防備を整えてから、俺は水竜の集落と王都の屋敷を行ったり来たりする生活に入った。
王都の方も心配だ。
毎日早朝、一度冒険者ギルドによることにした。
いつもだいたい、冒険者ギルドに行くと、アリオとジョッシュがいる。
「ロックさん、たまには一緒にネズミ狩りでもどうですか?」
「それは楽しそうだが、最近忙しくてな」
「そうだよな。ロックは凄腕だから、いろんな依頼があるんだろうな」
アリオとジョッシュも順調にクエストをこなしているようだった。
若手の成長は喜ばしい。
冒険者ギルドに寄った後は、屋敷に戻って、水竜の集落にいく。
ガルヴの散歩を兼ねて、見回りをするのだ。
午後からはニアやセルリスたちに剣術を教えて、ミルカとルッチラに魔法を教えた。
そんな日々を過ごし始めて、一週間後。
夜中、屋敷でガルヴと一緒に寝ていると、腕輪が震えた。
『ラックさま。襲撃です』
水竜の侍従長モーリスの声だ。
俺は跳ね起きて、通話の腕輪に向かって応答する。
「すぐ向かいます」
「がう?」
「ガルヴ。俺は水竜の集落に行く。寝ててもいいぞ」
「がう!」
俺は魔神王の剣だけ手に取ると、一階の転移魔法陣部屋へと走る。
こういう時のために、いつも俺は寝間着は着ていない。
さすがに鎧は外しているが、普段着のまま眠っている。
俺が階段を駆け下りる音に反応したのか、セルリスが部屋から顔を出した。
「どうしたの?」
「水竜から救援依頼だ!」
それだけ言えば、わかるだろう。
俺は魔法陣部屋に入ると、水竜の集落に飛んだ。
転移魔法陣特有の、めまいに似た感覚を覚えつつ向こう側につく。
「がーう」
「ガルヴついて来たのか」
「がう!」
「無理はするなよ」
俺は魔法陣部屋のある建物を走って出る。
そこにはリーアがいた。
今夜はリーアも竜の姿である。
ケーテよりも一回り小さい、綺麗な青の美しい竜だ。
「ラック、門から侵入者が来たの! モーリスが食い止めてくれているの」
「了解。レッサーやアークの侵入の恐れがある。リーアは水竜の皆と警戒を頼む」
「わかったわ」
俺はガルヴと一緒に門へと走った。
その途中、腕輪から声がした。
『ロック。どんな塩梅だ?』
今日はたまたまゴランはゴラン邸で眠っていた。
自宅で眠るのは普通のことだから仕方がない。
「いま向かっているところだ。状況はいまだ不明。助けが必要ならすぐに呼ぶ」
『そうか』
「とりあえず、それまでは眠っていていいぞ」
『そう言われて眠れるものか』
エリックの声もした。
同時通話ができる高性能腕輪なのだ。
『とりあえずロックの屋敷に向かっているところだ』
『俺もいま地下道だ』
『我も今向かっておるぞー』
『私は、もう集落に着きました』
ケーテは俺の屋敷に、ドルゴは風竜王の宮殿にいた。
風竜王の宮殿からは転移魔法陣を二つくぐれば、やって来られる。
むしろケーテよりも近いのかもしれない。
少なくともドルゴはすぐ来てくれそうだ。心強い。
「エリックと、ゴランが到着するまでには終わらせたいな」
『無駄足になることを願っている』
『ああ、それが一番だ』
その瞬間、俺の横に火炎弾が飛んできた。とても大きい。
敵の数は多い。
モーリスたち、水竜の精鋭たちが、かなり苦戦していた。
モーリスからの音声が、最初の救援依頼以来、届かないのが不思議だった。
なんのことはない。こちらと通話する余裕がなかっただけだ。
「残念ながら、急いでもらった方がいいかもしれない」
そう腕輪に言って、俺は魔力弾をぶっ放す。
水竜に噛みつこうとしていた、昏竜の頭に命中。
「GYAAAAAAA」
昏竜は苦しそうに悲鳴を上げた。だが、致命傷には至らない。
俺がそれなりに力を込めた魔力弾だ。並みの竜なら倒せる威力。
それでも、昏竜は倒れない。
だが、倒れずとも、俺の方に意識が向いた。
俺は大声で叫ぶ。
「まず俺から倒してみろ!」
俺は魔力弾を同時に三十発撃ち込む。
ヴァンパイアロードや昏竜たちの反応は二種類だ。
俺の魔力弾を甘く見て、そのまま受けたもの。
危険を感じ取って、必死によけたもの。
「「「GYAAAAAA」」」
甘く見た二体のヴァンパイアロードと、三体の昏竜は致命傷をうけた。
即座に水竜にとどめを刺される。
危険を感じ取って避けた者たちの方が強敵である。
その強敵たちの意識が俺の方を向く。
俺は構わず、まっすぐに突っ込んでいく。
昏竜のブレスやヴァンパイアロードの魔法が俺を目掛けて飛んできた。
俺は加速する。
俺の通った後に、魔法やブレスが着弾していく。
——ガガガガガッ
大きな音と同時に、土が跳ね上がり、石が巻き上がる。
土煙に包まれた。
「ラックさん!」
モーリスの悲鳴のような、慌てる声が響いた。
同時に、俺は土煙の中から飛び出て、先頭の昏竜の首を魔神王の剣ではねた。