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121 エリックとフィリー

 俺は反省しない。

 エリックは、もっと恥ずかしがればいいのだ。


「ああ、エリック。よく来たな」

「う、うむ」

「で、ミルカ。エリックのどこが凄いっていうとだな……」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、ラック」

「どうした、エリック。いまいいところなんだ。邪魔しないでくれ」

「平然と俺の話を続けるのはやめてくれないか」

「気にするな、ミルカは勇者の話を知らないというのでな。教えないといけないだろう? 常識として」

「俺ごときの話は、常識ではないし知らなくていいと思うのだが」


 何を言うのだろうか。君主でもあり英雄でもあるのだ。

 知っておくべきだろう。


「とにかく、俺の前ではやめてくれ、頼む」

「仕方ないな。本当にエリックはわがままだな」


 そういうと、エリックはほっとしたようだった。


「話は終わったのでありましょうか?」


 エリックの後ろから、フィリーが現れた。

 マスタフォン侯爵家の五女にして、天才錬金術士だ。

 父母を人質に取られて、昏き者どもに愚者の石を供給していた者でもある。


「お、フィリーか。久しぶりだな」

「少し落ち着くまで、王宮で世話になっておりました」


 フィリーは以前のような偉そうな口調ではなくなっている。

 王宮で暮らしている間、父母に怒られたのかもしれない。


「フィリー、よく来た。これからここに住むってことでいいのか?」

「迷惑をおかけいたしまする」

「気にするな」


 王宮から、エリックとともに秘密通路を通って、やってきたのだろう。

 フィリーがどこにいるか、昏き者どもに知られないほうがいい。

 ゲルベルガさまの所在と同程度に重要な機密といえる。


 それにしても、フィリーの口調に違和感がある。

 貴族の姫君は本来このような口調なのだろうか。

 俺はよく知らないので、何とも言えない。


「そういえば? タマはどうした?」


 タマはフィリーが可愛がっている忠犬だ。

 大型犬だが、ガルヴよりは小さい。


「タマは……王宮なのでございまする」

「なにか事情があるのか?」


 俺の問いにエリックが答える。


「俺はタマも連れて行けばよいといったのだがな。さすがに迷惑だろうと、侯爵夫妻が遠慮してな」


 気持ちはわからないでもない。

 娘をよその家で預かってもらうというときに、犬まで連れていくのは抵抗がある。


「いや、本当に気にしなくていいぞ」

「本当でございましょうか?」

「本当だ」

「では、連れてまいりとうございます」


 フィリーは走っていこうとする。


「ちょっとまて、フィリーはまだ魔法鍵に登録していないだろう?」

「そ、そうでありました」


 俺も一緒にフィリーと秘密通路へと向かう。

 そして、フィリーを登録する。


「これで、通路に入ることはできる。だが、王宮に入るにはまた別の鍵が必要で……」

「俺が一緒に行こう」

「そうか。頼む」

「そんな、陛下にお手数をおかけするわけには参りませぬ」


 フィリーは遠慮したが、エリックに押し切られる形で二人で王宮へと向かった。

 そして、俺は食堂に戻る。


「ガルヴ、お菓子食べるか?」

「がう」


 ミルカからお菓子をもらってガルヴは嬉しそうだ。

 ガルヴは当初ミルカを嫌っていそうな空気があったが仲良くなったらしい。

 とても良いことだ。


 ゲルベルガさまも、お菓子をくちばしで突っついている。


 俺も椅子に座ってお菓子を食べる。

 ミルカの入れてくれたお茶も美味しい。


「ルッチラ。ゲルベルガさまが食べたらいけないものってあるのか?」

「ニワトリではなく、神鶏さまなので、人が食べられるものなら、ダメなものはないです」

「そうなのか。さすがゲルベルガさまだな」

「ここ」

「ゲルベルガさまが好きな食べ物ってなんだ?」

「こここ」

「普通のニワトリが好きなものは、ゲルベルガさまはお好きですよ」

「そうなのか」

「でも、お菓子も好きなようです」

「それならよかった」


 ゲルベルガはお菓子を食べ終えて、俺のひざの上に来た。

 とても可愛いので撫でておいた。


「ゲルベルガさま、もっとお菓子食べるか」

「ここ」


 俺の手からゲルベルガさまはお菓子を食べる。

 ガルヴもやってきて、俺のひざの上に顎を乗せた。


「ガルヴも食べさせて欲しいのか?」

「くーん」


 ガルヴとゲルベルガさまにお菓子を食べさせる。

 意外と楽しい。


 そこにエリックたちが戻ってきた。フィリーとタマも一緒なのは予定通りだ。

 だが、なぜかエリックの娘たち、シャルロットとマリーも一緒だった。


「大公閣下。ご機嫌うるわしゅう」

「たいこうかっか。おひさしぶりでしゅ」


 長女で十歳のシャルロットは優雅な所作で頭を下げた。

 次女で四歳のマリーも一生懸命姉の真似をしているが幼いので舌足らずだ。


「王女殿下、よく参られました」

「ここ」


 ゲルベルガさまは机の上に乗って、王女に向かって走っていく。


「ゲルベルガさま!」

「げるさま、おひさしぶりです」

「ここぅ」


 ゲルベルガも懐かしむように、王女に体を寄せる。

 王女たちも嬉しそうにゲルベルガを撫でていた。


 セルリスが、王女たちの頭を撫でる。


「シャルロットも、マリーも元気にしてたのかしら」

「はい、セルリス姉さま!」

「マリーげんきでした!」


 そんな王女に向けてセルリスが言う。


「ガルヴちゃんのこと知ってる?」

「はい。大公閣下がヴァンパイアからお救いした霊獣の狼さまだと聞いております」


 シャルロットは十歳なのにすごくしっかりしている。

 ヴァンパイアハイロードを倒した後、俺はガルヴと一緒に王宮に行った。

 だが、色々忙しかったので、ガルヴを王女に紹介したりはしていなかった。


「ガルヴ。おいで」

「がう」


 セルリスによばれて、ガルヴは歩いていく。


「この子がガルヴよ。大きいでしょう?」

「はい、撫でてもよろしいですか?」

「もふもふ!」


 シャルロットは尋ねたが、マリーはガルヴにひしっと抱きついた。

 ガルヴも嬉しそうに、マリーのことをぺろりと舐めた。

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