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122 フィリーと不思議な口調

 妹のマリーがガルヴに抱きついているのを見て、シャルロットはうずうずしている。

 マリーはギュッと抱きつきながら、ガルヴを思う存分撫でまくっていた。

 俺はシャルロットにむけて言う。


「王女殿下。どうか、撫でてやってください」

「ありがとうございます。大公閣下」

「私のことはおじさんで構いませんよ」


 シャルロットはちらりと父のエリックを見た。


「ロックがそういうのだ。構わぬ」

「はい。ありがとうございます。おじさま」


 それからシャルロットはガルヴを撫でる。


 一方、大型犬のタマは俺のところにやってきた。

 タマはがりがりに痩せてもフィリーのそばを離れなかった忠犬だ。


「タマ、元気にしていたか?」

「わふ」


 タマは綺麗に前足をそろえてお座りした。

 俺はタマの胸のあたりや背中のあたりを撫でる。

 背骨や肋骨がごつごつ手に当たった。


「やっぱり、まだまだ痩せてるな」

「ご飯をたくさんあげているのでありますれば、すぐに戻ると思いまする」

「タマのご飯に注意点などはあるか? ガルヴは霊獣だから何でも食べるんだよ」

「肉とイモなどを食べさせておりまする」

「肉はともかくイモか?」

「イモは太りぎみになりますれば、あげすぎはよくないともお聞きいたしまするが、タマは痩せておりまするゆえ……」

「それは、確かにそうだな。タマはもっと太らないと駄目だな」


 それを聞いていたミルカが言う。


「タマのご飯は、おれに任せておくれ!」

「私も犬の世話は得意です」


 ニアも張り切っていた。

 俺がタマを撫でているとエリックが言う。


「急に娘たちを連れてきてすまぬな」

「いや、気にするな。いつでも連れてきていいぞ」

「一度、秘密通路を実際に歩かせておきたかったのだ」

「なるほど」


 いざというとき、一度も通ったことが無ければ、戸惑って時間がかかるだろう。

 その時間は、いざというときこそ、致命的な事態を引き起こしかねない。

 エリックの判断は正しい。


「それに娘たちはゲルベルガさまに会いたがっていたからな」


 ゲルベルガさまとガルヴを可愛がっている王女たちをエリックは優しい目で見つめている。


「シャルロット。マリー。非常時以外は父か母の許可なく、ここに来ては絶対にダメであるぞ」

「はい。お父さま」

「あい! わかったのです!」

「父との約束だ。わかったな?」

「はい」

「あい」


 そんなエリックの耳元で俺はささやいた。


「エリック。とても良いタイミングで来てくれた。見せたいものがある」

「……ドラゴンと関係のあることか?」


 王宮にもケーテの声は響いていたのだろう。恥ずかしい。


「関係あることだな。それにヴァンパイアどもに関わる話でもある」

「そうか。少しだけ待っていてくれ。娘たちを送ってくる」


 血なまぐさい話を、娘たちに聞かせないつもりなのだろう。


「あ、王宮に戻るなら、遠くと会話できる魔道具的なものが余っていたら持ってきてくれ」

「……魔道具はどんなものでも高価なのだ。魔道具が余っているわけがあるまい」

「そうか。それならいいんだ」


 そのころには、ニアも王女たちと遊んでいた。

 年齢が近いから、すぐに仲良くなれるのだろう。


 そして、エリックは王女たちを連れて王宮に戻っていった。

 一方、タマとガルヴは互いに匂いを嗅ぎあっている。


「今のうちにフィリーに家の中を案内しておこう」

「お手間をおかけいたしまする」

「気にしなくていい」


 フィリーへの案内を開始すると、タマとガルヴもついてきた。


「タマは、いつもトイレはどうしているんだ?」

「散歩のときにしているのでありまする。タマは賢い犬でありますれば……。ガルヴはどうしておられるのですか?」

「ガルヴとゲルベルガさまは、俺たちのトイレでやっているな」

「それは、とても賢いのでございますね」

「がう」


 ガルヴは誇らしげだ。その様子をタマはじっと見つめていた。


「ここがトイレで……」


 トイレの場所へ案内したとき、タマが便座の上に座る。


「タ、タマ? どうしたのです?」

「……わふうう!」


 タマが気張りはじめた。そして、無事便器の中へと用を足す。


「わふ!」


 そして誇らしげにこっちを見てくる。尻尾がビュンビュンゆれていた。

 子供のガルヴにできて、自分にできないわけがない。

 そんな矜持を感じる。


「タマ、すごいぞ!」

「でかしたのでありまする」

「わふわふ!」


 フィリーと一緒に、タマをいっぱい褒めてやった。


 その後、二階へと案内する。


「使っていない部屋の中から好きな部屋を選んでくれ」

「本当によろしいのでございまするか?」

「いいぞ。俺の部屋はここで、ミルカがそこ。ルッチラとゲルベルガさまの部屋がそこだな。ニアとシアはここで、セルリスとゴランたちは大体この部屋を使う」


 それでも使っていない部屋はまだまだあるのだ。

 フィリーとタマの部屋を決めてから、居間へと戻る。


「大きな屋敷なのに、使用人は一人なのでありまするか?」

「いや、使用人はいない。ミルカは徒弟だ」

「そうでありましたか。失礼なことを申しました」

「……フィリー。口調が以前と違わないか?」

「……閣下は、国王陛下の代理人にして大公の爵位を持つお方でございますれば……、それなりの口調が必要なのでありまする」

「あのな。フィリー……」


 俺は説明する。

 俺は身分を隠している。仰々しい口調で話されては身分がばれてしまう。

 だから、以前のように話してほしい。


 俺の説明が進むにつれ、フィリーは笑顔になっていく。


「助かったのだ! 父上と母上にすごく怒られたのであるぞ」

「俺に対する口調で?」

しかり然り!」


 とりあえず、フィリーが元気になったようでよかった。

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