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119 帰宅するまでが散歩

 ケーテが去ってから、俺とニアとガルヴは王都に向けて歩き始めた。

 ニアもガルヴも散歩開始当初の元気はない。

 特にガルヴは疲れているように見えた。


「ガルヴ、大丈夫か?」

「がぅー」

「ニアは大丈夫か?」

「余裕です!」


 王都まで、徒歩で一時間程度。普通に歩ける距離だ。

 だが、全力で走ったり、ゴブリン退治したりしたので、疲れているのもわかる。

 ニアもガルヴもまだ子供なのだ。

 おそらく、ニアもガルヴも年齢的には大して変わらないだろう。


 ゲルベルガさまは、俺の胸あての中に入ってうとうとしていた。

 お昼寝の時間なのだろう。ゆっくり眠ってほしい。


「がうー」

「なんだ、ガルヴ。ケーテに送ってほしかったのか?」

「がう」


 どうやら歩くよりは、ケーテに送ってほしいようだ。

 ケーテに対する恐怖を克服したのかもしれない。


「ガルヴ。ケーテは大きな声で叫んでしまったからな。いまは警戒されまくっている」

「あ、そうですね。ケーテさんに乗って近づいたら大騒ぎになってしまいます」

「よくわかったな。ニアの言うとおりだ」


 ほめるとニアは照れていた。


「ニアもガルヴも本当に疲れたら言えよ。背負ってあげよう」

「大丈夫です!」

「がう」


 ガルヴは俺の後ろに回る。そして前足を俺の肩に乗せた。

 早速、俺に背負ってもらおうとしているのだ。


「ガルヴ、もう少し頑張れよ……」

「がうー?」


 ガルヴは馬ぐらい大きいので、背負うのは出来れば避けたい。

 ガルヴを肩から降ろして、励ましながら歩いていく。


 帰り道、西の丘の近くを通った。

 ゴランと数人の冒険者、それと騎士が十人いた。


 ゴランたちは冒険者ギルドの精鋭だろう。

 おそらくゴラン以外の全員がAランク冒険者に違いない。

 十人の騎士は、鎧から判断するに、近衛騎士の一個分隊だろう。

 エリックの命で駆け付けたに違いない。


 ゴランが俺に気付いて近づいてきた。


「がうがう!」

「ガルヴ。よしよし。あとで遊んでやるからな」


 ゴランは懐から干し肉を取り出して、ガルヴにあげながら言う。


「やっぱり竜によばれていたロックって、ロックのことか?」

「その通りだ」

「そうか……。そうかもしれないとは思っていたんだ」

「そういえば、ゴランにケーテのこと話してなかったな」

「ケーテ?」


 俺はケーテについてゴランに簡単に説明した。


「そういうことは早く言えよ」

「すまない。報告を忘れていた。ヴァンパイアとも昏き者どもとも関係ないと思っていたからな」

「それはそうだが……」

「あとでゴランの家に行って詳しく説明しよう。何時ごろに帰る?」

「いや、仕事が終わり次第、ロックの家に俺が行こう」

「わかった。待ってる」


 そして、ゴランは冒険者や騎士たちに説明しに戻っていった。

 危険はもうないと、うまく説明してくれることを祈ろう。

 俺のことを抜きで、説明するのは難しそうだ。苦労を掛けてしまった。

 あとで、謝っておこう。


 俺たちは王都に向けて歩いていく。


「ガルヴ。思いっきり体動かせてすっきりしたか?」

「がう」


 干し肉をもらったせいか、ガルヴは少し元気になった気がする。 

 出歩くときはガルヴが軽く食べられるおやつをたくさん持って行くことにしよう。


 王都の門をくぐり、自宅へとまっすぐ帰る。

 ゴブリンロードとヴァンパイアロードを討伐した。

 強敵に遭遇した場合、討伐、未討伐に関わらず報告するのが義務ではある。

 報告をもとに冒険者ギルドは強敵の分布や出現頻度を調べるのだ。


 だが、今日はゴランに報告したからいいだろう。

 それにFランク戦士二人でゴブリンロードを討伐したといっても信じてもらえない。


「適当にお土産買って帰るか」

「がうがう!」

「お土産ですか?」

「なにか食べたいものないか?」

「お菓子とか……」

「ガウ!」


 ニアの言葉に、ガルヴも賛成のようだ。

 なので、俺は菓子店で、クッキーを沢山買った。


「狼ってクッキー食べて大丈夫なのか?」

「がうー?」


 ガルヴは不安そうになる。

 もらえない可能性を危惧しているのだろう。


「ガルヴは霊獣さまなので大丈夫ですよ?」

「そうなのか。ガルヴ、よかったな」

「がうがう」


 ガルヴは嬉しそうだ。


 屋敷に戻ると、ミルカに出迎えられた。


「ロックさん。お帰り! 結構長い散歩だったんだな」

「色々あってな……。あ、これはお土産だ」

「お菓子か! お茶を入れてくるよ!」


 ガルヴの尻尾がぶんぶん振れる。


「いや、やっぱりお菓子は後の方がいいな!」


 ミルカの言葉で、ガルヴの尻尾がしゅんとなる。


「お昼ごはんの方が先だよな! もうほとんどできてるから、すぐ持ってくるぞ」


 お昼ごはんと聞いた途端、ガルヴの尻尾がまた激しく動き始めた。

 胸当ての中で眠っていたゲルベルガさまも、ご飯という言葉で起きた。

 パタパタはばたいて、胸当ての外に出る。


 朝ごはんの後の散歩だったのだが、もう昼ごはんの時間になっていたようだ。

 ミルカと入れ替わりでルッチラ、セルリス、シアが来た。


「おかえりなさい。ゲルベルガさまは喜んでおられましたか?」

「うん。沢山運動できたと思うぞ」

「ここ」

 ゲルベルガさまはルッチラの胸元にとびこんだ。


「ロックさん、おかえり。ケーテの声すごかったわね」

「ここまで聞こえてたか……」


 王都中に響いたのだろう。こまった竜だ。


「おかえりなさいであります。ニアはご迷惑をおかけしませんでしたか?」

「ニアは全く迷惑ではなかったぞ」

「それならよかったであります」


 シアはニアの頭を優しく撫でた。


 そこにミルカが入ってくる。


「お昼ご飯だぞー」

「ありがとう」

「ガルヴはこれだぞ」

「がぅがぅ」

「ゲルベルガさまには、これだぞー」


 ガルヴの尻尾がビュンビュン揺れる。

 ガルヴ用のお昼ごはんは焼いた肉の塊だ。

 ゲルベルガさま用のお昼ご飯は、野菜の盛り合わせだった。

 ゲルベルガさまは普通の鶏よりたくさん食べるのだ。


 お昼ご飯を食べながら、

「散歩の内容について報告しよう」


 俺がそういうと、全員が興味を持ったようだった。

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