目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

214 鈴の音

 俺の手からパンを食べまくっているゲルベルガさまを見て、ダントンが心配そうに言う。


「ゲルベルガさま。足りませんでしたか? すぐにお代わりを持ってこさせますね」

「ココゥ!」


 ゲルベルガさまが強めに鳴いた。

 どういう意味で鳴いたのか、わからなくてダントンが一瞬動きを止めた。

 そして、ルッチラをちらりと見る。それを受けてルッチラがほほ笑んだ。


「足りていますよ。ねっ、ゲルベルガさま」

「ここぅ」

 ゲルベルガさまは、「うんうん」と伝えるかのように首を上下に動かした。


「ロックさんがくれるからうれしくなって食べてるだけですよ」

「そ、そうか。食べ過ぎになったらまずいか。夜ご飯を食べられなくなったら困るしな」

「こぅ?」


 俺はゲルベルガさまにパンをあげることを控えることにした。

 ゲルベルガさまは、俺の髪の毛の中に頭を突っ込んだ。


 一方、やっとガルヴも食べ終わったようだ。俺のひざの上にあごを乗せる。


「ふー、くぅん」

 尻尾を振って、何か食べ物をくれるのを待っているようだ。


「ガルヴ。大人しくしときなさい」

「くぅーん」


 食べたそうに上目遣いで見てくるが、俺はやらない。

 もうガルヴはご飯を食べたのだ。

 ガルヴはただの狼ではなく霊獣狼なので、人間の食べ物を食べても害はない。

 だが、我慢することも覚えさせた方がいいだろう。

 ご飯はやらずに頭だけ撫でておいた。


 すると、ダントンがはっとしたように言う。


「大事なことを聞いていなかったな。魔道具ができたというのは本当なのか? いや疑ってはいないが……」

「ああ、完成した。モルスとケーテの能力が高かったからな」

「いえ! ロックさんのおかげです」

「そうなのである」


 互いに互いの能力を褒めあうということを、もう一度繰り返してから、ダントンに言う。


「とりあえず完成したのは一つだけだ。この屋敷の入り口に取り付けさせてくれないか?」

「それは、こちらからお願いしたいところだ」

「助かる」


 そして俺はダントンに魔道具の性能を説明する。

 半径が人の身長の五倍程度。察知対象は昏き者どもすべて。

 察知すれば鈴のような音が鳴る。その程度の軽い説明だ。


「昏き者どもを、すべて察知してくれるのか」

「ああ、魅了された者だけ察知できればいいのはわかるんだが、逆に難しくてな」

「なるほど。魅了以外も察知してくれる分には助かる」


 俺たちが昼食を食べ終わると、ダントンは族長たちを呼んできた。

 族長が全員揃ったところで、俺は改めて説明した。

 説明の最後に、配備予定を教える。


「今はまだ一つしかありませんが、すぐに量産できるでしょう」

「二、三日中には全部族に配れるはずであるぞ!」


 ケーテがそういうと、族長たちからお礼を言われる。

 その後、族長のなかでも特に若い一人がすっと手を挙げた。


「あのロックどの、質問があるのですが……」

「なんでしょうか?」

「音が鳴るというのは、どのような音が鳴るのですか?」

「えっとですね……」


 ——リリリリリリリリリ


「ちょうどこんな感じの音なのである! な、ロック」

 ケーテが笑顔でそういった。


「その通りだ!」

 返答と同時に俺は肩の上に乗っていたゲルベルガさまを懐の中に入れて、走り出す。


 部屋を出る直前、族長たちに向けて言う。


「子供たちをお願いします!」

「お任せを!」


 さすがは歴戦の勇士ぞろいの族長たちだ。事態を正確に把握している。

 だが、 ルッチラとケーテは驚いていた。


「ロ、ロックさん?」

「どうしたのだ?」


 俺はそれには答えず、魔道具のある部屋へと走る。説明する暇を惜しんだのだ。

 モルスは素早く動き、俺の後をついてくる。


「侵入者ですね」

「ああ」


 モルスの言葉に、一言だけ返答して俺は走った。

 モルスのさらに後ろからはガルヴが走ってついてきた。


 魔道具を製作していた部屋は、ダントンの屋敷の隅にある窓のない部屋だ。

 製作の都合上、日光のはいらない部屋を選んでもらったのだ。

 結果として、侵入しにくい構造の部屋となっている。


 あっという間に部屋につく。 魔道具が鳴ってから十秒もたっていない。

 だが、部屋の中には誰もいなかった。


「逃げられたか?」

「ですが、壁に穴もありませんし」

「ガルヴ臭いをかいでくれ」

「ガウ」


 臭いをかぎ始めたガルヴとモルスに調査を任せて、俺は魔道具を調べる。

 魔道具は壊されていた。力任せに壊したといった感じだ。

 鳴った音を止めるために破壊した。そんな印象を受けた。

 一応、魔道具を魔法の鞄に放り込んでおく。


「どうしたのであるか?」

 遅れてやってきたケーテがのほほんとした様子でいう。ルッチラは来ていない。

 子供たちを頼んだ族長たちに、子供ということで保護されているのだろう。


「昏き者どもが侵入した。魔道具も壊されたようだ」

「なんと! ここは狼の獣人族の屋敷であるぞ?」

「そうだな。ゆゆしき事態だ」


 狼の獣人族の族長の屋敷。つまりは対ヴァンパイア戦最後の砦だ。

 そこに侵入してくるとは、大胆不敵と言わざるを得ないだろう。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?