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228 謎の魔道具

 ケーテが、魔力反応のあった個所を指さしながらルッチラに言う。


「ルッチラ。あの辺りなのである」

「あ、さすがにここまで近づいたら、ぼくにもわかります」

「それは何よりである」


 そしてケーテとルッチラは魔力探査をしながら、その場所を直接調べる。


「うむぅ。これであろうか?」

「そうですね。でも、これって何でしょうか?」

「……わからぬ。魔道具かもしれぬ。ロックが到着するまで触れるのはやめておこう」

「そうですね……。あれ? こっちにも怪しい反応がありますよ?」


 ルッチラは別の何かを見つけて指をさして、セルリスが怪訝な表情になる。


「ルッチラ、それはレッサーヴァンパイアの死骸よ?」

「それはわかっているのですが、死骸の中から何か怪しい反応があるような……」

「解体してみるであります?」


 シアが解体用ナイフを片手に近づこうとするのをケーテが止める。


「シア、ロックが到着するまで待つべきであるぞ」

「それもそうでありますね」


 そして、少し離れた位置から、ケーテとルッチラは死骸の調査を始める。


「確かに、ルッチラの言う通りである」

「ですよね。死骸の中にあることに加えて、隠ぺい魔法も厳重です」

「ものすごく怪しいのである」


 ケーテたちがそんな話をしているところに、俺とニア、ガルヴは到着する。


「怪しいものは二つか」

「うむ。ロックはどう思うのだ?」

「厳重に隠ぺいされているから、怪しいのは確かだな。とりあえずしっかり調べてみよう」

「わかったのだ」

「申し訳ないが、シアとセルリスとニアは、先に怪しくない死骸の処理を進めてくれ」

「わかったわ!」「任せるであります!」「頑張ります」


 戦士組に死骸処理を任せると、俺は怪しい死骸と怪しい場所に魔力探査をしっかりかける。

 あやしい場所には、こぶし大の球状の物体があった。素材は愚者の石である。


「愚者の石で作られた魔道具に、何重にも隠ぺい魔法をかけているな」

「ロック、何の魔道具であるか?」

「もう少し調べないとわからん」

「ロックでも即座にわからないとは……。ものすごい隠ぺい魔法なのであるな」


 俺の横で一緒に調べていたルッチラが言う。


「魔道具であることすら、絶対にばれないようにしていますね」

「我も存在はともかく魔道具であることには、言われない限り気づけなかったと思うのである」

「ぼくは存在にも気づかなかったかも」


 存在に気づかなかっただろうという言葉が引っかかった。

 風竜王ケーテが魔道具であることに気づかないということは、普通は気づかないということだ。

 よほどの高位の魔導士でも気づけないほどの隠ぺい魔法。なぜそこまでして隠したいのか。


 俺は慎重に考えて、一つ可能性に思い至った。

 皆に説明する前、確認のため一応シアとガルヴ、ニアに聞いてみることにする。


「シア、ガルヴ、ニア。この魔道具からはどんな臭いがしているんだ?」

「かすかではありますが、一応ヴァンパイアの臭いがするであります」

「……がう」「少しします」

「後始末をシアたちだけでやった場合、いつ気付いたと思う?」

「処理を全部終えたあと、念のために調べるときには気づいたと思うでありますよ」

「なるほどな……」


 狼の獣人族の集落に攻め込んだレッサーヴァンパイアが持ち込んだものだ。

 嗅覚で察知されることは、敵も織り込み済みだろう。


「魔道具であることには気づかせずに、臭いで愚者の石の存在にだけ気づかせたいのか?」

「よくわからないのである。そんなことして何かいいことがあるのであろうか?」

「特にないわよね。魔道具だろうがなんだろうが、愚者の石の時点で詳しく調べられるし」

「確かにそうでありますね。狼の獣人族がわからなくてもどうせばれるであります」


 ケーテが少し考えてからこっちを見た。


「ロックはどういうことかわかるであろうか?」

「相手が馬鹿ではないのならば……」


 そう前置きして俺は続ける。

 相手が馬鹿なら、それに越したことはないが、それを期待するのは油断が過ぎる。


「この魔道具は、調査機関に持ち込まれることを前提にした魔道具なんじゃないか?」

「ふむぅ? なぜそんなことを?」

「可能性はいろいろあるが、諜報を重視しているのならば……」


 ダークレイスは諜報にたけている魔物だ。

 そのダークレイスがメインで攻めてきている以上、諜報に狙いがあると考えるのが妥当だろう。


「もしかして、盗聴機能があったり、位置を特定する機能がある魔道具なのでありますかね?」

「シアの言うとおりだ。その可能性は高い」


 調査機関がどこに置かれているかという情報はとても重要だ。

 諜報戦に勝利するために、敵が知りたいと思っても当然だ。


 調査機関に持ち込まれるまでの間、魔道具の周りでの会話を聞けるだけでもいいだろう。

 それを考えると、うかつに話し過ぎた気がしなくもない。

 相手に情報を与えてしまった可能性がある。


『ということで、しゃべりすぎたな。以降は念話テレパシーの魔法で話そう』

『了解であります』

『わかったのである』

『わかりました』「ここ」


 シア、ケーテ、ルッチラ、ゲルベルガさまが返事をしてくれた。

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