろうが、人族はそれはもう大変なんだ」

「そんなことないぞ。軍隊は、あのバリスタ? とかいうのを持ってくるだろう? あれは結構痛いのだ」

「ケーテにバリスタが効くとも思えないが」

「それは、怪我はしないが、痛いのは痛いのだ」

「そうか」


 バリスタでダメージを与えられるドラゴンは、もっと小さいドラゴンだけだろう。


「ケーテの咆哮で王都中は大騒ぎになったことだろうさ」

「ふーむ。それは悪いことをしたのである」

「その上、ケーテ、俺の名前を叫んだだろう?」

「ん? そうだったか?」

「そうだったぞ。あれはとても困る」

「そうか、すまぬ」

「今度からのろしとかにしてくれ」

「だがなぁ、声を出さないと、ロックは気づかないかもしれぬではないか? いつも空を見ているわけではないのであろう?」

「それはそうだが」

「やはり、そうであろう!」


 ケーテの鼻息が荒くなった。


「少し考えてみる。明日の昼も西の丘に行くからその時までになんとかしよう」

「頼んだぞ!」


 そして、ケーテは飛び去っていった。

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