シアが笑いながら言う。
「実際に屋敷がヴァンパイアの戦いの場になったことはないでありますけどね」
「そのほうがいい」
俺がそういうと、ダントンがうなずく。
「狼の獣人族の族長の屋敷にまで侵入されるってときはかなりやばい状況だからな」
「そうならないために頑張らないとですね!」
ニアも笑顔でそう言った。
「あ、そうだ。お土産を渡すのを忘れていた」
「おお、気にしなくていいのに」
俺は遠慮するダントンにお土産を渡す。
「つまらないものなのだが……。量だけはたくさん用意した」
「こ、これは! 王都の有名店のじゃないか! ありがたい!」
「わぁ!」「やったー」
ダントンとその屋敷にいた子供たちが大喜びしてくれた。
ただのお菓子なのに、これほど喜んでもらえるとは。
持ってきた甲斐があるというものだ。
ところで、この子供たちは誰だろうか。シアとニアの弟妹だろうか。
ふと疑問に思っていると、ダントンが教えてくれた。
「こいつらは俺の子供ってわけではないが、うちの屋敷で育てている一族の子供たちだ」
「そうなのか。徒弟みたいなもんか?」
「それに近いな。狼の獣人族は、子供を一族で育てるのが基本だからな」
そんなことを話していると、ケーテが前に出る。
「我からもお土産があるのである」
「陛下、そんなお気を使わないでください」
ダントンは恐縮する。ケーテは風竜王なので、とても偉いのだ。
「せっかくだから、受け取ってほしいのである」
そういって、ケーテは魔法の鞄から謎の石像を取り出した。
昨日、あれから彫刻したのだろう。非常にクオリティが高かった。
ケーテは彫刻が得意なようだ。ものすごい美男子の像だ。
だが、誰の石像かわからない。あえていうならエリックに少し似ている。
「こ、これは! ありがとうございます! 一族の宝にいたします」
「ココッ! ココゥ!」
ダントンはものすごく喜んでいる。なぜかゲルベルガさまも興奮していた。
ケーテは満足げにうなずく。
「うむうむ。喜んでもらえて嬉しいのである」
「ケーテ、ところで、なんの像なんだ?」
「む? 見てわかるであろう? もちろん英雄ラックの像である」
ドヤ顔でケーテは言う。
王都の中央広場にある石像よりイケメンだ。
「……さすがに似てなくないか?」
「む? そんなことないのである。我の自信作であるぞ?」
「コウ! ココゥ!」
ゲルベルガさまは、ルッチラに抱えられたまま嬉しそうに羽をバタバタさせていた。
ケーテはやっと人とゴブリンの区別がつくようになったばかりだ。
実像とかけ離れた像を作ったとしても仕方がないのかもしれない。
「すげー」「かっこいい!」
「ケーテねーちゃん、すごいね!」
「うん、すごいねー。ケーテさん上手だね」
狼獣人の子供たちも喜んでる。ニアも嬉しそうに子供たちの頭を撫でる。
「まあ、いいか」
この像を見て、俺と同一人物だと気づくものはいないだろう。
一応、俺は正体を隠している。
だから、実像とかけ離れているぐらいでちょうどいいのかもしれない。
気を取り直して、俺は最も重要なお土産をダントンに渡す。
「それと、これは水竜のリーア王太女殿下からだ」
「なんと! 殿下から?」
「水竜の里の水だそうだ。怪我にいいらしいので飲むといい。それに水竜の里で採れた魚もいただいた」
「これはありがたい! 頂戴しよう。……頼む。丁重に運んでくれ」
「かしこまりました」
若い男の獣人が沢山の魚と、水の入った壺を台所へと運んでいった。
「ぼくも手伝うよー」「うんうん!」
獣人の子供たちが男の手伝いをして一緒に運ぶ。
「父ちゃん、よかったでありますねー」
「リーアちゃんにお礼言わないとね!」
「ああ、というか、ニア、殿下のことを、ちゃん付けで呼んでいるのか?」
「うん、友達だから」
「そうか……。そういうものなのか」
そして、ダントンは俺の方を見る。
「ニアはこう言っているが……ほんとうに大丈夫だろうか? 無礼ではないか?」
「リーア自身が喜んでいるからいいだろう。むしろニアから殿下とか呼ばれたらリーアは悲しむぞ」
「それならいいのだが……。我が娘ながら、殿下と友達になるとは……。恐れを知らないというかなんというか」
それを聞いていたシアが呆れたように言う。
「父ちゃんは何を言っているでありますか。ニアはロックさんの徒弟でありますよ」
「……確かにロックの徒弟と考えたら、殿下と友達になっていても違和感がないな」
ダントンはなぜか納得したようだった。
それから俺たちは部屋へと案内してもらった。
ダントンの家には沢山若い衆がいるようで、荷物などを全部運んでくれる。
部屋に荷物を置いた後、応接室へと向かう。
そこには、狼の獣人族の族長たちが集まっていた。
「もしかして今日は会議だったのか?」
そうだったのなら、申し訳ないことをした。
忙しいときにお邪魔してしまったのなら、挨拶だけして部屋に戻った方がよいだろう。
「いやいや、違うぞ。ロックが遊びに来るって聞いて集まっただけだ」
そういって、ダントンは笑う。
族長たちは立ち上がり、俺たちの前に集まる。
とりあえず俺は頭を下げた。
「先日はどうもありがとうございました」
「ロックさんに、ご来訪いただき感謝の念に堪えません」
族長たちは本当に嬉しそうに微笑んだ。