次の日から、俺は一日一度、水竜の集落に出向くことにした。
午前中にガルヴとタマとゲルベルガさまを連れて、集落の様子を見に行くのだ。
ガルヴの散歩も兼ねている。
そして、午後はニアと剣術の訓練をしたり、ミルカに魔法を教えたりした。
そんな日々を過ごして、三日目のこと。
今日は、ケーテも一緒に来てくれることになった。
ケーテは、基本暇らしい。
「おはよう。ラック、来てくれて、とてもうれしいのよ」
「おはよう、リーア」
水竜の集落に行くと、リーアが魔法陣部屋で出迎えてくれた。
毎日リーアは魔法陣部屋で待っていてくれる。
「ケーテ姉さまも、遊びに来てくれてうれしいの」
「リーアはいい子なのである!」
ケーテはリーアのわきの下に手を入れて、持ち上げる。
そして、ケーテはくるくる回る。
リーアはキャッキャと言って喜んでいた。
その周りをガルヴとタマがぐるぐる回る。
「がうがう!」
「ガルヴもタマもゲルベルガさまもおはよう」
地面に降ろされるとリーアは獣たちを順番に撫でていく。
「出迎えてくれるのは嬉しいけど、わざわざ毎日出迎えてくれなくてもいいんだぞ。リーアも忙しいだろう?」
「んーん。楽しみだからいいの。迷惑だった?」
「全然、迷惑ではないぞ」
三日経って、俺もリーアに敬語を使わなくなっていた。
そうして欲しいと言われたからだ。
魔法陣部屋のある建物を出ると、水竜たちが待っていてくれる。
これもいつものことだ。
「ラックさま! よくおいでくださいました!」
わいわい言いながら、俺とガルヴたちの散歩についてくる。
水竜は結構ひまらしい。
「竜ってあまり働かないのか?」
小声でケーテに聞いたら、竜族はあまり食べなくてもいいと教えてくれた。
「よく考えてみるのである。巨大な竜族が人族ぐらいの体重比率で食べたら、大変なことになるであろう!」
「それはそうだが、ケーテはよく食べてるよな」
「それはそれ。これはこれである」
「いや、それとこれはまさに同じだと思うが」
「そんなことはないのである。人族だって必要のない食事をするであろう?」
「そういうことなら、なんとなくわかる」
ケーテは初めて王都に来たときに無銭飲食しかけていた。
ミルカの作ったご飯もバクバク食べている。
食べることは必須ではないが、好きということなのかもしれない。
ともあれ、竜族は食べる必要性が少ないうえに、物を買ったりもあまりしない。
だから、労働の重要性が低いようだ。
そんなことを話しながら、俺たちは水竜の集落を駆け足で巡回する。
走る必要はないのだが、ガルヴを走らせるためだ。
タマが疲れたあたりで、俺たちは休憩する。
その間もガルヴは水竜たちとかけっこして遊んでいた。
「リーア。最近は襲撃はないのか?」
「うーん。ないと思うの」
「大きなものはありません。ですが、レッサーヴァンパイアが入ろうとしてくることはあります」
侍従長が、リーアの言葉を補足してくれる。
「詳しく教えてください」
「大体に一日一度か二度、二、三匹のレッサーヴァンパイアやアークヴァンパイアが侵入しようとしてくるのです」
ロード以上のヴァンパイアなら、結界が防いでいる。
だが、弱いヴァンパイアは結界では防げない。
水竜たちがその手で排除する必要がある。
「それは面倒ですね」
「はい、脅威ではありませんが、面倒ではあります」
レッサーやアークヴァンパイアごとき、水竜の敵ではない。
人族にとっての、ゴキブリのようなもの。水竜が叩けば死ぬ。
だが、気持ち悪いし、自分の領域に出現されると、ぞっとする。
物陰に隠れられると非常に嫌な気持ちになる。
とはいえ、いちいち王太女殿下に報告するようなことではない。
だから、リーアは知らなかったのだろう。
「ヴァンパイアの侵入はどうやって探知しているのですか?」
「我らの目と鼻と耳で」
「……なるほど」
魔法技術に優れた竜族らしくないやり方だ。
おそらく竜族は気配を察するのもうまいのだろう。
いくら、うまいと言っても不安ではある。
「ケーテ。侵入者探知の魔法使えたよな」
「む? いつも遺跡にかけているやつであるか?」
「そうそう。それを、集落全体にかけられないか?」
「むむう……」
「難しいか?」
「広いから、難しいのである」
ケーテが難しいというのなら仕方がない。
「ならば、俺が魔法をかけるか」
「ロック、出来るのであるか?」
「まあ。恐らくは。リーア、かけてもいいだろうか?」
「お願いするのよ!」
リーアの許可が出たので、俺は集落の外周をもう一度回る。
基本はケーテの侵入者探知の魔法と同じだ。
その魔法の核となるものを集落の外周に配置して、核同士を魔力でつなげるのだ。
「ふむう。さすがはラックである」
ケーテは感心していた。
侵入者があれば鳴り響く腕輪を、複数作ってそれを侍従長に託した。
「侵入者がいればこれが鳴ります。ですが魔法でごまかす方法もないわけではありません」
そういって、これまで通りの警戒も続けてもらうようお願いする。
「腕輪のこの部分をみれば、どこに侵入があったのかわかるようになっています」
「なんと……。ありがとうございます」
「ラック、ありがとうなのよ!」
侍従長とリーアにお礼を言われた。