ケーテがセルリスとニアを見ながら言う。
『我らはいいのだが、セルリスとニアとガルヴは念話で話すことは出来ないのだ』
セルリスとニアは、ケーテの言葉を聞いて、無言でこくこくとうなずいている。
ガルヴもふんふん鼻を鳴らしていた。ガルヴは元から喋れないので、どっちでもいい。
『そうですね。どうしますか?』
ルッチラが困った表情で聞いてくる。
全員、念話の会話を聞くことは出来る。そしてシア、ケーテ、ルッチラは念話で発話ができる。
だが、セルリスとニアは発話ができない。
『教えておくべきだった。今度教えるって言ったのにな。これが終わったら即座に教えよう』
『それがよいのである。だが、今はどうするのであるか?』
『もし、伝えたいことがあれば手を上げてくれ。筆談か何かしよう』
セルリスとニアとガルヴはこくこくとうなずいた。
『あっと、ちょっと待ってくれ。族長たちにも怪しげな魔道具のことを伝えてくる』
俺はすぐに、魔道具が盗聴器であっても聞こえない程度に距離をとる。
「ダントン、聞こえるか?」
『聞こえる。どうした。随分小声だな』
ダントンの声もかなり小さい。
「詳しい話は後回しにするが、周辺であやしい物体があったら近づかないでくれ」
『わかった。みんなにも伝えようか?』
「頼む。何らかの魔道具かもしれない。ヴァンパイアを倒しても死骸をしばらく放置してくれ」
『了解した』
あとはダントンに任せればいいだろう。
俺は魔道具のもとに戻った。
敵の残した不審な魔力反応は二つだ。
一つは地面に落ちていたこぶし大の謎の魔道具。それは魔道具であることを隠したいらしい。
もう一つは死骸の中に埋め込まれている謎の反応だ。こっちはどういう類だろうか。
『とりあえず、死骸に埋め込まれている反応も調査してみよう』
『わかったのである』
『シア、セルリス、ニアは他のヴァンパイアの処理を続けてくれ』
『わかったであります。とはいえ、もうほとんど終わっているでありますよ』
レッサーヴァンパイアは三体だけ。つまり魔道具が入ってないのは二体。
手慣れた冒険者であるシアたちなら、魔石の取り出しぐらいすぐ終わる。
あとはまとめて燃やすだけだ。
俺は不審な魔力反応のあったレッサーの死骸に近づいて魔力探査を発動する。
なにやらこぶし大の魔道具が体内に入っているようだ。
『取り出してみるか』
『ドキドキするでありますね』
ケーテやシアたちが俺の後ろから興味津々と言った感じでのぞき込んできた。
『あまりみられると緊張するんだが』
『一流冒険者の解体技術を見させてもらうでありますよ!』
そんなことを言われると余計に緊張する。
俺はレッサーヴァンパイアの横隔膜の下あたりから、反応していたものを取り出した。
『地面に落ちてた物より大きいのである』
『そうだな……』
それはこぶし二つ分ぐらいの大きさの球だった。こちらの素材も愚者の石のようだ。
『死体の中に入っているからわかりにくいが……魔道具であることは隠してないな』
『でも解除は難しそうです』
『シア。こっちの魔道具の存在は俺たち魔導士がいなくても気づけたと思うか?』
『そうでありますね……。死骸を処理する際に燃やすでありますからその時には』
死骸を燃やしても、金属でできた魔道具は燃えない。
相手が馬鹿ではないとすると、こちらも存在がばれることを前提にしているようだ。
俺は魔力探査を続けていく。すると魔法陣が中に織り込まれていることが分かった。
なんの魔法陣かは展開してみないとわからない。そして、展開の難度がものすごく高い。
『
『ふむう。展開してみるのであるか?』
『展開させるのが、敵の狙いの可能性もあるから、何とも判断に困るな』
『とはいえ展開させないと調べられないのではないか?』
『それに展開させるのが目的ならこんなに難しくしないとおもいますけど……』
ケーテの指摘もルッチラの指摘も正しい。特にルッチラの指摘は鋭い。
こっちに展開させることで目的を果たしたいのなら難度をもっと下げるはずだ。
『たしかに普通の宮廷魔導士が数年かけても展開できないレベルではあるな』
『そうなると、展開させないことで目的を果たす魔道具と考えた方がいいであります』
『さすがに時間がかかりすぎますし、先にもう一つの魔道具を調べてからにしますか?』
『ロックなら、時間はかからないのである』
なぜかケーテがどや顔をしている。
確かに俺なら時間はかからない。だが、ひとまず両方を調べるのも悪くない。
『そうだな。とりあえず、両方ある程度調べてから取り掛かるか』
地面に落ちていた魔道具も少し詳しく調べることにした。
『こっちも、かなり厳重に機能が隠されているな。とはいえ、さっきの程ではない』
『我でも、こっちなら調べられそうな気がするのである』
『難しいですが、ぼくでもなんとかなるかも』
『お、それならルッチラが解析してみるか?』
『いいんですか?』
ルッチラの目が輝く。魔導士らしい探求心と向上心だ。
難しいことに挑戦したがるのは、魔導士として成長するには必須の性格だ。
『ああ、任せる。何かあっても俺がフォローしよう』
『我もついているから大船に、いや大竜に乗ったつもりでいいのである!』
ケーテの尻尾が、楽しそうにゆらゆら揺れる。
『ありがとうございます』
一礼してルッチラは地面に落ちていた方の魔道具の解析に入る。
『……難しいけど。……あれ? でもこうすれば……。よし』
ルッチラはものすごく集中し独り言をぶつぶつつぶやいている。
解析の難度は高い。
だが、こちらは例えるならば、大量の計算をさせられるような難度だ。
時間さえかければ、宮廷魔導士クラスでも解除できる。
死骸の中に入っていたものとは、根本的に難度の種類が違うのだ。
『うん、いけそうです』
俺が想定していた以上に、ルッチラの処理能力は高い。
ルッチラは処理しながら、処理方法をより効率的にアレンジしはじめた。
俺がルッチラの能力に驚いている間もルッチラは順調に解析していく。
『あ、まず——』
ルッチラが何か言いかけたところで、魔道具が爆発した。