お風呂からあがって、自分の体を拭く前にゲルベルガさまとガルヴを拭く。
「ゲルベルガさまは、ぶるぶる出来ないから、ガルヴは少し待ってくれ」
「がう」
ブルブルしたあとのガルヴにタオルをかけてやり、俺はゲルベルガさまを拭いた。
「こっこ」
「ゲルベルガさまはどのくらい拭けばいいんだ?」
風邪をひいたら大変だ。丁寧に拭いていく。
「がーうがう」
一方、ガルヴは掛けてやったタオルを床に落とすとその上にあおむけで寝転がる。
そして、体を動かしてタオルにこすりつけた。自分で拭いているのだろう。
「ガルヴは器用だな」
「がう!」
ガルヴは嬉しそうに尻尾を振った。
そこにダントンが風呂から上がってくる。
「お、ガルヴ、俺が拭いてやろう」
「すまない」「がう」
「なに、気にするな」
ダントンがガルヴを拭いてくれた。ダントンの手際はとてもよい。
「ダントンは拭くのがうまいな」
「まあ、シアとニアが小さいころ、さんざん拭いたからな」
「なるほど。そういうものか」
狼の獣人族にとって、霊獣狼のガルヴは親戚のようなもの。
子供も霊獣狼も扱いが似ているのかもしれない。
「ロックは子供を作らないのか?」
「まあ、相手がな」
「紹介しようか? ロックの種なら欲しがるものはたくさんいる」
結婚制度のない狼の獣人族らしい発想だ。
只人の風習としては社会的制度的に、子づくりの前にすることが沢山ある。
だが、狼の獣人族にとって、子を作るというのは純粋な子づくりを意味するのだ。
どちらが正式の親になるかなどは、あまりこだわらないようだ。
「気持ちはありがたいが……。まだちょっとな」
まだ、子供を作る気にはならない。昏き者どもとの戦いも激しさを増しているのだ。
そんなことを説明した。
風呂から出てきて、隣で体を拭いていた年長の族長が言う。
「戦いが激しさをますからこそ、子孫は残すべきでしょう」
「そういうものですか?」
「そういうものですよ。いつ死んでもいいように、子供は作っておかないと」
子は部族全体で育てるのが狼の獣人族だ。
自分が死んでも子供はちゃんと育ててもらえる。そう信頼しているのだろう。
狼の獣人族はヴァンパイア狩りを生業としている。
そのため激しい戦いで、いつ死ぬかわからないと覚悟しているのだ。
だからこそ、親が死んでもちゃんと子供が育つシステムが作られているのだろう。
違う風習を持つ種族と交流することは、とても勉強になる。
男の族長たちと一緒に風呂から上がって食堂に行くと、すでに酒盛りが始まっていた。
俺がダントン達と会議している間に女の族長たちは先に風呂に入っていたのだ。
「ロックさん。お先に始めさせてもらっていますよ」
「ロックもこっちに来て飲むのである!」
ケーテも楽しそうにお酒を飲んでいた。
「ケーテ、あまり飲みすぎるなよ」
「わかっているのである」
本来の姿は巨大なケーテのことだ。恐らくいくら飲んでも酔わないのかもしれない。
「ロックさん、お風呂はどうでありましたか?」
一応女の族長の末席に名を連ねるシアが立ち上がって、こっちに走ってきた。
尻尾が元気に揺れていた。
シアだけでなく、セルリス、ルッチラ、ニアも食堂にいる。
子供たちと一緒に、俺のお土産のお菓子を食べているようだ。
「セルリスたちは酒盛りか?」
「いやいや、セルリスたちも、あたしも飲んでいるのはジュースでありますよ」
「そうか。それがいい」
成長期のものたちはお酒はまだ飲まないほうがいい。
俺に気づいた子供たちが走ってくる。
「ロックさん、お菓子ありがとう」
「おお、おいしいか?」
「うん!」
美味しいならなによりだ。
「がうがーう!」
ガルヴは子供たちのにおいをかいで、ぺろぺろ舐める。
遊んでもらおうと思っているのだろう。
「ガルヴちゃんもお菓子食べる?」
「がうー」
ガルヴもお菓子をもらって、嬉しそうだ。
一方、俺は肩の上にゲルベルガさまを乗せたまま、ケーテの隣に座る。
「まあ、ロック、とりあえず飲むのである」
「ありがとう」
ケーテが俺の盃に酒を注いでくれた。
よく見ると、食堂の奥にケーテの作った俺の像が飾られている。
「ケーテの作った像、目立つな」
「なかなかの自信作なのである」
「……そうか」
ダントンが言う。
「あとで、他の宝物と一緒に族長の間に飾りなおす予定だ」
「……なるほど」
恥ずかしいが仕方がない。
風竜王お手製の石像という時点で、歴史的価値があるのは間違いない。
それが誰の像であってもだ。
だから、ダントンが一族の宝とするのも当然といえる。
それから族長たちとお酒を飲みながらお話しをする。
ほぼ雑談かつ世間話だ。
しばらくすると、シアが子供たちに向けて言う。
「子供たちはそろそろ寝る時間でありますよー」
「えーーまだ眠くないよー」「がうがーう」
「我がまま言っていると、ロックさんみたいに強くなれないでありますよ」
「……わかった」「……がーぅ」
シアたちが子供たちを連れて食堂を出ていく。
「おやすみなさい!」
「おう、おやすみ」
子供たちは出る直前に挨拶をしてくれた。
「がーう」
ガルヴは残って、俺のひざにあごを乗せる。
「ガルヴは寝なくていいのか?」
「がう」
ガルヴはまだ寝ないつもりらしい。
廊下の方から、
「おねえちゃんと一緒に歯を磨いて寝ましょうねー」
セルリスのとても嬉しそうな声が聞こえた。