「ここぅ」
ゲルベルガさまが俺の腕の中から、ルッチラの元へと飛んで戻る。
肩に乗って、優しく体を頬に押し付ける。
「ありがと、ゲルベルガさま」
「こぅ」
そんなルッチラとゲルベルガさまをセルリスが抱き寄せた。
「うんうん」
セルリスはなぜか何度もうなずいていた。
「一族を復興させる手続きは成人してからになるのか?」
「はい。そうなると思います」
「その時は協力しよう。安心していいぞ」
「ありがとうございます」
ルッチラは涙をぬぐいながら微笑んだ。
とはいうものの、実際には部族の復興というのはどういうことを指すのだろう。
一族の土地が重要なのだろうか。それとも、血族の数だろうか。
とりあえず、ゲルベルガさまが、とても重要だというのはわかる。
今のうちから、エリックに言って元の村があった跡地は抑えておけばいいだろう。
他のことは、後からでも、何とかなる。
笑いながら、ミルカが言う。
「お風呂入りたくなさそうだったのは、服を脱いで女だとばれたくなかったからなのかい?」
「……うん」
「そっかー。風呂嫌いなのだとおもっていたんだぜ!」
ミルカはルッチラの背中をバシバシ叩いた。
「不潔だとおもって、気にしていたんだぞ!」
「本当は……。お風呂は好きなんだ」
「そっかー。ルッチラが不潔好きじゃなくてよかったんだぜ」
不潔好きとは聞きなれない言葉だ。
だが、意味は分かる。綺麗好きの反対を意味するのだろう。
「女同士と分かったところで、ルッチラも一緒にお風呂に入るでありますよ!」
「そうだな! それがいいのである!」
シアの意見にケーテも賛成した。女子たちはみんなお風呂に行った。
そして、後にはおっさんと獣たちが残される。
「……ルッチラが女の子だったとはな。ゴランは気付いていたか?」
「まったく。意外と、気づかないもんだな」
「あぁ……」
俺とゴランはため息をついた。
鼻のいいシアやニアはともかく、セルリスも気付いていたらしい。
観察力の不足を反省しなければなるまい。
俺とゴランが酒を呑んでいると、俺のひざの上にガルヴが顎を乗せる。
タマは俺のすぐ近くでお座りしていた。
ゲルベルガさまは俺の肩の上に乗りにきた。
「ラック。相変わらず動物に人気だな」
「そうか? まあ、懐いてくれているが」
「タマ、こっちにおいでー」
「わふ」
ゴランはタマを呼び寄せて、わしわし撫でていた。
しばらくたって、女子たちが風呂から上がる。
「ラック。俺たちも風呂に入るか!」
「そうだな! 酒とつまみも持って行こう」
「それはいいな!」
俺とゴランはおっさん同士風呂に向かう。ガルヴとゲルベルガさまが付いてきた。
タマはあまりお風呂が好きじゃないらしい。フィリーのところに走っていった。
風呂の中で酒を呑みながら、相談する。
「さっきはああいったが、ルッチラの一族の復興ってどうなればいいんだ?」
「さぁ。エリックに丸投げすればいいんじゃねーか?」
「……それもそうだな」
「ガハハ!」
心配がなくなったので、お酒がうまかった。
次の日の朝、ガルヴと一緒に食堂に行くと、ケーテが待っていた。
なぜかケーテは嬉しそうだ。羽がこまめに動いている。
「どうした、ケーテ。機嫌がよさそうだな」
「うむ。これを見て欲しいのである」
そういって、ケーテは食堂の机に大きな紙を広げた。
「これは?」
「遺跡保護委員会の組織表である」
「へー」
そんなものをわざわざ作るとは、ケーテは真面目な竜である。
エリックはともかく、俺とゴランなら、絶対こういうのは作らないと思う。
「どれどれ」
遺跡保護委員会の組織は、委員長を頂点にいくつかの局に分かれているようだ。
そして役職の横には人名が書かれていた。
「ちょっと待ってくれ」
「どうしたのであるか?」
「どうしたのであるか? じゃなくて、なんで委員長が俺なんだ?」
「適役だからであるぞ?」
「委員長はエリックかケーテがやればいいと思うのだが」
「エリックも我も王であるからなー。二つの国の同盟組織なのに、片方の王が就任したらまずいであろう?」
ケーテの言う通りだ。
確かに、どちらかが上位と思われるような人事はまずい。
「とはいえ、俺だって、メンディリバル王国の大公だし、王国が上位とみなされないか?」
「ラックは王国どころか人族の枠に収まらない英雄であるからなー。竜たちも納得するであろう」
「……そうだろうか」
「……もしあれならば、名誉風竜大公の称号を与えるが……」
「いや、それは必要ない」
昨日、ケーテは人事について、俺たちに相談していた。
それに対して、俺たちは丸投げしたのだ。
その結果として作られたものを、否定するのは筋が通らない。
それならば、最初から口を出しておくべきである。
「なるほど……。ところで、この最高顧問ゲルベルガさまっていうのは?」
「神鶏さまなのだ。最高顧問が適役であろう」
ちなみにケーテは書記局長、エリックは政治局長だった。
何をするのかわからないが、その辺はいい。
冒険局長ゴランと錬金局長フィリーもいいだろう。
「事務局長がなぜミルカなんだ?」
「ミルカと昨日話した結果、天才だとわかったのである」
「よく気付いたな」
「うむ。だから何か役職を与えようと思ったのである」
「そうか」
俺には書記局と事務局の業務の違いは判らなかった。
だが、ケーテがそういうのだから、それでいいと思う。
謎の「狼」という役職にガルヴと書かれているのは見なかったことにした。