夕方になり、エリックとゴランがやってきた。
即座にミルカがエリックに尋ねる。
「ゴランさんは、当然食べるとして、エリックさん、夕食は食べていくかい?」
「いや、折角なのだが……」
どうやら、エリックは妻のレフィに食べすぎだと怒られたらしい。
俺の屋敷でも夕食を食べ、王宮でも食べるのは確かに食べすぎだ。
ただでさえ、国王であるエリックには会食という仕事もあるのだ。
「レフィ怒ると怖いからな……」
「ああ……そうだな」
俺がつぶやくと、ゴランもうなずいた。
レフィは元パーティーメンバーだ。恐ろしさは知っている。
「だが、エリック。食べた分、動けばいいだろう?」
「俺もそう思うのだがな……」
「じゃあ、お茶でも入れるぞ!」
「ありがたい」
それから俺はエリックとゴランを魔法陣部屋に連れていく。
「これは一体なんだ?」
「新しく作った転移魔法陣部屋だ」
「ほほう。どこに繋がっているんだ?」
俺は転移魔法陣の説明をする。
ついでに、エリックとゴランの鍵の登録も済ませておいた。
ドルゴが真面目な顔で言う。
「もし、風竜王の宮殿や水竜の集落が落ちた場合は、リスクがあります」
「そうでしょうね」
エリックは頷いた。
「エリック王陛下への相談が遅くなって申し訳ございません」
「気にしないでください。風竜王の宮殿にはロックの魔法防御が掛かっていますからね。それに水竜の集落はこれからロックが守るところですし」
それを聞いて、ドルゴは微笑む。
「エリック陛下はロックさんのことを信用なされているのですね」
「もちろんです。ロックの魔法防御を破る相手なら、そもそもの対策を根本的に改める必要がありますし」
風竜王の宮殿の防壁を破れる敵ならば、そもそも存在がやばい。
魔法陣など使用せずに、王都に直接攻め込まれたほうが危険だ。
神の加護はあるが、加護の外から攻撃されるのが恐ろしい。
「水竜の集落から、ロックがすぐに戻ってこれるのは助かるな」
「ああ、心強い」
ゴランとエリックも喜んでいた。
それから軽く打ち合わせをする。
ドルゴが言うには、水竜の集落には明日出向いてほしいとのことだった。
「我も同行するのである!」
「あたしも同行したいのであります!」
「私も……」
「ロックさん! パパ! 私もぜひ連れて行ってください」
ケーテ、シア、ニア、セルリスが同行の意思を示した。
とくにセルリスは真剣な表情だ。
「うーん。そうだな……」
悩ましい。人手は必要かもしれない。
だが、敵は水竜の集落に攻め込む戦力だ。
ケーテはともかく、その他のメンバーが活躍できるだろうか。
「うーむ」
ゴランも悩んでいる。
「お、来てくれるのであるな。嬉しいのであるぞ!」
だが、ケーテはニコニコして、同行を許可する。
あっさり許可されて、セルリスが驚く。
「え? いいのかしら?」
「よいぞ?」
ケーテはいいというが、本当にいいのだろうか。
俺は一応ドルゴにも確認することにした。
「ドルゴ先王陛下。どうでしょうか? 大勢で押しかけたら、水竜の皆さんのご迷惑になりませんか?」
「いえいえ、構わないと思います」
「そうですか。それならよかったです」
セルリスとシアとニアも同行してくれることになった。
ニアはフィリーの授業があるので、初日以外は午後からの参加とすることにした。
転移魔法陣の効果で、移動が簡単になったおかげだ。
次の日、朝食の後、俺たちは水竜の集落に向かう。
初日ということで、エリックとゴランも同行する。
エリックとゴランは普段は防衛に参加できないが、水竜には挨拶する必要がある。
当然といった表情で、ガルヴもついてきた。
転移魔法陣をくぐると、とても広い部屋に出る。
石造りの立派な部屋だ。
「お待ちしておりまいた」
可愛らしい幼女が目の前にいた。
幼女は挨拶を噛みながら、ぎこちない所作で頭を下げた。
年のころは、エリックの四歳の次女、マリーぐらいに見える。
ケーテとドルゴにそっくりな太くて長い尻尾があり、頭に角が生えていた。
竜族なのだろう。
「はじめまして。水竜の王太女リーア・イヌンダシオです」
リーアは緊張しながら自己紹介してくれた。
水竜には王はいないとドルゴから聞いている。
まだ幼く即位できない王女なのだろう。
ドルゴが俺たちを紹介してくれる。
「こちらが、メンディリバル王国国王、エリック・メンディリバル陛下です。こちらがゴラン・モートン卿、冒険者ギルドの……」
ドルゴは一人一人、丁寧に紹介してくれる。
それにリーアも、緊張しつつも丁寧にあいさつを返していく。
だが、なぜかドルゴは俺をなかなか紹介してくれない。
年齢的に、エリック、ゴランの次ぐらいに紹介してくれてもいいと思う。
セルリス、シア、ニア、ガルヴの紹介が終わって、ついに俺の番になる。
「そして、最後になりましたが、この方が、偉大なる大賢者にして、我々の救世主、偉大なる最高魔導士、ラック・フランゼン大公閣下です」
ドルゴの紹介に「偉大なる」が二回入っている。
ギルドの称号では、大賢者の前に「偉大なる」は入らなかったはずだ。
ドルゴのアレンジだろうか。
勝手に「偉大なる」を増やすのはやめて欲しい。
「ラ、ラックさまですか!」
リーアが駆け寄ってくる。
「お、お会いできて光栄です」
「王女殿下、よろしくお願いいたします」
王女の尻尾が上下に揺れていた。