はしゃぎまくっていたガルヴが、急に大人しくなった。
俺の近くの地面に伏せている。
「……ガルヴ。疲れたのか?」
「がうー」
思いっきり遊ぶのはいいことだ。
だが、疲れて動けなくなるまで遊ぶのはやめて欲しい。
これから、屋敷まで帰らねばならぬのだ。
「ガルヴ。帰りの分の体力も考えないとダメだぞ」
「がう!」
ガルヴは一声吠えると、立ち上がって後ろから両前足を俺の肩に乗せる。
「言っておくが、背負ってやらないからな」
「がう?」
ガルヴは尻尾を振って、首をかしげていた。
「セルリス。ガルヴが疲れたみたいだし、帰ろうか」
「そうね。ガルヴ、競争よ」
「がうっ?」
セルリスが駆けて行った。
不意を突かれた形になったガルヴも懸命に追っていく。
「ガルヴ、まだ走れるんじゃないか」
そうつぶやいて、俺は軽く追いかける。
ガルヴは息切れしているので、セルリスといい勝負していた。
屋敷に戻ると、シアとタマが出迎えてくれた。
「おかえりなさいであります!」
「わふわふ!」
「ただいま。ミルカたちは?」
「まだお勉強中でありますよ」
勉強熱心なのは良いことだ。あとでフィリーにお礼を言わなければなるまい。
ガルヴに水を用意しながら、シアに尋ねる。
「シア、冒険者ギルドに行ってきたのか?」
「はい。緊急性のあるクエストは無かったでありますよ」
「水竜の集落防衛の開始がいつからかわからないから、今は受けにくいわよね」
「そうであります」
シアもセルリスも水竜集落の防衛を手伝ってくれるらしい。
「がう」
「どうした、ガルヴ?」
水を飲み終わったガルヴが、後ろ足で立ち上がって、俺の顔を舐めてくる。
何かを伝えたいのだというのはわかる。
「水が足りないのか?」
「……がう」
「お腹が減ったのか?」
「がう!」
尻尾の揺れが加速した。
「そうか。そろそろお昼ごはんの時間だな」
ミルカが勉強中なので、俺が用意しなければなるまい。
「少し待っていてくれ。食べ物を調達してくる」
「わたしも手伝うわ」
「助かる」
「あたしも手伝うでありますよ!」
「シアも悪いな」
タマとガルヴに留守番をしてもらって、食糧を買いに行く。
出来上がっている食べ物を買おうと思っていたのだが、セルリスは食材を買いたがる。
「折角だし! 作ったらいいと思うわ」
「そうか。まあ、それでもいいか……」
ガルヴがお腹を空かしていたが、少しぐらいなら待てるだろう。
俺たちは食材を買って、屋敷に戻った。
「がう!」
「ガルヴ、待ってなさい」
「がうー」
明らかにがっかりしている。食べられる物を買ってくると思っていたのだろう。
そんなガルヴの横でタマはきちんとお座りしていた。
「さて、頑張って、お昼ご飯を作りましょう!」
セルリスは張り切っていた。
俺とシアがセルリスを手伝い、昼食を調理していく。
俺はガルヴとタマ、そしてゲルベルガさまの分のご飯も作る。
その間中、ずっとガルヴはうろうろしていた。
料理が完成に近づき、いい匂いが漂い始めたころ。
「あっ、忘れていたんだぞ!」
慌てた様子でミルカがやってきた。
「勉強は終わったのか?」
「うん。ちょうど終わったところなんだ」
そして、セルリスの方に行く。
「セルリスねーさん、申し訳ないんだぞ」
「気にしなくていいわ」
それから、セルリスの作ってくれた料理を皆で食べた。
獣たちもご飯を勢いよく食べていた。
獣たちのご飯を担当した俺としてはとても嬉しい。
特にガルヴは、勢いよく食べる。運動した分お腹がすいたのだろう。
「フィリー。勉強を教えてくれたのか? ありがとう」
食事中、俺はフィリーにお礼を言った。
「うむ。教え始めるのは早い方がいいからな!」
「ミルカたちは、どうだった?」
「そうだな。三人とも飲み込みが早いぞ。優秀な生徒だ」
フィリーに褒められて、ミルカ、ニア、ルッチラは照れていた。
「昼ごはんの準備、忘れていてすまなかったぞ」
「それは気にするな。授業を優先しろ」
「いいのかい?」
「いいぞ。俺がいれば俺が用意するし、俺がいない時は、授業が終わってから、食べ物を買いに行ってもいい」
「我も一緒に買いに行こうではないか!」
フィリーもそう言ってくれるが、フィリーは昏き者どもに狙われている。
俺はその点を説明して、自重を求めておいた。
「がふー」
ふと横を見ると、ガルヴがあおむけで眠っていた。
お腹が丸出しである。
お腹がいっぱいになったら、眠くなったのだろう。
そんなガルヴをみてセルリスが優しく微笑む。
「疲れていたのね」
「ガルヴはまだ子供だからな」
人族だったら、毛布でもかけてやるところだが、ガルヴは狼だ。
毛布をかけたら暑いかもしれない。
「ここ?」
「がふぅ」
眠っているガルヴにゲルベルガさまが近づいたので、抱きかかえる。
「しばらく寝かせておいてやろう」
「ここ」
ゲルベルガさまは、少し眠そうに目をつぶった。
タマもフィリーに撫でられて、眠そうにしていた。
獣たちはお昼寝の時間なのかもしれない。
そんなゆったりとした空気が流れる中、
「ただいまなのである!」
玄関からケーテの大きな声が聞こえてきた。