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166 巨大な昏竜

 水竜の侍従長モーリスが叫ぶ。


「風のブレスのご使用には、配慮をお願いします! 毒が拡散してしまいます」

「把握しました」


 巨大な姿になったドルゴはそのまま巨大昏竜イビルドラゴンに襲いかかる。


「ドルゴさん! 大地が壊れないようお願いします!」

「わかっております!」


 竜同士が本気で戦えば大地が崩れかねない。

 もちろんそれはドルゴもわかっているだろう。

 あえて言ったのは念のためだ。


「GYAAAA!」


 ドルゴをみて、気合を入れるかのように、巨大な昏竜が咆哮した。


 ドルゴは鋭い爪と牙と体しか使わない。

 いや、近くに水竜の集落があるから、それ以外は使えないのだ。


 空を飛びながら、爪を繰り出し、尻尾をぶつけている。

 その余波だけで、周囲の木々がなぎ倒される。


「おのれっ!」


 ドルゴが叫んだ。巨大昏竜がブレスを使ったのだ。

 ドルゴは魔法障壁を展開する。

 さすがはドルゴ。見事な大きさの障壁だ。

 自分というより、集落と水竜たちを守るためだろう。


 巨大昏竜の息は長い。ドルゴの障壁にもひびが入っていく。

 障壁を維持するのに手いっぱいのドルゴのもとに、ヴァンパイアどもが殺到する。


 俺はドルゴの近くに湧いたヴァンパイアに魔法をぶつけて討伐していく。


「かたじけない!」

「障壁、そのままで、お願いします!」

「お任せください」


 俺はとりあえず、周囲の昏竜に向けて魔法の槍をばらまいた。

 かなり力を込めた魔法の槍だ。牽制ぐらいにはなるだろう。


「「GAAAAALAAA!」」


 昏竜どもが一斉に叫ぶ。

 魔法の槍をまともに食らった奴がいたらしい。

 それも一、二頭ではない。

 五頭ぐらい昏竜の体に魔法の槍が刺さって悲鳴を上げている。


「ドルゴと水竜たちが意識を引いてくれたおかげだな」


 それでも致命傷には至らない。

 だが、これだけダメージを与えておけば、雑魚は水竜たちに任せて大丈夫だろう。

 その間に巨大昏竜を何とかせねばなるまい。


 俺は一直線に巨大昏竜との間合いをつめる。

 巨大昏竜は空中にいるので、魔神王の剣は使えない。

 だが、俺は魔導士なので支障はない。


「GAAAA!!」

 高速で走る俺に気づいた巨大昏竜が咆哮と同時にブレスを俺に向ける。

 毒のブレスだ。だが、ドルゴの障壁が見事に防ぐ。


「助かります!」

 俺はお礼を言いながら、魔法の槍を撃ち込んだ。

 同時に十本。正面から五本。側面に二本、背後に三本だ。


 魔法の槍を見ただけで、その危険性を理解したのだろう。

 巨大昏竜はブレスをやめて、防御に回った。即座に障壁が張られる。


 ——ガガガガッガ

 魔法の槍が障壁にぶつかり、砕いていく。五枚の障壁を砕いてやっと止まる。


「これでも通らないか」


 巨大昏竜が槍を防いでほっとした瞬間を狙う。

 重力魔法を叩き込み、巨大昏竜を地面に墜とす。

「GI! GAA!」

 巨大昏竜は驚いたような声を上げた。


「地面に墜ちればこっちのもんだ」

 俺は魔神王の剣で斬りかかる。

 巨大昏竜は防御をしない。攻撃のために腕を振るった。

 鋭い爪が俺に迫る。

 俺も防御しない。体に爪が当たるに任せる。


「ロックさん!」

 ドルゴの慌てる声が聞こえた。


 ——ガギン


 俺に爪が当たった瞬間、大きな音が響く。

 砕けたのは、昏竜の爪。

 ヴァンパイアハイロードからラーニングした攻性防壁の効果だ。


「GA……?」

 何が起こったのかわからない。巨大昏竜はそんな顔をしている。

 俺はその隙をつく。左腕と左足を斬り落とした。


「GAAAAAAAAAAA!!」

 巨大昏竜は悲鳴を上げた。


「よく避けたな」

 首を狙ったのに、よけられてしまった。


 その時、俺の真横にヴァンパイアが出現した。

 俺に触れようとして、腕が吹き飛ぶ。


「さっきの攻性防壁みてなかったのか?」

 俺はヴァンパイアの首を魔神王の剣で落とす。

 だが、俺の視線が巨大昏竜から外れた。


「GAAAA」

「また、ブレスか。芸がないぞ」


 俺が煽ったせいか、毒ブレスに加えて、魔力弾マジック・バレットを撃ち込んでくる。

 俺は障壁で防ぐと、再び魔法の槍を十本放つ。


 魔法の槍が、巨大昏竜の障壁にあたる。


 ——ガガガガガガ

 先程と同じように、障壁の五枚目で九本止まる。

 だが、一本は障壁をすべて貫き、昏竜の胴体に大きな穴をあけた。


「お前らの神から盗んだ魔法だ。効くだろう?」


 邪神の頭部からラーニングした暗黒光線ダーク・レイを魔法の槍に偽装しておいたのだ。

 邪神、すなわち神の魔法だ。威力は充分。いくら巨大昏竜とはいえ、耐えられまい。


「……なんだと」

 ヴァンパイアハイロードの驚く声がする。ハイロードも始末したい。

 だが、巨大昏竜はまだ動いている。


 俺は魔神王の剣で、巨大昏竜の首を落とし、心臓を貫いた。

 そうして、やっと巨大昏竜は動かなくなる。


 俺は即座にヴァンパイアハイロードに狙いを変える。

 ハイロードは霧に変化し、逃亡を試みた。


「逃がすか!」

 霧を魔神王の剣で斬り裂いた。


「ぎゃああああ」

 ハイロードは悲鳴を上げ、霧の一部が灰に変わった。

 だが、霧の大半には逃げられてしまった。

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