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164 昏き者どもの襲撃

 防備を整えてから、俺は水竜の集落と王都の屋敷を行ったり来たりする生活に入った。


 王都の方も心配だ。

 毎日早朝、一度冒険者ギルドによることにした。

 いつもだいたい、冒険者ギルドに行くと、アリオとジョッシュがいる。


「ロックさん、たまには一緒にネズミ狩りでもどうですか?」

「それは楽しそうだが、最近忙しくてな」

「そうだよな。ロックは凄腕だから、いろんな依頼があるんだろうな」


 アリオとジョッシュも順調にクエストをこなしているようだった。

 若手の成長は喜ばしい。


 冒険者ギルドに寄った後は、屋敷に戻って、水竜の集落にいく。

 ガルヴの散歩を兼ねて、見回りをするのだ。

 午後からはニアやセルリスたちに剣術を教えて、ミルカとルッチラに魔法を教えた。



 そんな日々を過ごし始めて、一週間後。

 夜中、屋敷でガルヴと一緒に寝ていると、腕輪が震えた。


『ラックさま。襲撃です』

 水竜の侍従長モーリスの声だ。

 俺は跳ね起きて、通話の腕輪に向かって応答する。


「すぐ向かいます」

「がう?」

「ガルヴ。俺は水竜の集落に行く。寝ててもいいぞ」

「がう!」


 俺は魔神王の剣だけ手に取ると、一階の転移魔法陣部屋へと走る。

 こういう時のために、いつも俺は寝間着は着ていない。

 さすがに鎧は外しているが、普段着のまま眠っている。


 俺が階段を駆け下りる音に反応したのか、セルリスが部屋から顔を出した。


「どうしたの?」

「水竜から救援依頼だ!」


 それだけ言えば、わかるだろう。

 俺は魔法陣部屋に入ると、水竜の集落に飛んだ。


 転移魔法陣特有の、めまいに似た感覚を覚えつつ向こう側につく。


「がーう」

「ガルヴついて来たのか」

「がう!」

「無理はするなよ」


 俺は魔法陣部屋のある建物を走って出る。

 そこにはリーアがいた。

 今夜はリーアも竜の姿である。

 ケーテよりも一回り小さい、綺麗な青の美しい竜だ。


「ラック、門から侵入者が来たの! モーリスが食い止めてくれているの」

「了解。レッサーやアークの侵入の恐れがある。リーアは水竜の皆と警戒を頼む」

「わかったわ」


 俺はガルヴと一緒に門へと走った。

 その途中、腕輪から声がした。


『ロック。どんな塩梅だ?』

 今日はたまたまゴランはゴラン邸で眠っていた。

 自宅で眠るのは普通のことだから仕方がない。


「いま向かっているところだ。状況はいまだ不明。助けが必要ならすぐに呼ぶ」

『そうか』

「とりあえず、それまでは眠っていていいぞ」

『そう言われて眠れるものか』


 エリックの声もした。

 同時通話ができる高性能腕輪なのだ。


『とりあえずロックの屋敷に向かっているところだ』

『俺もいま地下道だ』

『我も今向かっておるぞー』

『私は、もう集落に着きました』


 ケーテは俺の屋敷に、ドルゴは風竜王の宮殿にいた。

 風竜王の宮殿からは転移魔法陣を二つくぐれば、やって来られる。

 むしろケーテよりも近いのかもしれない。


 少なくともドルゴはすぐ来てくれそうだ。心強い。


「エリックと、ゴランが到着するまでには終わらせたいな」

『無駄足になることを願っている』

『ああ、それが一番だ』


 その瞬間、俺の横に火炎弾が飛んできた。とても大きい。

 昏竜イビルドラゴンやヴァンパイアどもと戦うモーリスたちの姿が見える。

 敵の数は多い。

 モーリスたち、水竜の精鋭たちが、かなり苦戦していた。


 モーリスからの音声が、最初の救援依頼以来、届かないのが不思議だった。

 なんのことはない。こちらと通話する余裕がなかっただけだ。


「残念ながら、急いでもらった方がいいかもしれない」

 そう腕輪に言って、俺は魔力弾をぶっ放す。

 水竜に噛みつこうとしていた、昏竜の頭に命中。

「GYAAAAAAA」

 昏竜は苦しそうに悲鳴を上げた。だが、致命傷には至らない。


 俺がそれなりに力を込めた魔力弾だ。並みの竜なら倒せる威力。

 それでも、昏竜は倒れない。


 だが、倒れずとも、俺の方に意識が向いた。

 俺は大声で叫ぶ。


「まず俺から倒してみろ!」


 俺は魔力弾を同時に三十発撃ち込む。


 ヴァンパイアロードや昏竜たちの反応は二種類だ。

 俺の魔力弾を甘く見て、そのまま受けたもの。

 危険を感じ取って、必死によけたもの。


「「「GYAAAAAA」」」


 甘く見た二体のヴァンパイアロードと、三体の昏竜は致命傷をうけた。

 即座に水竜にとどめを刺される。


 危険を感じ取って避けた者たちの方が強敵である。

 その強敵たちの意識が俺の方を向く。


 俺は構わず、まっすぐに突っ込んでいく。

 昏竜のブレスやヴァンパイアロードの魔法が俺を目掛けて飛んできた。


 俺は加速する。

 俺の通った後に、魔法やブレスが着弾していく。

 ——ガガガガガッ


 大きな音と同時に、土が跳ね上がり、石が巻き上がる。

 土煙に包まれた。


「ラックさん!」


 モーリスの悲鳴のような、慌てる声が響いた。

 同時に、俺は土煙の中から飛び出て、先頭の昏竜の首を魔神王の剣ではねた。

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