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153 昼食後の人と竜

 ケーテの声が響くと、ガルヴがびくっとして飛び起きた。


「がうー」

「ガルヴ、寝ててもいいぞ?」

「がう!」

「床じゃなくて、長椅子で眠った方がいいんじゃないか?」

「がーう?」


 ガルヴは、ゆっくりと居間の長椅子まで歩いていく。

 そして、横になると大きなあくびをした。


 そこにケーテが入ってきた。


「む? お昼ご飯を食べていたのであるか?」

「そうだぞ」

「ケーテ、お昼ごはんはもう食べたか?」

「まだ食べていないのだ」


 そう言った瞬間、ケーテのお腹がぐーっとなった。


「ケーテも食べるといい」

「よいのか?」

「ああ」

「ありがたいのである!」


 そして、俺たちはケーテも一緒に昼ご飯を食べた。

 昼食の後片付けを済ませて、居間に行くとガルヴの横にケーテが座っていた。

 ガルヴは警戒心もなく、お腹を出して眠っている。


「がぁうー」

 ガルヴはいびきをかいていた。

 少し前まで、ケーテに怯えていたのが嘘のようだ。


「ガルヴは可愛いのである」

 そういって、ケーテは眠っているガルヴのお腹辺りを撫でている。

 ガルヴが起きる気配はない。


「ガルヴも随分ケーテに慣れたな」

「ケーテは良い竜なのである。それがガルヴにも伝わったのであろうな」


 俺はケーテの隣に座る。

「ケーテ、今日も遺跡を巡回してきたのか?」

「うむ。今日も平和であった」

「それならよかった」

「良いとも言い切れないぞ」


 フィリーの声が後ろから聞こえる。

 俺が振り返ると、フィリーとタマが立っていた。


「フィリー。どういうことだ?」

 俺はフィリーに向かいの長椅子を勧めながら言った。


 フィリーとタマは、一緒に俺の向かいの長椅子に座る。

 タマはフィリーの横に行儀よくお座りした。

 お腹を丸出しにしていびきをかいているガルヴと正反対だ。


「もしかしたら……。遺跡を荒らす必要がなくなったということなのやもしれぬ」

「もう必要な魔道具や装置を集め終わったってことか?」

「うむ。可能性はある」

「だが、この辺りの遺跡はケーテが見張っておるのだ」

「遠くの竜族の遺跡を漁ったのかもしれぬし……もしかしたら竜族以外の遺跡を漁ったのかもしれぬ」

「むむう」


 ケーテは真面目な顔で呻く。

 尻尾の先が円を描くようにして、揺れていた。


「フィリーの言う通りかもしれないな」

「であろ?」

「実際、愚者の石の量産化に成功していそうな気配があるしな……」

「フィリーが懸念を抱いているのは、ロックさんたちが遭遇したという魔装機械の数なのだ」


 フィリーの言うとおりだ。

 愚者の石か賢者の石。そのどちらかが魔装機械の製造には必要だとドルゴが言っていた。

 だから、俺たちは製造をあきらめたのだ。


 だが、昏き者どもは五十機を風竜王の宮殿近くに配備していた。


「風竜王宮殿近くに配備する魔装機械など、優先順位は低いと思うのだが、ロックさんはどう思う?」

「確かにそうだな。昏き神の加護や呪いを溜めるメダル、神の加護を破るアイテムの方が重要に思える」

「なるほどー。そうかもしれぬのだ」


 ケーテも感心しながら聞いている。


「水竜たちを生贄にすれば、昏き者どもの目的は果される。そんな時点まで来ているのかもしれぬ」

「昏き者どもの計画が順調に進んでいる可能性があるってことだな」

「怖いことであるなー」


 ケーテがうんうんと頷いていた。


「そういえば、フィリー。自分のことを我って呼ぶのをやめたのか?」

 先程から、フィリーは自分のことをフィリーと呼んでいる。


「わ、悪いのか?」

 フィリーは顔を真っ赤にした。


「いや、全く悪くない。少し気になっただけだ」

「母上に……我は可愛くないといわれてな……」

「そうか。たしかにフィリーって呼んでいる方が可愛いかもしれないな」


 フィリーは照れていた。

 そして、ケーテが声を上げる。


「えっ?」

「ケーテ、どうした?」

「我って、可愛くないのであるか?」

「いや、そういうわけではないぞ?」

「我が、自分のことを我って呼ぶのは、やめたほうがいいのであるか?」

「いやいや、ケーテが我と呼ぶのは可愛いと思うぞ」

「ふむ? そうであるかー。人族の感性は難しいのだなー」


 その時、呼び鈴が鳴った。


「おれが出るぜ!」

 ミルカが走っていく。


「知らない人だったら開けなくていいからな」

「わかってるー」


 そして、やってきたのはドルゴだった。

 ドルゴも、ケーテと同じく、門を開けることができるように設定してある。

 それでも、呼び鈴をわざわざならしてくれたのだ。

 さすがは、ドルゴ。とても礼儀正しい。


「ロックどの、お邪魔いたします」

「よくおいでくださいました」


 フィリーとタマが立ち上がって、近くの別の長椅子に移る。

 空いた席をドルゴに勧めた。着席してから、ドルゴは言う。


「ケーテ、また来ていたのか」

「我だけじゃなく、父ちゃんだって来ているのではないか!」

「まあよい」


 そして、ドルゴは俺の方を見た。


「水竜たちと話を進めてまいりました」

「どういう首尾に?」

「ぜひ、ロックさんにお願いしたいと」

「それならよかったです」


 竜族の誇りで、人族の手は借りないとか言われなくてよかった。

 これで、水竜の集落の防衛に注力できるというものだ。

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