巨大
後は残党を狩ればいい。
俺は水竜たちと力を合わせて、昏竜やヴァンパイアを狩っていった。
残党の全てを狩り終えたころ、ケーテが到着した。
「遅れたのである」
「ケーテ。遅すぎるぞ。何をしていた」
ドルゴに叱られている。
風竜王の宮殿から駆けつけたドルゴと比べて遅すぎる。
ケーテは俺の屋敷から駆けつけたはずだ。
「すまぬ。ただ、集落の方で昏き者どもを相手にしていたら、手間取ったのである」
俺はケーテの気持ちはわかる。
目の前で戦っているものがいれば、素通りは難しい。
「優先順位というものがある。レッサーなら水竜の皆さんで対応できるだろう」
「そうなのであるが……、でも!」
ケーテはしょんぼりしつつも、反論しかける。
そこにゴランが到着した。
「はぁはぁ。こっちも終わった後ってやつだな。何よりだ」
「エリックはどうした?」
ゴランより、秘密の地下道を使えるエリックの方が、早く到着できるはずだ。
「エリックは念のためにリーア殿下の護衛だ」
「門以外から襲撃してきたのってレッサーかアークだろう?」
エリックが残る必要性がないように思える。
ゴランはゆっくりと首を振る。
「だったらよかったんだがな。ロードやハイロードまで入ってきやがった」
「なに? ……神の加護を誤魔化す魔道具のようなのをつかってきたのか?」
「恐らくな。そのうえ、魔装機械が十機入ってきやがった」
「……それはまずいな」
「集落の方には昏竜が来なかったから、まだましだ」
昏竜がいなくとも、魔装機械にハイロードがいれば、恐ろしいことだ。
門だけ防衛していればいいというものではなくなった。
「集落の方は無事なんだろうな?」
「もちろんだ。俺がこっちに来たってことは、無事撃退したってことだからな。それで、ケーテと一緒に走ってきたんだ」
ゴランの話を聞いていたドルゴがケーテに向かって頭を下げた。
「ケーテ。申し訳ない。父が間違っていた」
「……うむ。わかればよいのである!」
しょんぼりしていたケーテが元気になった。
尻尾が上下に揺れ始めた。
ケーテは巨大昏竜の死骸に興味を示した。
「それにしても、でかいのである!」
「強かったぞ」
「それはそうであろうな!」
侍従長モーリスが周囲の枯れた木を調べる。
「毒のブレスのようですね……」
「もちろん猛毒ではありましたが……」
「ラックさまは、毒だけではないとお考えなのですか?」
「猛毒に強酸を加えた……そんなブレスに感じました」
そんな危険なものを大量の魔力と一緒に口から出すのだ。
おそろしいことこの上ない。
後始末を水竜たちにまかせて、俺たちは宮殿の方へと戻る。
「ラック、おかえりなさい」
リーアが出迎えてくれる。リーアは人の姿に戻っていた。
「ただいまもどりました。こちらも激しい襲撃に襲われたようですね」
「エリックが助けてくれたの。それにセルリスやシア、ニアも!」
セルリスたちもヴァンパイア狩りで活躍したそうだ。
エリックは魔装機械を破壊したようだ。
俺に気づいて近づいてきたエリックは深刻な表情だった。
「ラック。強いものをはじく結界だがな、魔装機械は作動していなければ、弾かれないらしい」
「それは厄介だな」
強いものを弾く結界は魔力を感知して作動する。
どんな生物だろうが、生物である以上魔力がある。
強いものは保有する魔力が高い。それは戦士でも同じだ。
体内で魔力を使うのが戦士。体の外でも魔力をうまく使えるのが魔導士だ。
だから、強いものを弾く結界ならば、体内の魔力回路で判断すればいい。
魔力の巡りが激しいものが強者といえるのだ。
だが、作動していない魔装機械は武器などと同じ。魔力が巡っていない。
生き物であれば、魔力が巡っていないということは死んでいるということになる。
結界は、作動していない魔装機械を単なる金属の塊や、ただの魔石と判断する。
「魔装機械を結界内に運び込んで、作動させればいいということか」
「作動させる前に潰せればいいんだがな」
「魔装機械は固いからな……」
「ああ」
それでも三機ほど、動き出す前につぶしたようだ。
それで動いたのが七機だ。
「ヴァンパイアの死骸も見せてくれ」
「こっちだ」
俺はエリックに案内されて、宮殿から少し離れた広場に向かう。
そこにはセルリス、シア、ニアがいた。
「ロックさん、ご無事で何よりであります」
「シアたちこそ、無事でよかった」
セルリスたちは水竜たちと力を合わせて、ヴァンパイアと戦ったようだ。
俺はヴァンパイアの死骸、つまり灰を調べる。
灰の量から言って、三十体ぐらいだろうか。
その中に、ヴァンパイアロード以上の死骸であることを示すメダルは三枚あった。
俺はロード以上に結界を越えさせた魔道具を探す。
しばらく探して、腕輪のような魔道具を見つけ出す。
かなり強力な魔力を感じる。
その魔道具には愚者の石がふんだんに使われているようだった。