次の日から魔道具の作成を開始することになった。
朝食とガルヴの散歩の後、ダントンの屋敷の一室に、俺、モルス、ケーテが集まる。
助手としてルッチラも来てくれている。ガルヴとゲルベルガさまは見学だ。
一方、シア、ニア、セルリスは、子供たちと一緒に外で訓練をしている。
張り切った様子でケーテが言う。
「さて、なにから始めるのであるか?」
「うん、その前にだな……」
俺はずっと気になっていたことをケーテに尋ねた。
「あの。ドルゴさんは?」
錬金術が得意な風竜族。その代表はケーテの父ドルゴにお願いしていたはずだ。
だが、ケーテはあっさりと何でもないことのように言った。
「む? 父ちゃんは来ないのだぞ?」
「え? 風竜族の協力も頼みたいのだが……」
錬金術の助けなしで、目的の魔道具を作るのは難しい。
ドルゴの協力が得られないなら、フィリーに頼むしかないかもしれない。
とはいえ、フィリーは忙しいので無理させたくない。
フィリーはまだ成長期。たくさん寝なければならない年頃だ。
そんなことを考えていると、ケーテは堂々と胸を張る。
「我に任せるのだぞ!」
ケーテの尻尾が楽しそうにゆっくり上下に揺れていた。
ケーテには自信があるようだ。だが俺は不安を覚えた。
「えっと……。大丈夫なのか?」
「何がであるか?」
「かなり高度な錬金術の技術が必要になると思うが……」
高度な技術をケーテが持っているとはあまり思えない。
そんな印象がある。
「ふっふっふ。我も練習しているから大丈夫である」
「そうなのか。……ところで、ドルゴさんは今何を?」
ドルゴが多忙ではないのなら、ドルゴにも頼みたい。そう思って俺は尋ねた。
「父ちゃんは今は水竜の集落である」
「ほう?」
「モルスの抜けた穴を埋めようってことで、父ちゃんが向かったのである」
「それは、安心だが……」
「父ちゃんは我に任せると言っていたのだ」
昨日、ケーテが水竜の集落は大丈夫と言っていた。
その理由はドルゴが水竜の集落にいるからだったのだろう。
水竜の集落の防衛は大切だから仕方がない。
とはいえ、ケーテとドルゴの役割を逆にした方がいいのでは? と思わなくもない。
ケーテなら、水竜の集落の戦力強化の任を充分に果たせるだろう。
「そうか。ドルゴがケーテに任せると言っていたのか」
「そうなのである!」
ドルゴがケーテに任せるといったのなら、おそらく大丈夫なのだろう。
ケーテの錬金術の腕前を信じるしかない。
万が一、ケーテの錬金術が役立たなかったら、ドルゴとケーテに交代してもらおう。
「さてさて、始めるのである」
「勉強させていただきます」
ケーテもモルスもやる気充分なようだ。
俺はうなずいて、魔道具の目的から改めて説明していく。
「魅了をかけられたものを素早く触れずにチェックできる魔道具を作りたい」
「はい」
「眷属はいいのであるか?」
「狼の獣人族にとって、眷属は一目でわかるからな」
「なるほどー。確かにそうであるな」
真面目な顔で考えていたモルスが言う。
「ですが、眷属も判別できるのならば、エリック国王陛下の王宮でも役立てられることになるのではないでしょうか」
「たしかに。そうであるな!」
ケーテがうんうんとうなずく。
「そうだな、モルスの言うとおりだ。もし、可能なら眷属も判別できるようにしようか」
「了解いたしました!」
ケーテが魔法の鞄から、素材を出しながら言う。
「材料はミスリルでよいであるな?」
「材料まで用意してくれたのか?」
ダントン邸の魔道具に関しては、俺の鞄に入っているミスリルを使うつもりだった。
その後に設置するほかの族長の屋敷の魔道具は改めて買えばよい。
「ケーテが用意したのではないのである。リーアがくれたのだ」
「そうだったのか」
リーアがくれたということは、つまり水竜からの贈り物だ。恩返しの一環なのだろう。
あとで、族長たちにリーアからもらったと報告しておかねばなるまい。
それから俺たちは細かな仕様を話し合う。
予想通り水竜のモルスは結界に造詣が深かった。
そして、予想に反して、ケーテも錬金術に詳しいようだった。
「ケーテ、詳しいな」
「がっはっは。当たり前なのである。いっぱい勉強したのであるぞ」
ケーテが言うには、相当ドルゴにしごかれたらしい。
フィリーに錬金術の技量で後れを取ったことがショックだったのだろう。
「それにしても上達が早いな」
「ふっふっふ。竜ゆえなー」
竜は読書スピードが速い。そもそも頭の回転が一般的な人族よりもとても速い。
まじめに努力すれば、成長も早いのだろう。
意外とケーテが活躍してくれたこともあり、魔道具作りは順調に進んだ。