俺は改めて全員に向けて言う。
「まずは俺が入る。状況がどうあれ、すぐに連絡する予定だ」
「連絡がなければ、通話の腕輪を使えない状況ということだよな?」
「ゴランの言うとおりだ。その場合は魔法陣を破壊してくれ」
「いや、すぐに増援に向かおう」
エリックが力強く言う。気持ちはありがたいがそれは困る。
「もし即死系トラップがあったら無駄に全滅だ」
「それも、ロックが防げないやつってことだよな。わかった」
エリックはまだ納得していないようだが、ゴランはわかってくれたようだ。
魔法陣から最後に敵が出てきてから十五分は経っている。
いつ、向こうからふさがれてもおかしくはない。ゆっくりはしていられない。
簡単な打ち合わせをした後、すぐに俺は転移魔法陣に飛び込んだ。
視界がぐにゃぐにゃした後、まぶしい光を感じた。
転移先は広くて明るい広間だった。壁も床もきれいな大理石で作られている。
部屋はとても広く、竜形態のケーテでも中で動けるほどだ。
部屋には一つの大きな扉がある。その扉もケーテでも問題なくくぐれるだろう。
そして、アークヴァンパイアが三匹いた。魔神王の剣で素早く首をはねる。
部屋の中にほかに敵がいないことと、トラップの有無を確認するため魔力探知を発動させる。
それと同時に通話の腕輪に小声で話しかける。
「今、魔力探知をかけているところだが、ひとまず危険はなさそうだ」
『……』
返事はないが、耳をすませば息遣いが聞こえる。
エリックたちにはこちら側の状況が詳細にはわからない。
だから、俺は声を出しているとはいえ、念のために声を発しないのだろう。
部屋の中にトラップの存在がないことを確かめて、
「よし、探知が終わった。こっちに来てくれ」
すぐに転移魔法陣が輝いて、こちら側に皆が来る。
『どこに敵の耳があるかわからない。一応念話で会話しよう』
『わかっている。で、ここはどこだ?』
エリックが顔をしかめる。
『立派な大理石で作られた広い部屋。宮殿か城ってところか?』
『そうだとおもうが、我が国にこのような建物はないはずだが……』
ここまで立派な建物であれば、エリックが知っていないとおかしい。
『ということは、他国か?』
『可能性はあるな。面倒なことだが』
エリックは国王。他国に行くとなると、政治的な問題が発生する。
『非常時だから仕方ないだろう』
『そうであります。先に攻撃を仕掛けられたのはこっちでありますからね』
『ま、誰かに会っても正体を明かさなければ問題ねーだろ』
そういってゴランはニコッと笑った。
『さて、ここがヴァンパイアどもの拠点だとして、ボスはいるのか? ロックわかるか?』
エリックに尋ねられて、俺は改めて魔力探知をさらに広範囲にかける。
『そうだな……。いちいち壁に魔法的防御をかけられているから探知が難しいな』
『そこをなんとか頼むぜ』
『簡単に言ってくれるな』
魔法的防御をかけられているということは、魔法探知を察知されるかもしれない。
慎重さと繊細さが求められる。
そして、この場で魔法を使えるのは俺とケーテだけ。俺がやるしかないだろう。
俺が慎重に魔力探知を進めていると、
『まあ、普通に考えていないわけねーよな』
『そうでありますねー』
『ハイロードは転移してきて、ロックに倒されたんだろう? その上がいてもおかしくない』
『そうであるなー』
念話の使えないセルリス以外、みんな自由に念話で会話している。
そしてガルヴは部屋の臭いをかいで回っていた。
『ガルヴ、一応俺のそばにいなさい』
魔力探知しながら、ガルヴに語り掛ける。ガルヴは素直に俺の真横に来てお座りした。
そうこうしているうちに魔力探知が完了する。
魔力探査に切り替えながら、魔力探知でわかったことを皆に報告する。
『建物自体かなりでかいな。種類まではわからないが、人型の魔力反応が多数ある』
『建物の大きさまでわかるのか?』
エリックの問いは当然といえる。魔力探知は魔力を持つものを見つけるものだ。
生物や魔道具の位置と数はわかっても、建物の大きさはわからない。
『壁にいちいち魔力防御をかけてくれているからな。だから分かった』
『なるほどな。その魔法防御の強度はどのくらいなんだ?』
『かなりしっかりしたものだ。だが魔法に対する耐性も物理耐性も高い』
『人型の反応って言うのは、ヴァンパイアでありますかね?』
『いま魔力探査をかけているところだが、ヴァンパイアの可能性は高いだろう』
部屋の中を調べ始めたケーテが言う。
『建物は大きいって、どのくらい大きいのであるか?』
『エリックの王宮より大きいかもしれん』
『ほほう。それはすごいのである』
その時、ふんふん鼻を鳴らしながら、ガルヴが鼻で俺の手をつついた。
俺がガルヴに目をやると、ガルヴはケーテの方を見る。
ガルヴは「ケーテが勝手に歩き回っているけど大丈夫か?」と尋ねているのだろう。
ケーテはガルヴより強い。魔導士としての素養もある。だから、大丈夫だと思う。
だが、群れの仲間を心配するガルヴの心がけは褒めるべきことだ。
だから、俺はガルヴの頭をなでなでしておいた。