俺はそれなりに長い間、冒険者をしていた。
そんな俺でも、魔装機械というのには遭遇したことはない。
非常にレアなものだと考えていいだろう。
「ケーテ。その魔装機械っていうのが、大量にいたのか?」
「そうである」
「大量ってどのくらいだ?」
「確認しただけで三十機はいたのだ。きっとまだいるのだぞ」
「三十か……」
三十は多いのか少ないのか、判断が付きにくい。
一機の強さがどのくらいかによって脅威度が変わる。
魔装機械はゴブリン並みなのか、ヴァンパイア並みなのか。
「で、その魔装機械っていうのは、どのくらい強いんだ?」
「三十機に囲まれて襲われたので、二十機壊したのだ」
「ほう? さすがケーテだな。だが、その状況で退いたのか?」
ケーテは満身創痍には見えない。
二十機を壊せたのなら、残り十機も壊せるのではないだろうか。
そう思って聞いたのだが、ケーテはもじもじし始めた。
「……」
「どうした?」
「……すまぬ。我は嘘をついた。倒したのは一機である」
「なんでそんな嘘を?」
「……見栄を、我は見栄を張ってしまったのだ。すまぬ」
「……そうか。わかった」
しょんぼりとしながら、白状するケーテを責める気にはなれなかった。
だれでも見栄を張りたいときはある。
だが、一機を二十機と言い張るのはさすがに盛りすぎである。
二十機倒したと言いたいなら、せめて十五機ぐらいは倒していて欲しかった。
ケーテは加減というものを知ってほしい。
「ケーテさんが一機しか倒せなかったというのは……。相当強いでありますね」
「その魔装機械っていうの一機で、Aランク冒険者のパーティーが必要かも知れないわね」
シアとセルリスが深刻そうな表情でつぶやくように言う。
シアとセルリス、そしてニアとガルヴはケーテと俺が戦っているのを見ていた。
だから、ケーテの強さは知っているのだ。
「うむ。とてもやばい奴だったのだ」
「具体的にはどうやばいんだ?」
「とにかく硬くてな。我の火炎ブレスもあまり効いていなかったのだ。火炎ブレスを食らっても、ガシガシ動いていたぞ」
ケーテの火炎ブレスは俺たちも食らった。相当な威力だった。
大抵の魔物は耐えられまい。
ヴァンパイアロードですら、無事では済まないだろう。
「……ガシガシ動いていたのか?」
「うむ。平気に見えたのだ」
ケーテの火炎ブレスをうけても平気ということは、火炎耐性が異常に高いということだ。
俺が戦うときも火炎は使わないことにしよう。
「ケーテの、爪と牙はどうだ?」
「一撃では倒せなかったのだぞ。数回も殴らねばならなかった」
「……それは本当に凄いな」
ケーテは当然、力が強い。爪も牙も鋭い。
一撃食らえば、大概の魔物は耐えられまい。
「魔装機械が恐ろしく頑丈なのはわかった。攻撃面はどうだ?」
「うむ。大きな音ともに小さい何かを飛ばしてきたのだ」
「小さい何か?」
「金属の小さい何かだ。ものすごく速くて目にもとまらぬほどだ」
「ふむ」
「めちゃくちゃ痛かったぞ」
そして、ケーテはローブの袖をまくって左手を見せた。
「これを見るのだ」
「うん? 少し赤いな」
「腫れているのだ……。魔装機械の恐ろしい攻撃でこうなったのだ……」
「……それは、大変だったな」
かすり傷というのも大げさなほどだ。蚊に刺されても、もう少し腫れる。
まったくもって無事にしか見えない。
ケーテは思いのほか痛みに弱いのかもしれない。
絶対強者の竜種として生まれて、害されることなど全くなかったのだろう。
「魔装機械の攻撃が激しくて、異常に堅いうえに、ヴァンパイアハイロードが襲ってきたからやばいと思って逃げ出したのだ」
「なるほど。ヴァンパイアハイロードには魅了があるからやばいな」
ケーテが操られたら、大きな被害が出るだろう。
「うむ。まあ、我はハイロードごときの魅了には抵抗できるがな!」
「そうか」
ケーテは自信満々だ。
見栄を張っている可能性もある。話半分に聞いておいた方がいいだろう。
「それにしても王都によく入れたな。衛兵にはなんていったんだ?」
「えいへい?」
「門のところにいただろう?」
「ああ、我は壁を登って越えてきたから、門は通っていないのだ」
王都の城壁は非常に高い。高さも厚みも成人男性の身長の五倍ぐらいある。
それを登るとは、やはり身体能力は異常に高いようだ。
「それで無銭飲食したのか?」
「いや、違うのだ。ロック。我の言い訳を聞いてくれ」
「聞こう」
「ロックの気配をたどって、ここに向かう途中にだな。ものすごくうまそうな匂いに気づいたのだ」
「それで?」
「何の匂いか気になるであろう? だから、その匂いの元に行って、じっと見つめていたのだ」
恐らく屋台か何かだろう。
「見つめていたら、『お嬢ちゃん、どうだい? 食ってかねーかい? 絶品だぞ』って親切にも言ってくれたのでな、お言葉に甘えて食べまくったのだ」
「なるほど。ケーテ。言っておかねばならないことがある」
「なんだ?」
「今回のことでわかったと思うが、それはお金を払って買って食べていくかい? って意味だぞ」
「人族は言葉を省略しすぎる。恐ろしいことだ。一言もお金を払えと言ってなかったのだ」
「……それは災難だったな」
ケーテに人族の生活について説明したほうがいいのかもしれない。