ケーテが、魔力反応のあった個所を指さしながらルッチラに言う。
「ルッチラ。あの辺りなのである」
「あ、さすがにここまで近づいたら、ぼくにもわかります」
「それは何よりである」
そしてケーテとルッチラは魔力探査をしながら、その場所を直接調べる。
「うむぅ。これであろうか?」
「そうですね。でも、これって何でしょうか?」
「……わからぬ。魔道具かもしれぬ。ロックが到着するまで触れるのはやめておこう」
「そうですね……。あれ? こっちにも怪しい反応がありますよ?」
ルッチラは別の何かを見つけて指をさして、セルリスが怪訝な表情になる。
「ルッチラ、それはレッサーヴァンパイアの死骸よ?」
「それはわかっているのですが、死骸の中から何か怪しい反応があるような……」
「解体してみるであります?」
シアが解体用ナイフを片手に近づこうとするのをケーテが止める。
「シア、ロックが到着するまで待つべきであるぞ」
「それもそうでありますね」
そして、少し離れた位置から、ケーテとルッチラは死骸の調査を始める。
「確かに、ルッチラの言う通りである」
「ですよね。死骸の中にあることに加えて、隠ぺい魔法も厳重です」
「ものすごく怪しいのである」
ケーテたちがそんな話をしているところに、俺とニア、ガルヴは到着する。
「怪しいものは二つか」
「うむ。ロックはどう思うのだ?」
「厳重に隠ぺいされているから、怪しいのは確かだな。とりあえずしっかり調べてみよう」
「わかったのだ」
「申し訳ないが、シアとセルリスとニアは、先に怪しくない死骸の処理を進めてくれ」
「わかったわ!」「任せるであります!」「頑張ります」
戦士組に死骸処理を任せると、俺は怪しい死骸と怪しい場所に魔力探査をしっかりかける。
あやしい場所には、こぶし大の球状の物体があった。素材は愚者の石である。
「愚者の石で作られた魔道具に、何重にも隠ぺい魔法をかけているな」
「ロック、何の魔道具であるか?」
「もう少し調べないとわからん」
「ロックでも即座にわからないとは……。ものすごい隠ぺい魔法なのであるな」
俺の横で一緒に調べていたルッチラが言う。
「魔道具であることすら、絶対にばれないようにしていますね」
「我も存在はともかく魔道具であることには、言われない限り気づけなかったと思うのである」
「ぼくは存在にも気づかなかったかも」
存在に気づかなかっただろうという言葉が引っかかった。
風竜王ケーテが魔道具であることに気づかないということは、普通は気づかないということだ。
よほどの高位の魔導士でも気づけないほどの隠ぺい魔法。なぜそこまでして隠したいのか。
俺は慎重に考えて、一つ可能性に思い至った。
皆に説明する前、確認のため一応シアとガルヴ、ニアに聞いてみることにする。
「シア、ガルヴ、ニア。この魔道具からはどんな臭いがしているんだ?」
「かすかではありますが、一応ヴァンパイアの臭いがするであります」
「……がう」「少しします」
「後始末をシアたちだけでやった場合、いつ気付いたと思う?」
「処理を全部終えたあと、念のために調べるときには気づいたと思うでありますよ」
「なるほどな……」
狼の獣人族の集落に攻め込んだレッサーヴァンパイアが持ち込んだものだ。
嗅覚で察知されることは、敵も織り込み済みだろう。
「魔道具であることには気づかせずに、臭いで愚者の石の存在にだけ気づかせたいのか?」
「よくわからないのである。そんなことして何かいいことがあるのであろうか?」
「特にないわよね。魔道具だろうがなんだろうが、愚者の石の時点で詳しく調べられるし」
「確かにそうでありますね。狼の獣人族がわからなくてもどうせばれるであります」
ケーテが少し考えてからこっちを見た。
「ロックはどういうことかわかるであろうか?」
「相手が馬鹿ではないのならば……」
そう前置きして俺は続ける。
相手が馬鹿なら、それに越したことはないが、それを期待するのは油断が過ぎる。
「この魔道具は、調査機関に持ち込まれることを前提にした魔道具なんじゃないか?」
「ふむぅ? なぜそんなことを?」
「可能性はいろいろあるが、諜報を重視しているのならば……」
ダークレイスは諜報にたけている魔物だ。
そのダークレイスがメインで攻めてきている以上、諜報に狙いがあると考えるのが妥当だろう。
「もしかして、盗聴機能があったり、位置を特定する機能がある魔道具なのでありますかね?」
「シアの言うとおりだ。その可能性は高い」
調査機関がどこに置かれているかという情報はとても重要だ。
諜報戦に勝利するために、敵が知りたいと思っても当然だ。
調査機関に持ち込まれるまでの間、魔道具の周りでの会話を聞けるだけでもいいだろう。
それを考えると、うかつに話し過ぎた気がしなくもない。
相手に情報を与えてしまった可能性がある。
『ということで、しゃべりすぎたな。以降は
『了解であります』
『わかったのである』
『わかりました』「ここ」
シア、ケーテ、ルッチラ、ゲルベルガさまが返事をしてくれた。