朝食後から魔道具作りを開始して、完成品一号ができたのはおやつの時間の前だった。
予定していたよりもずっと早い。
完成を見届けて、ケーテが大きく伸びをする。尻尾が緩やかに上下に揺れた。
「うーん! いい感じにできたのである」
「そうだな。ケーテとモルスのおかげだ」
俺がそういうと、モルスが丁寧に頭を下げる。
モルスの尻尾も緩やかに上下に揺れている。
「ありがとうございます。勉強させていただきました」
「ケーテも役に立ててよかったのである」
「がうがう!」
それまで部屋の隅で眠っていたガルヴが起きてきて尻尾を振る。
ガルヴなりに邪魔をしないように気を遣っていたのだろう。
「ガルヴも大人しくしていて偉かったぞ」
「がうーっがう」
ぴょんぴょん飛び跳ねている。
それなりに広い部屋だが、ガルヴが飛び跳ねるには狭すぎる。
「あとで散歩に連れて行ってやるから、落ち着きなさい」
「がーう!」
俺はガルヴを落ち着かせて背中を撫でながら、ルッチラにも目を向ける。
ルッチラは助手としてテキパキ手伝ってくれていた。
「ルッチラもありがとうな」
「いえ、ぼくはあまりお役に立てなくて……」
「そんなことはない。助かった」
「ココッ!」
ゲルベルガさまはルッチラの肩にぴょんと飛び乗り、羽で頭をふぁさふぁさする。
よくやったと褒めているようだ。
ケーテがルッチラの頭を撫でながら言う。
「ルッチラも錬金術に詳しいのであるなー。大したものなのである」
「いえ、ぼくなんて、まだまだです!」
「いや、確かにルッチラの知識は役に立った」
ルッチラは最近はフィリーの助手をしている。だから錬金術も勉強しているのだ。
魔法と錬金術を両方使えるようになるのかもしれない。
戦闘には魔法の方が役に立つ。だが、金になるのは錬金術だ。
ルッチラは将来、族長になって一族を復興させるのだ。
それには当然金がかかる。錬金術も学んでおいて損はないだろう。
俺はルッチラに魔道具を手渡した。
魔道具は金属でできていて、ゲルベルガさまより一回り小さいぐらいの大きさだ。
「ルッチラ。試しに起動してくれ」
「わかりました!」
——ブォン
起動と同時に、一瞬だけ低い音が鳴る。
これで、魔道具を中心として、人の身長の五倍ほどを半径とする球が影響下に入る。
この中に昏き者どもが入ると、鈴のような音が鳴るようになっているのだ。
「魅了された者だけ察知するより、昏き者全部まとめて引っかかるようにした方が簡単なのであるなー」
「はい。意外でした。勉強になります」
最初は魅了された者を察知する魔道具にしようとした。
だが、選別するのが想定よりもずっと大変だった。
それゆえ、まとめて察知することにしたのだ。
「まあ、魅了された者も察知できるから問題ないのである」
「そうだな。眷属やレッサーヴァンパイアも、中に入れていいわけがないからな」
「そうですね」
そんなことを話していると、ケーテのお腹がぐぅっと鳴った。
「ついつい、魔道具作りに熱中してしまったのである。お腹がすいたのだ」
「そうだな。お願いして、ご飯を食べさせてもらおうか」
「うむ!」「がう!」「ここっ」
ケーテ、ガルヴ、ゲルベルガさまが、嬉しそうに返事をする。
そして、俺たちは魔道具製作用の部屋を出た。
すると、部屋の外で待っていた若い狼の獣人が急いでかけてくる。
「ロックさん。みなさん。作業は終わられましたか?」
「はい、おかげさまで」
「うむ、疲れたのだ」
「それでは、すぐにお食事をご用意いたしますので、食堂でお待ちください。それとも持ってきた方がよいでしょうか?」
「いや、食堂でいただきます。ありがとう」
邪魔をしないよう食事ができても知らせずに、外で待っていてくれたのだ。
魔導士はどうしても熱中すると寝食を忘れる傾向がある。
「みんなと一緒に食事をとれなくてすまない。手間をかけさせた」
「いえ、お気になさらないでください!」
若い獣人は笑顔で返事をしてくれる。
ケーテがそんな若い獣人に向かって言う。
「おぬしは、ちゃんとご飯食べたか?」
「まだですが、気になさらないでください。私たちは数日食べなくても大丈夫なので!」
「むむ。それは迷惑をかけたのである。一緒に食べよう」
「い、いえ! そんな! 勿体ないことでございます」
恐縮する若い獣人にモルスが言う。
「気にしないで大丈夫ですよ。せっかくですから」
「ケーテもモルスも無理に誘ったらだめだ。逆に気を遣うかもしれないだろ」
「そうであったか……」「すみません」
慌てた様子で若い獣人が言う。
「そんな、そんなことはないです。ではお言葉に甘えて……」
「それがよいのである!」
そして、俺たちは食堂に到着した。