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256 みんなで話し合おう

 エリックとゴランの後ろから、ケーテ、ドルゴ、モルスも来ていた。

 水竜のモルスが俺の屋敷に来るのは初めてのことだ。

「おう、みんなよく来た」

「お邪魔させていただいております」

 モルスは恐縮しきっている。

 昨夜別れる前に、俺の屋敷に来るようにお願いしていたので来てくれたのだろう。

「へー。ここが今のロックのお屋敷なのね」

「ママ!」

 セルリスの母、マルグリットまで来ていた。

「マルグリットも来てくれたのか。仕事はいいのか?」

「ここに来るのも、結構重大なお仕事よ」

「そうか。それもそうだな」

 大爆発からの転移魔法という戦術はとても恐ろしい。

 リンゲイン王国駐箚全権大使のマルグリットとしても詳細を知っておきたいのだろう。

 ひとまず、マルグリットに初対面の者たちを紹介していく。

 挨拶がすべて終わった後、なぜか少し照れた様子でミルカが立ち上がる。

「お客さん来たからお茶を淹れてくるぞ!」

「私も手伝います!」

 ミルカの後ろをニアがついて行く。

 俺はそれを見送りながら、皆に尋ねた。

「さすがに、狭いか?」

「そうでもないだろう。この部屋は広い」

 エリックは笑顔だ。

 台所に向かったミルカとニアも入れれば、人と竜だけで十三人。

 それにガルヴ、ゲルベルガさまにタマがいる。

 我が屋敷の広い居間とはいえ、さすがに少しだけ狭く感じなくもない。

 とはいえ、まだまだ余裕はあるのだが。


 少し雑談をしていると、ミルカとニアが戻ってくる。

「お茶だぞ」

「ありがとう」

 お茶を配り終えたミルカを、マルグリットは抱き寄せる。

「セルリスが手紙で教えてくれた通り、とてもかわいいわ」

「……へへ」

 ミルカは照れているようだ。マルグリットに挨拶したときから、ミルカはなぜか、少し照れていた。

「ね? ママ。かわいいでしょ?」

 そしてセルリスはどや顔している。

「ニアちゃんもルッチラちゃんもかわいいわね」

「あ、ありがとうございます」

 ニアの尻尾がバサバサと揺れる。その尻尾にガルヴがじゃれつく。

 ルッチラはマルグリットの言葉に驚いた。

「ぼ、ぼくが女の子だって、どうしてわかったんですか?」

「そりゃあ、わかるわよ。というか、わからない人がいるのかしら?」

 わからなかった俺は気まずくなって、ゴランを見た。

 ゴランもルッチラが女の子だと気付かなかったからだ。

 ゴランはきまりが悪そうにぼそっとつぶやく。

「……まあ、そういうこともあるよな」

「……そうだな」

 俺とゴランはうんうんとうなずきあった。

 一方、マルグリットはミルカをひざにのせて頭を撫でていた。


 皆が落ち着いたところで、もう一度改めて説明する。

 それぞれには一度説明しているが、念のためだ。

「そう、それで王都に持ち込まれたらまずいって話をしてたんだ!」

 力説するミルカの頭を、マルグリットが優しく撫でる。

「ミルカちゃんは賢いのね」

「ミルカはとても頭がいい。だから天才のフィリーに教師になってもらったんだ」

 俺がそう言うと、フィリーはうんうんとうなずいた。

「ミルカはとても筋の良い生徒だ。もちろんニアとルッチラも優秀だ」

「へへへっ!」

 マルグリットだけでなく、先生であるフィリーからも褒められてミルカは照れまくっていた。

 対照的にエリックとゴランは深刻な表情を浮かべている。

「まったくもって、ミルカの言う通り。危険すぎる。王都が半壊しかねん」

 そう言ったのはエリックだ。

「冒険者ギルドとしても対策が難しい。魔道具は冒険者の大好物だからな」

 ゴランの言う通り、冒険の途中で魔道具を見つけて喜ばない冒険者はいない。

 パーティーに魔導士がいるなら、大喜びで即座に魔力探査を用いて鑑定するだろう。

 鑑定が失敗すればよし。何も起きない。だが、成功してしまった場合が問題だ。

 それはつまり優秀な魔導士がいたということなのだが、その優秀なパーティーは全滅する。

 優秀な魔導士のいるパーティーの全滅はギルドにとって大きな損失だ。

 だが、それでもまだ最悪の事態ではない。

「自力で鑑定できなければ、冒険者ギルドか王都の鑑定屋に持ち込むよな」

 俺がそう言うと、ゴランは深くうなずいた。

「そうだ。そして冒険者ギルドか王都の鑑定屋で魔力探査をかけられて……」

 冒険者ギルドの建物や鑑定屋の建物ごと、ドカンと吹き飛ぶというわけだ。

 エリックが腕を組む。

「有効な対策が難しいな」

「魔道具の鑑定場所を王都の外に作るしかないか……」

「だが、冒険者に言うことを聞かせるためには、事情を説明しないといけなくなる」

 ヴァンパイア関連の情報を広く一般に知らせることにはリスクがある。

 人々がヴァンパイアに怯えるだけならまだいい。

 怯えた人間は、昏き者どもにとって格好の餌食だ。

 疑心暗鬼の種をばらまかれ、誰々がヴァンパイアの手先だと噂が立つことも考えられる。

 人と人が殺しあう事態になったら最悪だ。

 フィリーが険しい顔でつぶやく。

「ふーむ。対策を考えねばなるまい」

「フィリー、何か対策する方法あるのか?」

「まだ何とも言えぬ。その魔道具の素材、構造何でもいいから教えてくれぬか?」

「わかりました」

 魔力探査マジック・エクスプロレーションを実行したルッチラは深くうなずいた。

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