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152 獣たちと昼食

 はしゃぎまくっていたガルヴが、急に大人しくなった。

 俺の近くの地面に伏せている。


「……ガルヴ。疲れたのか?」

「がうー」


 思いっきり遊ぶのはいいことだ。

 だが、疲れて動けなくなるまで遊ぶのはやめて欲しい。

 これから、屋敷まで帰らねばならぬのだ。


「ガルヴ。帰りの分の体力も考えないとダメだぞ」

「がう!」


 ガルヴは一声吠えると、立ち上がって後ろから両前足を俺の肩に乗せる。


「言っておくが、背負ってやらないからな」

「がう?」

 ガルヴは尻尾を振って、首をかしげていた。


「セルリス。ガルヴが疲れたみたいだし、帰ろうか」

「そうね。ガルヴ、競争よ」

「がうっ?」


 セルリスが駆けて行った。

 不意を突かれた形になったガルヴも懸命に追っていく。


「ガルヴ、まだ走れるんじゃないか」


 そうつぶやいて、俺は軽く追いかける。

 ガルヴは息切れしているので、セルリスといい勝負していた。


 屋敷に戻ると、シアとタマが出迎えてくれた。


「おかえりなさいであります!」

「わふわふ!」

「ただいま。ミルカたちは?」

「まだお勉強中でありますよ」


 勉強熱心なのは良いことだ。あとでフィリーにお礼を言わなければなるまい。

 ガルヴに水を用意しながら、シアに尋ねる。


「シア、冒険者ギルドに行ってきたのか?」

「はい。緊急性のあるクエストは無かったでありますよ」

「水竜の集落防衛の開始がいつからかわからないから、今は受けにくいわよね」

「そうであります」

 シアもセルリスも水竜集落の防衛を手伝ってくれるらしい。


「がう」

「どうした、ガルヴ?」


 水を飲み終わったガルヴが、後ろ足で立ち上がって、俺の顔を舐めてくる。

 何かを伝えたいのだというのはわかる。


「水が足りないのか?」

「……がう」

「お腹が減ったのか?」

「がう!」

 尻尾の揺れが加速した。


「そうか。そろそろお昼ごはんの時間だな」

 ミルカが勉強中なので、俺が用意しなければなるまい。


「少し待っていてくれ。食べ物を調達してくる」

「わたしも手伝うわ」

「助かる」

「あたしも手伝うでありますよ!」

「シアも悪いな」


 タマとガルヴに留守番をしてもらって、食糧を買いに行く。

 出来上がっている食べ物を買おうと思っていたのだが、セルリスは食材を買いたがる。


「折角だし! 作ったらいいと思うわ」

「そうか。まあ、それでもいいか……」

 ガルヴがお腹を空かしていたが、少しぐらいなら待てるだろう。


 俺たちは食材を買って、屋敷に戻った。


「がう!」

「ガルヴ、待ってなさい」

「がうー」


 明らかにがっかりしている。食べられる物を買ってくると思っていたのだろう。

 そんなガルヴの横でタマはきちんとお座りしていた。


「さて、頑張って、お昼ご飯を作りましょう!」


 セルリスは張り切っていた。

 俺とシアがセルリスを手伝い、昼食を調理していく。


 俺はガルヴとタマ、そしてゲルベルガさまの分のご飯も作る。

 その間中、ずっとガルヴはうろうろしていた。


 料理が完成に近づき、いい匂いが漂い始めたころ。

「あっ、忘れていたんだぞ!」

 慌てた様子でミルカがやってきた。


「勉強は終わったのか?」

「うん。ちょうど終わったところなんだ」

 そして、セルリスの方に行く。


「セルリスねーさん、申し訳ないんだぞ」

「気にしなくていいわ」


 それから、セルリスの作ってくれた料理を皆で食べた。

 獣たちもご飯を勢いよく食べていた。

 獣たちのご飯を担当した俺としてはとても嬉しい。

 特にガルヴは、勢いよく食べる。運動した分お腹がすいたのだろう。


「フィリー。勉強を教えてくれたのか? ありがとう」

 食事中、俺はフィリーにお礼を言った。


「うむ。教え始めるのは早い方がいいからな!」

「ミルカたちは、どうだった?」

「そうだな。三人とも飲み込みが早いぞ。優秀な生徒だ」

 フィリーに褒められて、ミルカ、ニア、ルッチラは照れていた。


「昼ごはんの準備、忘れていてすまなかったぞ」

「それは気にするな。授業を優先しろ」

「いいのかい?」

「いいぞ。俺がいれば俺が用意するし、俺がいない時は、授業が終わってから、食べ物を買いに行ってもいい」

「我も一緒に買いに行こうではないか!」

 フィリーもそう言ってくれるが、フィリーは昏き者どもに狙われている。

 俺はその点を説明して、自重を求めておいた。


「がふー」

 ふと横を見ると、ガルヴがあおむけで眠っていた。

 お腹が丸出しである。

 お腹がいっぱいになったら、眠くなったのだろう。


 そんなガルヴをみてセルリスが優しく微笑む。


「疲れていたのね」

「ガルヴはまだ子供だからな」


 人族だったら、毛布でもかけてやるところだが、ガルヴは狼だ。

 毛布をかけたら暑いかもしれない。


「ここ?」

「がふぅ」

 眠っているガルヴにゲルベルガさまが近づいたので、抱きかかえる。


「しばらく寝かせておいてやろう」

「ここ」


 ゲルベルガさまは、少し眠そうに目をつぶった。

 タマもフィリーに撫でられて、眠そうにしていた。

 獣たちはお昼寝の時間なのかもしれない。


 そんなゆったりとした空気が流れる中、

「ただいまなのである!」

 玄関からケーテの大きな声が聞こえてきた。

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