最年長の族長がケーテにも気づく。
「こ、これは風竜王陛下! ロックどのだけではなく、陛下にもご来臨たまわり光栄の至りでございます」
それを聞いて、他の族長たちもケーテに気づいた。
慌てた様子でひざをついて、頭を下げる。
「そう畏まらなくてもよいのである! 今日は遊びに来ただけであるから、普通に接してほしいのだ!」
「いえ、そういうわけには……」
「我は今日羽を伸ばしに来たのである。畏まられては逆に困ってしまうのだ」
俺も一応フォローしておく。
「風竜王陛下は連日の激務でお疲れですから、肩の力を抜きたいと仰せなのですよ」
ケーテは激務というほどではないはずだが、激務ということにしておこう。
ケーテはうんうんと頷いた。
「我は激務ゆえなー」
「そういうことでしたら……」
やっと族長たちは立ち上がる。
ケーテは畏まられるのはあまり好きではないので、嬉しそうだった。
それから族長たちが歓迎の宴会を開いてくれた。
その中で、狼の獣人族について、俺は尋ねる。
「どのくらいの部族数があるんですか?」
年長の族長が答えてくれた。
「大きく分けて十二になります」
「大きく分けてというのは?」
「説明がわかりにくいのですが、十二以外に例外的な小さな部族もあるのです」
この辺りの狼の獣人族は基本十二部族の一員なのは確からしい。
「もっとも最近の例外はシア・ウルコットですね」
「シアが?」
とても意外だ。シアはダントンの部族の一員のはずだ。
俺は末席の方に座っているシアをちらりと見た。
シアは周囲の族長たちとにこやかに話している。
「シアはなにか問題でも起こしたのでしょうか?」
「いえいえ、そういうことでありません」
俺がこちらに帰ってきて最初のハイロード討伐の際。
十二部族の族長はそれぞれ騎士の爵位を与えられた。
そして、シアもまた、特別にダントンとは別に騎士の爵位を与えられている。
「それゆえ、シア・ウルコットは一人ながら、族長として扱われているのです」
「なるほど……そういうシステムなのですね」
とはいえ、シアはダントンの一族に所属してもいるらしい。
つまりダントン一族には族長待遇が二人いるということになる。
分家の当主みたいなものなのだろうか。
俺の隣に座っていたセルリスが真面目な顔で言う。
「シアも大変なのね」
「そうだな。族長だから責任も大きそうだ」
「族長の責務。大変そうです」
シアと同じく、一人族長になる予定のルッチラも言う。
ルッチラは正式に継承はしていないが、唯一の生き残りなので族長になる予定だ。
色々と思うところがあるのだろう。
セルリスとルッチラは客人なので俺やケーテ一緒に上座の方に座っているのだ。
当然ゲルベルガさまは神様なので、上座である。
ガルヴも客人として扱われている。狼の獣人族にとって特別な狼の霊獣だからだ。
宴会が終わると、セルリスとルッチラ、ケーテはシアたちのところに行った。
族長たちに接待されているより、親しい者同士話したいのだろう。
俺もゲルベルガさまとガルヴと遊ぼうとしていたら、年長の族長から呼び止められた。
「ロックさん、少しよろしいですか?」
「どうされました?」
「じつは……ご相談があるのです」
「わかりました」
俺と年長の族長、そしてゲルベルガさまとガルヴは別室に移動する。
部屋の中では、シアたちの父であるダントンが待っていた。
「ロック、折角寛いでいたところ、すまないな」
「いや気にしないでくれ。ガルヴとゲルベルガさまと遊ぼうと思っていただけだからな」
「ははは」
年長の族長は笑った。俺の言葉を冗談だと思ったのだろう。
俺が椅子に座ると、
「こ」
ゲルベルガさまはひざの上にちょこんと乗る。ガルヴも俺のひざにあごを乗せた。
ゲルベルガさまとガルヴを撫でながら、俺は尋ねる。
「相談とはいったい?」
ダントンと年長の族長は互いに顔を見合わせる。
そして、ダントンが語りはじめた。
「ロック。身内の恥をさらすようなのだが……。我らから情報が洩れている恐れがあるんだ」
「…………ほう」
エリックも同じ可能性を指摘していた。
ダントンたちも、狼の獣人族から情報が洩れている可能性に気が付いていたようだ。
年長の族長が言う。
「もちろん我らから内通者が出るとは考えたくはありません」
「つまり、出入りの業者などを警戒しているということですか?」
「さすがはロックさんです。まったくもってその通りです」
別に俺はすごくはない。
エリックやゴランが言っていたことだ。
「我らはヴァンパイアそのものや眷属は一目でわかります。ですが魅了にかけられたものは区別できないのです」
「私に相談するということは、魅了にかけられたものがいないか調べて欲しいということですね?」
「いえ! とんでもないことです。偉大なる英雄にそのような雑事を頼むわけには参りません!」
少し笑って、ダントンが言う。
「ロック、違うんだ。俺たちは魔導士に詳しくない。だから信用できる魔導士を紹介してほしいと思ったんだ」
「そうか。そういうことなら、俺がやろう」
俺がそういうと、年長の族長とダントンは少し驚いたようだった。