俺たちは王都の屋敷に戻った。
フィリーの研究室で魔道具製作を行うためだ。
ケーテとドルゴも、人型になって俺たちと一緒に屋敷に戻る。
ケーテがおずおずと言う。
「ロック、あの……」
「どうした?」
「魔道具製作を、見たいのだが……だめであろうか?」
「いや、構わないが……フィリーはどうだ?」
「もちろん構わぬ」
フィリーからの許可が出ると、ケーテは嬉しそうに尻尾を振った。
「ドルゴさんも、どうぞ」
「ありがとうございます。とても興味がありましたので」
竜の貴重な資料を読ませてもらったのだ。
その技術を使って製作するのだから、当然その成果は共有すべきだろう。
フィリーの研究室にはミルカがいた。
「先生! 見学させておくれ!」
「構わぬぞ。ロックさんはどう思う?」
「もちろん構わない」
「やったー」
ミルカも魔道具製作に興味があるらしい。
とはいえ、素人が見てわかるようなものではない。
雰囲気だけでも感じてもらえればいいだろう。
これで興味を持って、その道に進むのなら、それはそれで素晴らしいことだ。
まずはフィリーが基本構成を図面に起こしてくれた。
「ロック意見をくれ」
「わかった」
フィリーの図面はかなり精巧だった。必要な魔法陣なども同時に提案された。
それに対して、俺は魔法側の理論を説明して提案していく。
「それなら、こういう魔法陣の方がいいのでは?」
「なるほど。そういうことなら、フィリーは……」
話し合いは、思いのほか楽しかった。
良い魔道具が出来そうだ。
しばらく話し合った末、フィリーが宣言する。
「よし、これで決まりである!」
「わーわー」
ミルカが嬉しそうにはしゃいでいた。
俺はドルゴに尋ねる。
「ドルゴさんはどう思われました?」
「成功すれば素晴らしいかと」
少し含むところがありそうな言い方だ。
ケーテが真面目な顔で言う。
「本当にできるとは思えないのである」
「失敗したら、また新たに考えればいいだけだ」
「それもそうであるな」
どうやら、ケーテとドルゴはうまくいかないと思っているようだ。
フィリーの使う予定の手法は、錬金術の得意な風竜族からみても難しいらしい。
「まあ、風竜王陛下の懸念もわかるのである。今はただ見ていて欲しい」
フィリーは自信があるようだ。
俺たちが注視する中、フィリーは魔道具の製作に入る。素材の精製からだ。
オリハルコンやミスリル。魔石や少量の賢者の石などを用いて進める。
俺も製作の途中でタイミングよく魔法を行使する。
的確に魔法陣を刻むのだ。
小一時間かけて、魔道具が完成した。
「初めてにしては、中々息の合った素晴らしい出来ではないか?」
「そうだな。試作品にしてはいい出来だ」
俺とフィリーが休憩がてら会話していると、ケーテがわなわな震える。
「ロ、ロック、それにフィリーよ……。見せてもらっても、いや、触ってもよいであろうか?」
「好きに見てくれ。ただの試作品だ」
ケーテとドルゴが魔道具を穴が開くほど見つめはじめた。
その横で俺たちは相談を始める。
「もう少し、この個所を……」
「確かに。改良の余地があるな」
実際に作ってみて初めて分かることもある。
魔道具を調べていたドルゴが少しショックを受けていた。
「なんという……。我らが作った魔道具より素晴らしい出来です」
「お世辞でもうれしいです」
「お世辞ではありません。良いものを見せていただきました。そのような手法が可能だったのですね」
「勉強になったのである。ありがとう」
ドルゴとケーテにお礼を言われてしまった。
恐らくお世辞だろうが、錬金術を得意とする風竜族に褒められると嬉しいものだ。
俺とフィリーは本製作に入る。
再度、小一時間かけた。今度は満足のいくものができたと思う。
完成した魔道具は腕輪形式だ。
身につけると体内の魔法回路に作用して、精神抵抗が向上する。
「これを身につければ、ヴァンパイアハイロードの魅了も容易には通じまい」
「うむ、満足のいく品ができた」
これをセルリスに渡せば安心だ。
そんなことを考えているとフィリーが言う。
「さて……。作っている最中に考えたのだが……この部分を簡略化して、素材も安価なものに代えれば……」
「量産化か」
「大量生産というほどは無理だが、一個中隊や大隊程度に配る程度なら……可能ではないか?」
簡略化した分能力は落ちる。それでもロードの魅了にはあらがえるだろう。
もし量産化できれば、兵士や騎士、冒険者に配ることができる。
それを聞いていたドルゴが、少し考えて口を開く。
「それなら……」
さすがは錬金術が得意な風竜族の先王。
品質をあまり落とさず作りやすくする技法を提案してくれた。
ケーテとミルカは、その横でずっと「ふんふん」言っていた。
フィリーが考えながら言う。
「それならば、もっと大量のミスリルが欲しいな。出来れば魔石も……」
「わかった。何とかしよう」
もし量産化できれば、昏き者どもとの戦いを有利に進めることが出来るだろう。