俺はダントンの屋敷に戻る前にガルヴを撫でることにした。
「偉かったな、大活躍だ」
「がう!」
ガルヴの尻尾がビュンビュン揺れた。
「だが、危ないから、気を付けないとだめだからな」
「ががう!」
「本当に無茶はするな」
「がう?」
ガルヴは理解したのかしてないのか、首をかしげていた。
あとで、もう一度諭した方がいいかもしれない。
それから俺はゲルベルガさまに語り掛ける。
「ゲルベルガさま、大丈夫か?」
「ここぅ」
ゲルベルガさまは、俺の懐でずっと大人しくしていた。
「ゲルベルガさまにはレイスは見えたか?」
「こぅ」
ゲルベルガさまの返事では見えたかわからなかった。
見えていたとしてもおかしくはない。
その後、俺たちはダントンの屋敷に向かって歩いて戻る。
ケーテが歩きながら、ガルヴを撫でる。
「ガルヴには、ダークレイスが見えていたようであるな」
「そうだな。狼の獣人族は気づかなかったようだし、霊獣狼の特殊能力だろう」
「ガルヴの牙と爪が通じていたのも驚きです」
モルスの言うとおりだ。基本レイスには物理攻撃は通じない。
俺の使う魔神王の剣やエリックの聖剣、ゴランの魔法の剣なら通じるだろう。
水竜の王太女リーアから、俺と族長たちがもらった短剣も通じるはずだ。
だが、普通の剣はレイスにもダークレイスにも通じない。
「シアやセルリスの剣は通じるのだろうか……」
「微妙なところであるな」
シアの剣はヴァンパイアロード第六位階から奪った剣だ。
そして、セルリスの剣はヴァンパイアハイロードから奪った剣である。
耐久度も切れ味も素晴らしい剣だ。普通の剣ではない。
だが、レイスに通じるかは別問題だ。
「改めて二人の剣に魔法をかけるべきかもしれないな」
「それがいいと思うのである」
モルスは真剣な表情で言う。
「ですが、セルリスさんたちの剣も普通の剣ではないですよね」
「そうだろうな。ヴァンパイアロードやハイロードから奪った剣だからな」
「すでに魔法がかかっているのならば……。魔法を加えるのは難度が高いかもしれません」
確かにそうだ。だが、ケーテとモルスの協力があれば何とかなるだろう。
「モルス。ケーテ。その際は協力を頼む」
「はい、お任せください」
「任せるのである!」
「とはいえ、シアたちにはレイスが見えないし、気づけない。それが問題だな」
「そうであるなー」
そんなことを話していると、モルスが少し考えてから言う。
「レイス戦用の魔道具を開発するしかないかもしれませんね」
「そうだな。今回作った探知の魔道具を応用すれば何とかなるか」
「携帯可能にするために小型化しないといけないのが大変ですが……」
「結構難しいのである。近くにいるというのが判断できるだけではだめなのだからな」
「うーむ。確かにな」
ダークレイスと戦うには位置を特定できなくてはならない。
そのような機能は今回作った魔道具にはないのだ。
「ううむ……厄介かもしれないな」
「そうであるなー」
そんなことを話していると、ダントンの屋敷に到着する。
俺の空けた壁の穴が目に入る。まずはあの穴から修繕しなければなるまい。
俺たちは壁の穴から入って、ダントンたちの待つ食堂へと移動する。
シア、ニア、セルリス、ルッチラや子供たちも食堂に集まっていた。
非常時ということで、子供たちを集めて守っていたのだろう。
「ロック! どうだった?」
「侵入者は退治したが……壁に穴をあけてしまった」
「壁の穴など気にするな」
俺はルッチラにゲルベルガさまを丁寧に両手で手渡す。
「非常時ゆえ、俺と一緒にいた方が安全かと思ってな。ついてきてもらった」
「はい。わかっています。配慮ありがとうございます」
「ここ」
ルッチラはゲルベルガさまを胸に抱いてやさしく撫でた。
俺はダントンや族長たちに向けて言う。
「話さなければならないことがありますが……。壁の穴をふさいでからにしましょう」
「ロック。それは敵の侵入を警戒してのことか?」
「そういうことだ」
壁をすり抜けるダークレイスが相手では壁があっても意味がない。
とはいえ、敵はダークレイスだけではないのだ。壁は大切だ。
「とりあえず、応急処置で壁の穴をふさぐつもりだが、いいか?」
「それは、助かるが……。資材があっただろうか……」
「資材については心配するな。俺の屋敷を補修したりした時に使った資材が余っている」
「あたしも手伝うであります」「私も手伝うわね!」
「私も!」「ぼくも!」
シアとセルリス、ニア、ルッチラが手伝いを申し出てくれた。
「魔法も使うのであろう? ならば我も手伝おう」
「私も微力ながらお手伝いさせていただきます」
「それは心強い」
ケーテとモルスも手伝ってくれることになった。
「助かる。じゃあ、シアとセルリスは石の積み上げを頼む。ルッチラとニアはモルタルを頼む」
「「はい!」」
俺は魔法の鞄から資材を取り出し、シアたちと手分けして壁を埋めていく。
なんだかんだで、壁の補修は結構やっている気がする。
ダントンも手伝おうとしてくれたが、慣れている俺たちに任せてもらった。