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199 狼の獣人族の宴会

 最年長の族長がケーテにも気づく。


「こ、これは風竜王陛下! ロックどのだけではなく、陛下にもご来臨たまわり光栄の至りでございます」

 それを聞いて、他の族長たちもケーテに気づいた。

 慌てた様子でひざをついて、頭を下げる。


「そう畏まらなくてもよいのである! 今日は遊びに来ただけであるから、普通に接してほしいのだ!」

「いえ、そういうわけには……」

「我は今日羽を伸ばしに来たのである。畏まられては逆に困ってしまうのだ」


 俺も一応フォローしておく。

「風竜王陛下は連日の激務でお疲れですから、肩の力を抜きたいと仰せなのですよ」


 ケーテは激務というほどではないはずだが、激務ということにしておこう。

 ケーテはうんうんと頷いた。


「我は激務ゆえなー」

「そういうことでしたら……」


 やっと族長たちは立ち上がる。

 ケーテは畏まられるのはあまり好きではないので、嬉しそうだった。



 それから族長たちが歓迎の宴会を開いてくれた。

 その中で、狼の獣人族について、俺は尋ねる。


「どのくらいの部族数があるんですか?」


 年長の族長が答えてくれた。


「大きく分けて十二になります」

「大きく分けてというのは?」

「説明がわかりにくいのですが、十二以外に例外的な小さな部族もあるのです」

 この辺りの狼の獣人族は基本十二部族の一員なのは確からしい。


「もっとも最近の例外はシア・ウルコットですね」

「シアが?」


 とても意外だ。シアはダントンの部族の一員のはずだ。

 俺は末席の方に座っているシアをちらりと見た。

 シアは周囲の族長たちとにこやかに話している。


「シアはなにか問題でも起こしたのでしょうか?」

「いえいえ、そういうことでありません」


 俺がこちらに帰ってきて最初のハイロード討伐の際。

 十二部族の族長はそれぞれ騎士の爵位を与えられた。

 そして、シアもまた、特別にダントンとは別に騎士の爵位を与えられている。


「それゆえ、シア・ウルコットは一人ながら、族長として扱われているのです」

「なるほど……そういうシステムなのですね」


 とはいえ、シアはダントンの一族に所属してもいるらしい。

 つまりダントン一族には族長待遇が二人いるということになる。

 分家の当主みたいなものなのだろうか。


 俺の隣に座っていたセルリスが真面目な顔で言う。


「シアも大変なのね」

「そうだな。族長だから責任も大きそうだ」

「族長の責務。大変そうです」


 シアと同じく、一人族長になる予定のルッチラも言う。

 ルッチラは正式に継承はしていないが、唯一の生き残りなので族長になる予定だ。

 色々と思うところがあるのだろう。


 セルリスとルッチラは客人なので俺やケーテ一緒に上座の方に座っているのだ。

 当然ゲルベルガさまは神様なので、上座である。

 ガルヴも客人として扱われている。狼の獣人族にとって特別な狼の霊獣だからだ。


 宴会が終わると、セルリスとルッチラ、ケーテはシアたちのところに行った。

 族長たちに接待されているより、親しい者同士話したいのだろう。


 俺もゲルベルガさまとガルヴと遊ぼうとしていたら、年長の族長から呼び止められた。


「ロックさん、少しよろしいですか?」

「どうされました?」

「じつは……ご相談があるのです」

「わかりました」


 俺と年長の族長、そしてゲルベルガさまとガルヴは別室に移動する。

 部屋の中では、シアたちの父であるダントンが待っていた。


「ロック、折角寛いでいたところ、すまないな」

「いや気にしないでくれ。ガルヴとゲルベルガさまと遊ぼうと思っていただけだからな」

「ははは」

 年長の族長は笑った。俺の言葉を冗談だと思ったのだろう。


 俺が椅子に座ると、

「こ」

 ゲルベルガさまはひざの上にちょこんと乗る。ガルヴも俺のひざにあごを乗せた。

 ゲルベルガさまとガルヴを撫でながら、俺は尋ねる。


「相談とはいったい?」

 ダントンと年長の族長は互いに顔を見合わせる。

 そして、ダントンが語りはじめた。


「ロック。身内の恥をさらすようなのだが……。我らから情報が洩れている恐れがあるんだ」

「…………ほう」


 エリックも同じ可能性を指摘していた。

 ダントンたちも、狼の獣人族から情報が洩れている可能性に気が付いていたようだ。


 年長の族長が言う。


「もちろん我らから内通者が出るとは考えたくはありません」

「つまり、出入りの業者などを警戒しているということですか?」

「さすがはロックさんです。まったくもってその通りです」


 別に俺はすごくはない。

 エリックやゴランが言っていたことだ。


「我らはヴァンパイアそのものや眷属は一目でわかります。ですが魅了にかけられたものは区別できないのです」

「私に相談するということは、魅了にかけられたものがいないか調べて欲しいということですね?」

「いえ! とんでもないことです。偉大なる英雄にそのような雑事を頼むわけには参りません!」


 少し笑って、ダントンが言う。

「ロック、違うんだ。俺たちは魔導士に詳しくない。だから信用できる魔導士を紹介してほしいと思ったんだ」

「そうか。そういうことなら、俺がやろう」


 俺がそういうと、年長の族長とダントンは少し驚いたようだった。

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