目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

223 屋敷に魔法をかけよう

 さすがにケーテはとても速い。あっという間に到着した。

 ケーテがゆっくりと降りていくと、数十人の獣人族に出迎えられた。

 おそらくダントンが事前に連絡してくれたのだろう。

 狼の獣人族の族長たちの間には、連絡できるよう通話の腕輪が配られているのだ。


 昨夜別れたばかりの族長が駆け寄ってくる。


「ロックさん、みなさん、よくぞおいでくださいました」

「魔道具ができたので設置しに来ました」

「なんと。早いですね」 


 そして、俺はケーテに言う。


「ケーテ。竜形態のまま待っていてくれ」

「わかったのである」

「屋敷の中央はどのあたりになりますか?」

「こちらになります」


 俺はケーテを置いて、屋敷の中を案内してもらう。

 設置する前に屋敷中をルッチラと一緒に魔法で探査しておく。


「不審な魔道具などは見つからなかったです。ロックさんはどうですか?」

「俺も見つけられなかった」

「なら、安心ですね!」


 それから魔道具を設置する。設置には少し人手がいるので、シアたちにも手伝ってもらう。

 魔道具の設置を手伝うことで、魔道具への知識も深まるだろう。

 それは、戦士であっても、冒険者をする以上、マイナスにはなるまい。


「ロックさん、こんな感じでいいでありますか?」

「ああ、シアのやつはそれでいい。助かる」

「こうすればいいのね?」

「うむ、セルリスもそんな感じだ」

「ロックさん、できました」

「ニアは手際がいいな」


 やはり、ニアはルッチラと一緒にフィリーの手助けをしているだけのことはある。

 シアたちに手伝ってもらって設置を終わらせると、魔道具を起動する。


「これで、屋敷に昏き者が近づけば音が鳴ります。鳴る音は、ダントンの屋敷で聞いたあの音です」

「ありがとうございます」


 それから族長へ効果範囲や、侵入を防げる昏き者の強さなどの細かい説明などを済ませた。

 そして、俺たちはケーテの元に戻る。


「ぎゃっぎゃっぎゃ! もっと角度をつけてやるのである!」

「わーいわーい」


 ケーテと子供たちが遊んでいた。この部族でもケーテは子供に人気者のようだ。

 ケーテは頭を下げて、尻尾を緩やかに上げている。

 そんなケーテを子供たちは頭から尻尾の方へとよじよじ登っていた。


「こ、こら、お前たち、風竜王陛下になんてことを……」


 族長は慌てているので、とりなすことにする。

 後で子供たちが怒られたら可哀そうだ。


「ケーテも喜んでいるみたいですし、大丈夫ですよ」

「そうなのでしょうか」

「うむ、気にしなくていいのである! ぎゃっぎゃっぎゃ」


 そういって、ケーテは笑う。そして、子供たちをまとわりつかせながらこっちに来た。


「もう終わったのであるか?」

「設置は終わった。後は屋敷の壁の強化だな」

「それは我も手伝えるな。天井は任せるがよい」

「頼む。俺とルッチラは床に魔法をかけて回ろう。外壁は先に終わったほうがやることにしよう」

「わかったのである!」


 俺たちはそれぞれ作業に入る。俺はルッチラと一緒に床に強化魔法をかけていった。

 それが終わって、屋敷を出ると、

「子供たち、見ておくがよいのである」

「うん!」

「こうやって、こうじゃ!」

「すげー光った!」

 ケーテが、子供を背にのせて、屋根に魔法をかけていた。

 子供たちも大喜びしている。

 魔法はしっかりかけているようだが、子供たちに説明しているせいでゆっくりだ。


「……ルッチラ。壁は俺たちの方でやっておこう」

「そうですね。ぼくもそれがいいと思います」


 そして、俺とルッチラは壁にも魔法をかけていく。

 その間もケーテは大人気だ。子供たちの歓声が聞こえてくる。


「がうがう!」

 ガルヴも興奮気味に、空飛ぶケーテの下を走りまわる。

 子供たちとケーテの楽しそうな声を聞いて、楽しい気分になったのだろう。


「ガルヴも乗りたいのであるか?」

「ガウ!」

 ケーテはガルヴをつかんで背にのせた。

 少し前にケーテに怯えていたのが、嘘のようだ。


 楽しそうなケーテたちの様子を見ながら、俺とルッチラは淡々と魔法をかけていく。


「屋根に魔法をかけ終わったのである! ロック、確認して欲しい!」

「ちょうど、こっちも終わったところだ。ケーテのかけた魔法だから大丈夫だろうが……」


 俺とルッチラは一緒にケーテに手でつかんでもらって屋根にあげてもらった。


「ルッチラ、どう思う?」


 俺は徒弟への魔法教育も兼ねて、あえてルッチラに尋ねる。

 ルッチラは真剣な表情でケーテのかけた魔法を調べて言った。


「しっかりかけられていると思います。ロックさんはどう思いますか?」

「そうだな。素晴らしい出来だ」

「そうであるかー。安心したのである」


 ケーテがほっとした声を出すと、その背中に乗っている子供たちが歓声を上げる。


「さすが、ケーテさまだね!」「うん! すごいよ!」

「がうがう!」

「そうであろうそうであろう!」


 ケーテは嬉しそうだ。尻尾もゆっくり揺れていた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?