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143 遺跡保護委員会の人事

「ここぅ」

 ゲルベルガさまが俺の腕の中から、ルッチラの元へと飛んで戻る。

 肩に乗って、優しく体を頬に押し付ける。


「ありがと、ゲルベルガさま」

「こぅ」

 そんなルッチラとゲルベルガさまをセルリスが抱き寄せた。


「うんうん」

 セルリスはなぜか何度もうなずいていた。


「一族を復興させる手続きは成人してからになるのか?」

「はい。そうなると思います」

「その時は協力しよう。安心していいぞ」

「ありがとうございます」


 ルッチラは涙をぬぐいながら微笑んだ。

 とはいうものの、実際には部族の復興というのはどういうことを指すのだろう。

 一族の土地が重要なのだろうか。それとも、血族の数だろうか。

 とりあえず、ゲルベルガさまが、とても重要だというのはわかる。


 今のうちから、エリックに言って元の村があった跡地は抑えておけばいいだろう。

 他のことは、後からでも、何とかなる。


 笑いながら、ミルカが言う。


「お風呂入りたくなさそうだったのは、服を脱いで女だとばれたくなかったからなのかい?」

「……うん」

「そっかー。風呂嫌いなのだとおもっていたんだぜ!」


 ミルカはルッチラの背中をバシバシ叩いた。


「不潔だとおもって、気にしていたんだぞ!」

「本当は……。お風呂は好きなんだ」

「そっかー。ルッチラが不潔好きじゃなくてよかったんだぜ」


 不潔好きとは聞きなれない言葉だ。

 だが、意味は分かる。綺麗好きの反対を意味するのだろう。


「女同士と分かったところで、ルッチラも一緒にお風呂に入るでありますよ!」

「そうだな! それがいいのである!」


 シアの意見にケーテも賛成した。女子たちはみんなお風呂に行った。

 そして、後にはおっさんと獣たちが残される。


「……ルッチラが女の子だったとはな。ゴランは気付いていたか?」

「まったく。意外と、気づかないもんだな」

「あぁ……」


 俺とゴランはため息をついた。

 鼻のいいシアやニアはともかく、セルリスも気付いていたらしい。

 観察力の不足を反省しなければなるまい。


 俺とゴランが酒を呑んでいると、俺のひざの上にガルヴが顎を乗せる。

 タマは俺のすぐ近くでお座りしていた。

 ゲルベルガさまは俺の肩の上に乗りにきた。


「ラック。相変わらず動物に人気だな」

「そうか? まあ、懐いてくれているが」

「タマ、こっちにおいでー」

「わふ」


 ゴランはタマを呼び寄せて、わしわし撫でていた。


 しばらくたって、女子たちが風呂から上がる。


「ラック。俺たちも風呂に入るか!」

「そうだな! 酒とつまみも持って行こう」

「それはいいな!」


 俺とゴランはおっさん同士風呂に向かう。ガルヴとゲルベルガさまが付いてきた。

 タマはあまりお風呂が好きじゃないらしい。フィリーのところに走っていった。


 風呂の中で酒を呑みながら、相談する。


「さっきはああいったが、ルッチラの一族の復興ってどうなればいいんだ?」

「さぁ。エリックに丸投げすればいいんじゃねーか?」

「……それもそうだな」

「ガハハ!」

 心配がなくなったので、お酒がうまかった。



 次の日の朝、ガルヴと一緒に食堂に行くと、ケーテが待っていた。

 なぜかケーテは嬉しそうだ。羽がこまめに動いている。


「どうした、ケーテ。機嫌がよさそうだな」

「うむ。これを見て欲しいのである」


 そういって、ケーテは食堂の机に大きな紙を広げた。


「これは?」

「遺跡保護委員会の組織表である」

「へー」


 そんなものをわざわざ作るとは、ケーテは真面目な竜である。

 エリックはともかく、俺とゴランなら、絶対こういうのは作らないと思う。


「どれどれ」

 遺跡保護委員会の組織は、委員長を頂点にいくつかの局に分かれているようだ。

 そして役職の横には人名が書かれていた。


「ちょっと待ってくれ」

「どうしたのであるか?」

「どうしたのであるか? じゃなくて、なんで委員長が俺なんだ?」

「適役だからであるぞ?」

「委員長はエリックかケーテがやればいいと思うのだが」

「エリックも我も王であるからなー。二つの国の同盟組織なのに、片方の王が就任したらまずいであろう?」


 ケーテの言う通りだ。

 確かに、どちらかが上位と思われるような人事はまずい。


「とはいえ、俺だって、メンディリバル王国の大公だし、王国が上位とみなされないか?」

「ラックは王国どころか人族の枠に収まらない英雄であるからなー。竜たちも納得するであろう」

「……そうだろうか」

「……もしあれならば、名誉風竜大公の称号を与えるが……」

「いや、それは必要ない」


 昨日、ケーテは人事について、俺たちに相談していた。

 それに対して、俺たちは丸投げしたのだ。

 その結果として作られたものを、否定するのは筋が通らない。

 それならば、最初から口を出しておくべきである。


「なるほど……。ところで、この最高顧問ゲルベルガさまっていうのは?」

「神鶏さまなのだ。最高顧問が適役であろう」


 ちなみにケーテは書記局長、エリックは政治局長だった。

 何をするのかわからないが、その辺はいい。

 冒険局長ゴランと錬金局長フィリーもいいだろう。


「事務局長がなぜミルカなんだ?」

「ミルカと昨日話した結果、天才だとわかったのである」

「よく気付いたな」

「うむ。だから何か役職を与えようと思ったのである」

「そうか」


 俺には書記局と事務局の業務の違いは判らなかった。

 だが、ケーテがそういうのだから、それでいいと思う。


 謎の「狼」という役職にガルヴと書かれているのは見なかったことにした。

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