俺たちが十体のダークレイスをすべて倒すのとほぼ同時に族長が走って屋敷から出てきた。
屋敷の奥から駆け付けたのなら、このぐらいかかる。
「ロックさん! なにごとですか?」
「ダークレイスの襲撃です。討伐したのでご安心ください」
「……お役に立てず申し訳ない」
「いえ、お気になさらず」
屋敷の中から走ってきた族長が間に合わないぐらい素早く倒せたのだ。
逆に言えば、良い動きができたといっていいだろう。
ケーテが羽をバサバサさせ、尻尾を振りながら、俺たちのところに飛んでくる。
「ちょうど、我の作業も終わったのである」
「これで再び襲撃があっても、屋敷の中にいればひとまずは安心です」
ケーテは右手にルッチラをやさしくつかんでいた。
「ケーテさんもルッチラさんも、ありがとうございます」
族長が丁寧に頭を下げる。
「いえいえ、そんな! ぼくはただお手伝いしただけですから」
ケーテにつかまれたままのルッチラが空中で頭を下げた。
「ココ!」
そんなルッチラに向けて、俺の懐の中のゲルベルガさまは大きな声で鳴いた。
頑張ったとねぎらっているに違いない。
こちらでの戦闘が終わったことにセルリスたちも気が付いたのだろう。
「こっちは終わったわ! そっちはどうかしら?」
大きな声でこちらに呼びかけてきた。徒歩で三百歩ほど離れているので大声だ。
「きちんとすべてのレッサーヴァンパイアを仕留めたでありますよ」
そう言ったシアもどこか自慢げだ。尻尾が元気に揺れている。
俺は戦闘中からずっと魔力探知を使い続けている。それゆえ向こうの状況も把握している。
俺たちがダークレイスを倒しきる前に、セルリスとシアはレッサーをすべて討伐していた。
いくらレッサー相手とはいえ、とても手際のよい討伐と言っていいだろう。
「ありがとう。シア、セルリス。こっちも終わったところだ」
「死体を処理したら、すぐそっちに戻るわね」
「いや、処理は一緒にやろう。すぐに行く」
そう返答したとき、俺は戦闘前には気付かなかった小さな魔力反応に気がついた。
一瞬レッサーヴァンパイアの魔石の反応かと思ったが、それにしても反応が小さい。
レッサーは弱い魔物だ。だが、それは他のヴァンパイアと比べての話。
魔物一般の中では強力な部類に入る。魔石もそれなりに大きく魔力含有量も多い。
それにレッサーヴァンパイアの死骸に残った魔力反応とも違うように思う。
「ケーテ、あれはなんだ?」
そう、尋ねつつ急いで俺は魔力探査を開始した。
魔力を持つものを探すだけの魔力探知と違い、どのようなものか調べるのが魔力探査だ。
「あれとはなんであるか?」
「あれとはいったい?」
そう言いつつも、ケーテとルッチラが魔力探知と魔力探査を開始してくれる。
ケーテはともかく、ルッチラまで同時行使できるようだ。成長著しい。
「念のために屋敷の中で防衛に徹して、襲撃に備えてください」
「はい。わかりました。お気をつけてください」
そう族長に呼びかけてから、俺は走る。ニアとガルヴ、ケーテとルッチラもついてくる。
ちなみにケーテはまだルッチラを右手でつかんだままである。
「なにかあったのでしょうか?」「がうー」
ニアとガルヴが走りながら心配そうに言う。
「弱い魔力反応を感知したんだ。調べておこうと思ってな」
「そうでしたか。油断できないですね」「がう!」
ニアとガルヴは気合充分だ。疲れているはずなのに、大したものである。
魔力探知と魔力探査をしながらルッチラが言う。
「ぼくには何のことかわからないです。その反応というのはどのあたりでしょう?」
「む? あれか? あれのことであるか?」
優秀な魔導士であるルッチラでも気づけないレベルのかすかな反応だ。
だが、風竜王ケーテは気づいてくれたようだ。
「うーむ。だがロック。反応が微弱すぎるのである。魔石のかけらとかではないか」
「それとは違う反応だ。微弱すぎるのが逆に怪しい。隠ぺいされている恐れがある」
「ふむ?」
ケーテはまだ釈然としていないようだ。俺の心配しすぎだと思っているのかもしれない。
杞憂だったということで済むならば、それが一番だ。
「では、先に我は行って調べておくのである」
「頼む」
「ひああああああ」
ケーテは一気に加速する。びっくりしてルッチラが悲鳴をあげた。
俺はニアがついてこれる速さで走って向かう。
「ケーテ、どうしたの? そんなに急いで」
「もうレッサーヴァンパイアは全部倒したでありますよ?」
レッサーの死骸を解体して魔石を取り出していたセルリスとシアが怪訝な表情を浮かべる。
「ロックがな、微弱で怪しい魔力反応を見つけたのである」
「怪しい魔力反応? 魔石とかじゃなくて?」
「ロックは違うといっておったのだ」
「それなら違うでありますよ。セルリス、警戒した方がよいかもしれないであります」
「そ、そうね!」
レッサーヴァンパイアの死骸処理を中止して、セルリスとシアは身構える。
そして、ケーテとルッチラは近くで調査を開始した。