子供たちが眠ってからは、少し真面目な話などもする。
ヴァンパイアの動きやその対策などについてだ。
そのながれで、女族長の砦も魔法で強化する許可をもらうことが出来た。
強化が完了すれば、狼の獣人族全体の防衛力が上がることだろう。
その後、夜更けまで酒盛りを続けた。
「……ここ」
するとゲルベルガさまが眠そうにしはじめた。うつらうつらしている。
「ゲルベルガさま、眠いのか?」
「こぅ!」
ゲルベルガさまは、俺の肩の上でばさばさと羽を動かした。
まだ起きていられるとアピールしているのだろう。だが、どう考えても眠そうだ。
けしてニワトリではないゲルベルガさまだが、生態はニワトリに似ている。
だから朝が早いのだろう。
「くふー」
一方、ガルヴは俺のひざにあごを乗せたまま、眠っていた。
「ガルヴも眠そうというか、もう眠っているな」
俺は族長たちに挨拶をして、用意された部屋に向かうことにした。
「ガルヴ、部屋に戻るぞ」
「がう?」
ゆすって起こしたら一瞬目を開けて、また目をつぶった。
ガルヴは大きいので、抱きかかえて部屋に向かうのは大変だ。
「ほら、ガルヴ。おいてくぞ」
「……がーう」
眠そうにしながらやっと起きる。ふにゃふにゃしながら、ついてきた。
子供だから、眠いのだろう。
「ほら、ガルヴ、部屋についたぞ」
「……がぅ」
ガルヴは眠そうにベッドに入り込む。灯りを暗くして、俺もすぐにベッドに入る。
いつもはルッチラと眠っているゲルベルガさまも今日は俺と一緒だ。
「ゲルベルガさま。どこがいい?」
どことは、ベッドの枕元か足元か、左側か右側か、掛け布団の中か、外か。
好みをゲルベルガさまに聞いておこうと思ったのだ。
「ここぅ」
ゲルベルガさまは俺の枕の横に座る。そして首を縮めて目をつむった。
ニワトリは高いところで眠りたがるが、ゲルベルガさまはそうでもないらしい。
神鶏だからかもしれない。
「がーう」
ベッドに横たわる俺のお腹の上にガルヴが顎を乗せてきた。
優しく頭を撫でてやる。すぐにガルヴは寝息をたてはじめた。
枕元にいるゲルベルガさまも俺に体を寄せてきた。
俺はゲルベルガさまとガルヴを優しく撫でながら眠りについた。
次の日の朝。朝ごはんを食べた後、獣人族の子供がやってきた。
「ロックさん。お願いがあるのですが……」
「どうした?」
「俺に稽古をつけてください」
子供と言っても、シアとニアの間ぐらいの年齢だ。
狼の獣人族なので、もう冒険者として活動し始めているだろう。
横で聞いていた、ダントンが言う。
「お客人にご迷惑だろう。遠慮しなさい」
「はい。……申し訳ありません」
子供はしょんぼりしている。
「いや、いいぞ。屋敷に魔法防御をかけるまで準備がいるし、それまでは暇だからな」
「我が水竜の集落に出かけてアポイントをとって来るのを待つのであるぞ」
朝ごはんをまだ食べていたケーテが言う。
ケーテはたくさん食べるので、食事に時間がかかるのだ。
屋敷にかける魔法防御は、水竜に協力してもらうつもりだ。
ケーテがアポイントを取って、都合のいい日を聞き、俺が出向き教えてもらう予定だ。
それまで俺は結構暇なのだ。
「本当によろしいのですか?」
「ああ、構わない。ニアとも稽古するつもりだったからな。他にも稽古したいものがいれば連れてきなさい」
「ありがとうございます!」
子供はとても嬉しそうにする。
子供が走り去った後、ダントンが改めて言う。
「ロック、本当にいいのか?」
「ああ、気にするな」
その後、ケーテは水竜の集落に向かった。
そして、俺たちは屋敷の外に向かう。
セルリス、シア、ニア、子供たちとルッチラ、ゲルベルガさまとガルヴも一緒だ。
族長も数人ついてくる。稽古を見学させてくれと言われたので断る理由はない。
俺は獣人族の子供たちに向けて言う。
「とりあえず、どのくらいの腕かみたいから、全力でかかってきなさい」
「はい!」
俺はゲルベルガさまを肩に乗せたまま、年長の子供から順番に相手をした。
子供たちは全く手加減なしで、かかってくる。
さすがに冒険者として活動を開始しているだけのことはある。
自分と俺の力量差が手加減しなくてもいいレベルだと理解できているのだ。
子供たちを相手にした後、ニア、シア、セルリスも相手する。
それが終わるとまた、子供たちを相手にする。
二巡したあと、俺はルッチラに言う。
「ルッチラ。頼みがあるのだが」
「はい。何でも言ってください」
それまでルッチラは真剣な目で稽古を見ていた。
「稽古のために幻術を頼む」
「はい。なんの幻を出しますか?」
「そうだな……。とりあえずレッサーヴァンパイアで頼む」
「了解しました!」
ルッチラはヴァンパイアロードとの戦闘経験はない。
だが、レッサーヴァンパイアやアークヴァンパイアとは何度か戦っている。
精度の高い幻術が期待できるはずだ。