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222 出発しよう

 狼の獣人族の族長の屋敷に魔道具を設置して回るのはとても大切だ。

 なるべく急いだほうがいいだろう。

 だが、三人がかりでダントンの屋敷の魔法を強化してから出発してもいい。

 そうすれば、三人でほかの族長の屋敷も強化できる。


 俺はそんなことをみんなに言ってみた。

 だが、モルスは首を振る。


「いえ、皆さまケーテ陛下の背中に乗っていかれるのでしょう?」

「そのつもりだが……」

「私は陛下の背に乗るわけにはいきませんので」

「む? 我はまったく気にしないし、構わぬぞ?」

「いえ、さすがに……。私が陛下の背に乗るのは不敬が過ぎましょう」


 モルスはそういって深く礼をする。

 竜の文化は知らないが、そういうものらしい。


「ケーテは気にしないって言ってるんだから、いいんじゃないか?」

「いえ、そういうわけにはまいりませぬ」

「そうか」


 竜の文化的には、王の背に乗るというのは、ものすごいことなのだろう。

 それでも、俺が強くお願いすれば、ケーテの背に乗ってくれるかもしれない。

 だが、竜の文化を知らない俺が、竜のモルスに強要すべきではないだろう。


「まあ、気持ちはわからなくもないのである。ではモルスは留守番しておくがよい」

「承知いたしました」


 ケーテがそういうと、再びモルスは深々と頭を下げた。


「じゃあ、モルス、ダントンの屋敷の強化は任せた」

「はい、お任せください」


 そして、俺はダントンに言う。


「獣人族の族長の屋敷がどこにあるのか知っている者に案内を頼みたいのだが……」

「おお、そうだな。少し待っていてくれ」

 そういってダントンはシアを呼んでくる。ニアとセルリスもやってくる。全員汗だくだ。


「シアに案内させよう」

「あたしに任せて欲しいであります!」


 汗だくのシアが笑顔でそういった。

 おそらく、セルリスとニアや子供たちと今まで訓練を続けていたのだろう。

 それをみていた、ケーテが真剣な表情を見せる。


「むむう。シアたちはいったん風呂に入ったほうがいいのである」

「大丈夫であります!」


 元気に返事をするシアにケーテは冷静に言う。


「いや、上空は寒いのである。それに急いで飛ぶゆえ、風もあるのである」

「風呂はともかく、汗は拭いて着替えた方がいいな。体が冷えるのはよくない」


 ケーテと俺の言葉で、シアたちは納得したようだった。

 シアたちは自室へと走っていった。そしてすぐに戻ってきた。

 汗を拭いて着替えてきたらしい。


「お待たせしたであります」

「ほかの族長の屋敷を見るのは楽しみだわ!」


 セルリスも当然ついてくるつもりらしい。別に断る理由はない。


「魔道具を設置して回るだけだから、楽しいことはないかもしれないが……」

「そんなことないわ! 屋敷の場所を知っておくのも、将来的に役に立つかもだし」


 狼の獣人族の族長の屋敷はヴァンパイアとの戦いの最後の砦になりうる場所だ。

 知っておいて損はない。


「じゃあ、みんなで行くか。ケーテ頼む」

「わかったのである。少し待つのであるぞ」


 そういって、ケーテは走っていった。

 竜形態に戻る際、服を脱ぐので、外の物陰に向かったのだろう。

 俺たちもダントンの屋敷を出て、ケーテを待つ。


 すると少し離れたところに、竜形態のケーテが現れた。


「すっごーい」「かっけー」

 訓練していた子供たちが、ケーテを見て大喜びする。

 やはり、竜形態のケーテは子供に人気らしい。


「待たせたのである!」

「きゃっきゃ」「わーい」


 戻ってきたケーテに子供たちがまとわりつく。


「こらこら、子供たち。歩きにくいではないか」

 そう言いつつも、ケーテの尻尾は嬉しそうに上下に揺れる。


「……いいな」

 セルリスがそんなケーテを見てつぶやいた。

 子供に人気のケーテがうらやましいのだろう。


「こらっ! ケーテさんの迷惑であります!」

「そうだぞ、お前たち、邪魔しないで大人しくしときなさい」


 シアとダントンに軽く叱られて、子供たちはケーテから離れる。

 ケーテは少し寂しそうだった。


「待たせたのである。我の背中に乗るがよいぞ」

「おう、助かる。ガルヴはどうする? お留守番していてもいいが……」

「ガウガウ!」


 ガルヴは置いていかれてたまるかとばかりにケーテの背に素早くぴょんと飛び乗った。

 ケーテが楽しそうに言う。


「お、我が背中への一番乗りはガルヴであるか」

「がう!」

「ゲルベルガさまは俺の懐に入っていてくれ。ケーテが飛ぶと向かい風が強いからな」

「ここ」


 俺の言葉を聞いて、ゲルベルガさまは俺の懐に入ってくれた。

 そして、俺たちは順にケーテの背に乗っていく。

 ルッチラは俺が抱えて背にのぼり、シア、ニア、セルリスは自力でのぼる。


 全員が背に乗ったのを確認すると、ケーテは一気に空へと上がる。


「ケーテさん、一番近いのはあっちの方角で……」

「あれであるな。我の目には見えているのであるぞ!」


 そういって、ケーテはすぐに移動を開始する。


「ケーテは目がいいんだな」

「当然である。高く飛んで空から地上を眺めていると、目がよくなるものである」

「そういうものか。まあ、鷹とかも目がいいっていうもんな」

「うむ」


 ケーテは飛びながら嬉しそうに尻尾を揺らした。

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