俺はとっさに魔法障壁を展開する。
魔道具の四方を囲んで上部だけはふさがない。爆風を上に逃がすためだ。
俺は、ルッチラの手元を見ながら慎重に観察していた。
だから、爆発するより早く、爆弾であることに気が付いた。
それでも『ルッチラ、解析を止めろ!』というまでの猶予はなかった。
俺にできたのは魔法障壁を展開することぐらいだったのだ。
「死ぬかと思ったのである! なんという威力か……」
ケーテが冷や汗を流しながら言う。
「ああ、俺の障壁が三枚破られて、四枚目もかなりひびが入った」
「なんてことだ。ロックの障壁を三枚も破るとは……」
俺はみんなに声をかける。
「怪我はないか?」
「「……」」
シア、セルリス、ニアは呆然としている。見たところ怪我はないようなので、一安心だ。
それでも、念のためにもう一度尋ねる。
「シア、セルリス、ニア。大丈夫か?」
『だ、大丈夫であります』
シアが念話で話してくる。そして、セルリスとニアは無言でこくりとうなずいた。
声に出して会話をするなという俺の指示を一応守ってくれているのだ。
「もう、普通に話して大丈夫だ」
盗聴機能を疑われていた魔道具は、今さっき爆発したところだ。
少なくとも今は盗聴を気にしなくてもよい。
「怪我はしてないであります」
一応、シアが改めて声に出して無事を報告してくれた。
「あ、はい。ありがとう。私も怪我はないわ」
「怪我はないです」
セルリスもニアも無事なようでよかった。
「ゲルベルガさまとガルヴはどうだ?」
「ここぅ」「がぅ」
ゲルベルガさまは俺の懐の中でプルプルしていたし、ガルヴは尻尾を股に挟んでいた。
あまりの音と光と衝撃に怯えてはいるが、怪我はしていないようだ。
「ルッチラは……」
そして、最も爆弾魔道具の近くにいたルッチラは腰を抜かしていた。
地面が不自然に濡れているが、触れないでおこう。
セルリスがさりげなく、ルッチラを立たせてあげている。
ルッチラの着替えもろもろはセルリスに任せよう。
ケーテが爆心地の方へと首を伸ばして観察を始めたので、俺も隣に行く。
「なんという。なんという威力なのだ」
「本当にすごかったな」
すさまじい威力の爆発だった。
王都で爆発すれば一区画が跡形もなく消し飛んだだろう。
そして、王都中に衝撃波が走り、建物に大小さまざまな損害を与えただろう。
「王宮内で解析していたら……、王宮周辺まるごと吹き飛んでいたかもな」
「それが狙いであろうか……」
「だろうな」
魔道具であることを隠ぺいしつつも、その存在自体は主張していた。
それも調査機関に運び込ませるためだったのだろう。
そして、調査機関の魔導士ならば時間をかければ解析できる難度だった。
「隠ぺいをすべて解除して魔法での解析を開始すると同時に爆発する魔道具か」
「厄介なものを考えるものである」
「ああ。これほどの爆発力を持つ魔道具はそうはないだろうが……」
それでも一つのパーティーを壊滅させる程度の爆弾の製造ならば、さほど難しくない。
敵の魔道具を詳しく調べるのが危険になったということだ。
その時、ルッチラが叫んだ。
「ロ、ロックさん!」
「ああ、気づいている」
「なんと!」
ルッチラの指さす方を見て、ケーテが驚いて身構える。
爆発しなかった方の魔道具、レッサーヴァンパイアの体内に入っていた魔道具が光りはじめた。
「どういうことであるか?」
「自動で展開を開始しているみたいだな」
先ほど俺が解析して、中に魔法陣が折りたたまれていることには気が付いていた。
だが、何の魔法陣かまでは調べることは出来ていなかった。
見る見るうちに魔法陣が展開されていく。とても巨大な魔法陣だ。
「……転移魔法陣だな」
俺がそう言ったのと同時に大量のヴァンパイアが現れた。
その数、優に二十体を超えている。そしてそれだけでは止まらない。
どんどん追加でヴァンパイアが出現し続けている。
「どんどん出てくるのである! 倒すか?」
「当たり前だ。一匹も逃がすな!」
「了解したのである!」
「わかったわ!」「了解であります!」「はい!」
ケーテ、セルリス、シア、ニアが勢いよく返事をすると同時に俺は魔法を使う。
とはいえ、今回は周囲に味方がいるので全力では使えない。
魔法障壁を全員に使いつつ、威力も控えめにする。その上屋外なので効果も落ちる
それでも、今出現していたヴァンパイア全員が凍り付く。
「「「ぎゃああああああ」」」
悲鳴を上げたのは、魔法への抵抗値の高いヴァンパイアロード以上の上位種だ。
アークヴァンパイア以下は、凍り付いて絶命している。
「雑魚は倒した。残りも逃すな」
「任せるのである!」
ケーテは依然として竜形態のままだ。鋭い爪をふるってヴァンパイアロードに襲いかかる。
セルリスたちも剣を抜き、ロードに斬りかかっていった。