さすがにケーテはとても速い。あっという間に到着した。
ケーテがゆっくりと降りていくと、数十人の獣人族に出迎えられた。
おそらくダントンが事前に連絡してくれたのだろう。
狼の獣人族の族長たちの間には、連絡できるよう通話の腕輪が配られているのだ。
昨夜別れたばかりの族長が駆け寄ってくる。
「ロックさん、みなさん、よくぞおいでくださいました」
「魔道具ができたので設置しに来ました」
「なんと。早いですね」
そして、俺はケーテに言う。
「ケーテ。竜形態のまま待っていてくれ」
「わかったのである」
「屋敷の中央はどのあたりになりますか?」
「こちらになります」
俺はケーテを置いて、屋敷の中を案内してもらう。
設置する前に屋敷中をルッチラと一緒に魔法で探査しておく。
「不審な魔道具などは見つからなかったです。ロックさんはどうですか?」
「俺も見つけられなかった」
「なら、安心ですね!」
それから魔道具を設置する。設置には少し人手がいるので、シアたちにも手伝ってもらう。
魔道具の設置を手伝うことで、魔道具への知識も深まるだろう。
それは、戦士であっても、冒険者をする以上、マイナスにはなるまい。
「ロックさん、こんな感じでいいでありますか?」
「ああ、シアのやつはそれでいい。助かる」
「こうすればいいのね?」
「うむ、セルリスもそんな感じだ」
「ロックさん、できました」
「ニアは手際がいいな」
やはり、ニアはルッチラと一緒にフィリーの手助けをしているだけのことはある。
シアたちに手伝ってもらって設置を終わらせると、魔道具を起動する。
「これで、屋敷に昏き者が近づけば音が鳴ります。鳴る音は、ダントンの屋敷で聞いたあの音です」
「ありがとうございます」
それから族長へ効果範囲や、侵入を防げる昏き者の強さなどの細かい説明などを済ませた。
そして、俺たちはケーテの元に戻る。
「ぎゃっぎゃっぎゃ! もっと角度をつけてやるのである!」
「わーいわーい」
ケーテと子供たちが遊んでいた。この部族でもケーテは子供に人気者のようだ。
ケーテは頭を下げて、尻尾を緩やかに上げている。
そんなケーテを子供たちは頭から尻尾の方へとよじよじ登っていた。
「こ、こら、お前たち、風竜王陛下になんてことを……」
族長は慌てているので、とりなすことにする。
後で子供たちが怒られたら可哀そうだ。
「ケーテも喜んでいるみたいですし、大丈夫ですよ」
「そうなのでしょうか」
「うむ、気にしなくていいのである! ぎゃっぎゃっぎゃ」
そういって、ケーテは笑う。そして、子供たちをまとわりつかせながらこっちに来た。
「もう終わったのであるか?」
「設置は終わった。後は屋敷の壁の強化だな」
「それは我も手伝えるな。天井は任せるがよい」
「頼む。俺とルッチラは床に魔法をかけて回ろう。外壁は先に終わったほうがやることにしよう」
「わかったのである!」
俺たちはそれぞれ作業に入る。俺はルッチラと一緒に床に強化魔法をかけていった。
それが終わって、屋敷を出ると、
「子供たち、見ておくがよいのである」
「うん!」
「こうやって、こうじゃ!」
「すげー光った!」
ケーテが、子供を背にのせて、屋根に魔法をかけていた。
子供たちも大喜びしている。
魔法はしっかりかけているようだが、子供たちに説明しているせいでゆっくりだ。
「……ルッチラ。壁は俺たちの方でやっておこう」
「そうですね。ぼくもそれがいいと思います」
そして、俺とルッチラは壁にも魔法をかけていく。
その間もケーテは大人気だ。子供たちの歓声が聞こえてくる。
「がうがう!」
ガルヴも興奮気味に、空飛ぶケーテの下を走りまわる。
子供たちとケーテの楽しそうな声を聞いて、楽しい気分になったのだろう。
「ガルヴも乗りたいのであるか?」
「ガウ!」
ケーテはガルヴをつかんで背にのせた。
少し前にケーテに怯えていたのが、嘘のようだ。
楽しそうなケーテたちの様子を見ながら、俺とルッチラは淡々と魔法をかけていく。
「屋根に魔法をかけ終わったのである! ロック、確認して欲しい!」
「ちょうど、こっちも終わったところだ。ケーテのかけた魔法だから大丈夫だろうが……」
俺とルッチラは一緒にケーテに手でつかんでもらって屋根にあげてもらった。
「ルッチラ、どう思う?」
俺は徒弟への魔法教育も兼ねて、あえてルッチラに尋ねる。
ルッチラは真剣な表情でケーテのかけた魔法を調べて言った。
「しっかりかけられていると思います。ロックさんはどう思いますか?」
「そうだな。素晴らしい出来だ」
「そうであるかー。安心したのである」
ケーテがほっとした声を出すと、その背中に乗っている子供たちが歓声を上げる。
「さすが、ケーテさまだね!」「うん! すごいよ!」
「がうがう!」
「そうであろうそうであろう!」
ケーテは嬉しそうだ。尻尾もゆっくり揺れていた。